回想2
──その後、結局、私はそのまま「大和美琴」として高校を卒業し、著名な女子大へと進学することになったのです。
言葉使いについては、当初は少なくとも頭の中ではそれまで通り男の子らしい話し方をしてたのですが、大和家の令嬢として暮らす内に、いつの間にか脳内のひとり言などでも、こちらの方に慣れてしまいました。
また、許婚である先輩とも、先輩が高校を卒業する少し前に「まずは恋人から」と交際を申し込まれ、正式におつきあいを始めました。
彼女の意向を無視してよいか多少悩んだのですが、好き勝手やっているのはお互い様なので、開き直ることにしたんです。
そうして、若い女性としての暮らしに完全に馴染んだころ──立場交換から1年くらい経った時期だったでしょうか、私の身体が徐々に変化を始めたのです。
まず、陰茎が完全に委縮しました。
もともと巨根というワケではなかったのですが、毎日少しずつ縮み始め、ひと月ほどで親指の第一関節くらいまでの細さと長さになってしまいました。
しかも、一応剥けていたはずの包皮が根元から半分以上を覆ってます。これではまるで陰核です。
尿は一応この「クリトリスもどき」の先端から出ているのですが、まるっきり勢いなく垂れ落ちて、会陰部まで流れてくるので、立って小用を足すことはもはや不可能になってしまいました。
次に変化したのは睾丸でした。
武術家の中には、「コツカケ」と言って腹筋を巧みに操作し睾丸を腹の奥に引っ込める技術があるそうですが、私はその手の修行など一度もしたこともないのに、ある朝気が付けば睾丸が体内に引っ込んでしまっていました。
しかも、通常それには多大な痛みが伴うらしいんですが、私の場合、まったく痛みは感じませんでした。
よくマンガなどでは「上がった」睾丸をピョンピョン跳んで戻す光景が見られますけど、私の場合、どんなに飛んだり跳ねたりしても、一向に降りて来る気配はありません。
結局、一度そうなって以来、私は股間にふたつの球体がぶら下がっている感覚を二度と感じることはありませんでしたし、そろそろその感覚すら忘れかけています。
睾丸が体内に上がるのと同時に、陰嚢もしぼみ始めました。ただ、完全に平らになったわけではなく、緩やかな隆起と弾力は残っているのです──まるで女性器のように。
いえ、機能的にはまさに女性器そのものと言ってよいでしょう。なぜなら、何も孔などないはずの私のソコに指先など棒状のモノをあてがうと、なぜかズブズブとめり込み、それら棒状のものを小陰唇の如く柔らかく締めつけるのですから。
さらに(想い起こせば入れ替わった当初からそうなのですが)、どれだけ快楽に喘いでも、私は射精することはなくなりました。代わりに先走りがまるで愛液のように大量に股間に滴り、“挿入”される際の助けとなってくれます。
そんな風に男性としての性感は失ったものの、体内にめり込んだモノが前立腺(むしろ反応的にはGスポットと呼ぶべきかもしれません)を刺激することで、射精とは異なる、より大きな快感を得られるようになりました。
俗にいう「ドライオーガズム」ですね。初めてソレを自覚して以来、私はすっかりその感覚の虜になってしまいましたから、性欲面でもなんら不満はありません。
下半身の変化と平行して、ウェストもくびれ、逆にお尻はずいぶん大きくなりました。
当然、胸部も変化しました。乳腺が発達して乳房、いわゆる「オッパイ」が徐々に出来てきたんです。乳首も大きく敏感になり、今では私の身体で一番感じるスポットと言っても過言ではないでしょう。
もっとも、高校を卒業した段階では、どう贔屓目に見ても「貧乳」と呼ばれて然るべき小ささ──「緩やかな丘」とも言うべき状態でした。大学4年間色々努力しても、AAがようやくAになった程度。
せめて殿方の掌で包むのに程よい大きさと言われるBカップぐらいは欲しいところなのですが……。
──コホン!
それはまぁ、さておき。
遺伝子的にはどうか知りませんが、もはや下着姿になっても私がほぼ女性と見分けがつかない状態になった頃──忘れもしない高校3年のクリスマスイブ。
何をどうやっても外せなかったあの首飾りが、呆気なく切れて私の首から外れたんです!
実は、その時まで私は「これはあくまで一時的なもので、「健」が戻って来たら元に戻るんだ」と自分に言い聞かせていました──本当はとっくに自分でもそんなコトを望んでいないクセに。
しかし、いざ戻れるかもしれないと言う状況になって、私は一瞬パニックに陥りました。
(うそ……まさか今になって元に戻るだなんて……)
混乱する心の中、私は自分の本当の望みを強く自覚しました。
(戻りたくない! 私は、「大和美琴」で──“彼”に愛される女の子でいたいッ!!)
目の前が真っ暗になるような絶望の中、真剣にそう願った私はフッと意識が遠くなり……気が付けば恋人である先輩の腕に抱きかかえられていました。
そう。ちょうどその日は先輩とクリスマスデートの待ち合わせをしていたんです。
「おいっ! 大丈夫かっ!?」
「せ、先輩……私のことが、わかるんですか?」
私は不安と期待の相反する感情に声を震わせながら、彼に問いかけました。
「は? あたり前だ。自分の彼女の顔を忘れるなんて恋人失格だろ、美琴」
嗚呼、彼はキョトンとした顔で、「彼女」の……そして、今は私のものとなった名前を呼んでくれたのです!!
「なぜ?」と理由を問われると返答に困るのですけど、彼の答えを聞いた時、直観的に私は、自分が「大和美琴」として完全に“世界”に認められたことを確信しました。
そして、二度とかつての「小碓健」には戻れない──いえ、「戻らなくてもいい」ということも。
平静を取り戻した(むしろ幸福感でいっぱいになった)私は、まだ心配げな彼に微笑みかけ、「ちょっと立ちくらみがしただけだから」と告げて、デートの続きを促しました。
彼も、私が完全に復調していることがわかったのか、気を取り直して私をエスコートしてくれました。
プールバーで軽く身体を動かしてから、オシャレなレストランで夕食をとり、そのままホテルのバーで語り合う……という絵に描いたような、けれどティーンの女の子なら一度は憧れる「大人のデート」。
ダークブラウンのスーツでキメた大学生の彼はもちろん、18歳の私も今日のように大人びた格好をしていると、バーに入っても特に奇異な目で見られたりはしません。
家を出る前に、フリフリ系の思い切りガーリッシュな甘ロリファッションか、シフォンドレス&ハイヒールのちょっと背伸びした路線かで悩んだのですが、どうやら後者で正解だったようです。
そして、先輩が無言でホテルの部屋の鍵をバーのカウンターに置いた時、私はコクンと頷いて彼──いえ、逸樹さんの手に指を絡めたのです。
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