異世界エネミー

朝霧

とあるJKの一日

 201X年以降、不自然に多発した交通事故や殺人事件は全て下劣な異世界人が我々地球人の魂を奪い取るために起こしたものであった。

 そして異世界人の蛮行はそれだけに収まらず、我らが地球を乗っ取るための工作員まで送り込んで来たのである。


 刃物は直ぐに欠けそうで、銃器は扱えない。

 だから、鈍器金槌こそがちょっと前までただのJKだった私にとっては最強の武器である。

 少なくとも現状では。

 現在、地球は他の世界とひっそりと戦争をしている。

 その事を知っている人は少ないようで以外と多いらしい。

 ただ、詳細を知っている人は稀だろう。

 現にバイト戦士である私もよく知らない。

 最初に聞いた話によると、私達の敵は3種類。

 その1、この世界から人間を自分の世界に招こうとする召喚者ゆうかいはん

 その2、この世界に無理矢理生まれて来ようとしている転生者しんにゅうしゃ

 その3、この世界からリソースを奪い取ろうとする窃盗犯さつじんき

 亜種はいるが大体この3種類に分類される我らが地球の敵をぶっ殺すのが私のお仕事である。


「こちらNo.2237。戦闘準備が完了した。いつでもいける」

『了解しました。これよりエネミー戦場フィールドへ転送します。ご武運を』

 いつも通り、バイト先側が私用にカスタムした特殊フィールドホームセンターエネミーが転送されてくるのを待つ。

 今日のエネミーは転生者、こちらの世界に無理矢理入り込んでこの世界で生まれようとする侵略者だ。

 転生者の魂は弱いが用心するに越したことはない。

 愛用している金槌を構え、敵を待つ。

 数秒後、私の目の前の空間がぐにゃりと捻れ、赤い半透明の何かが現れた。

「――!?」

 強制的にこの戦場に転送された敵が驚愕し、意味のわからない声を発した。

「ようこそ我が戦場へ。初めましてクソ転生者さま。生まれる前にくたばりやがれ」

 向こうに意志が通じない事を理解した上で赤い半透明の身体、その脳天に金槌を振り下ろす。

 一撃目は避けられたが、すぐにもう一撃、二撃。

 横殴りの三撃目、敵の腹に金槌の釘抜きの部分がクリティカルにヒットした。

 敵は軽く吹っ飛び、腹を抑えて痛みに呻いていたが、トドメを刺そうとしたこちらの気配に気付いたのか、後ろに飛び退って信じられない勢いで逃げていった。

 だけど、好都合。

「馬鹿かてめーは」

 プリーツスカートの懐に手を突っ込んでオイルライターを取り出す。

 蓋を開けて火を灯したオイルライターを敵が向かったその先へ思い切り投げた。

 ライターが、正確に言うとライターの火がそれに落ちた直後、爆炎が上がる。

 あらかじめ仕掛けておいたトラップだ、藁の中に着火剤を塗った炭と花火の火薬を混ぜて上から灯油をまいて作った適当な火刑トラップ。

 色々混ぜてみたけどやっぱちょっと微妙だな、もうちょっとドッカーンといくと思ったけど。

 シロートが気まぐれに作った罠じゃこんなものか。

 それでも今回に関してはこれで十分。

 敵が罠を踏んだ直後に着火できたからよく燃えた。

 偶然とタイミングにだいぶ救われたけど無事に転生者を上手にこんがり焼けましたー、ってなわけで。

「こちらNo.2237。敵の殲滅、終了だ」

『――転生者しんにゅうしゃの消滅を確認。お疲れ様でした』

 機械的な声で返された事で完全に仕事が終わった事を再度確認して、体を伸ばした。

 早く帰ってゲームしたい。

 そんな事を考えながら帰投準備に入るアナウンスを聞いていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界エネミー 朝霧 @asagiri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ