【1回表】5球目

菜子は不二家の次女として産まれた。産まれた時に不細工と家族中から心配された話は以前話した通りだが、成長して小学生の時の菜子の顔が私自身の顔と瓜二つなのは驚いた。というのも小学生の時に菜子の小学生時代の写真を発見したのだが、顔はそのまま鏡の中の私だったし、お猿のポーズという私がやりそうな写真の写り方そのものだったのには自分でも引いた。


菜子は表に出るタイプではなかった。父の政関係の人が家に出入りしても、部屋に閉じこもって出てこないことがほとんどだった。三大欲求の中でも睡眠欲がずば抜けて強く、よく寝る子だったと聞いている。ただ、寝る時に布団で食パンを食べながら寝ていたという話は、両親がいなくて寂しいという感情がどこかにあったのではないかと思う。また、自分の主義主張がないわけではなかったが、中学時代の部活も高校受験の高校の選び方も、仲の良い友達が行くからという理由で選んでいた。(食べたい物、欲しい物はきちんと意思表明をしており、当時菜子に対してお金で解決しようとしていた父は、ほとんど欲しい物を与えていたと麻子から聞いた。)ここで起きた問題としては、お金で解決しようとした結果、成人した菜子はATMでお金のおろし方もわからない世間知らずだったということだ。


話は変わるが、菜子はよくモテた。3姉妹の中では近づいてくる男子は当時一番多かったし、彼氏も途切れることはなかった。菜子が彼氏を続けて家に連れてくるので、それを見た母が「麻子ちゃんより、菜子ちゃんの方が先にお嫁に行ったらどうしよう。」と言っていた。(何が悪いのかさっぱりわからないが、非常に心配していたようだった。)ただ、上京してから生活にいっぱいいっぱいで彼氏と遊ぶ余裕がなかったのか、何が理由かわからないが、菜子は今でも結婚していない。


菜子は父と母が再婚した当時、泣いて反対したという。父に嫌気がさしていた麻子は「老後面倒を見てくれる人ができてよかった。」と発言したようだが、菜子の方がその辺りは素直である。その後、母は不二家に嫁ぎ、菜子のお弁当を作るなど母なりに努力はしていたようだし、菜子も泣き喚いてた割にお弁当を素直に持っていき、モリモリ食べていたという。


ただし、ここでお伝えを忘れてはいけない。麻子も菜子も母のことを未だかつて【お母さん】と呼んだことはない。恐らく今後呼ぶこともないだろう。


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