第6話 静かなお茶会

 ”まったく。何が天気がいいから庭でお茶でもって、本気で彼女を迎え入れるつもりなのか。”


 戻った二人にラルーが言ったのだった。出掛け際にマカリーに言われたからと、ちゃんとセッティングされていた。

 ルナードは、ため息しか出ない状況の中、目の前に座るディアルディを見つめた。女性としては大柄だが、目を引く容姿。声が出ない事は特段マイナスにはならないだろう。とすれば傷だ。


 ”どれほどの傷なんだ? 何でついた傷? いつついた傷? 見せろと言ったら見せてくれるのか?”


 ルナードが結婚相手に興味がないと知って傷の事も言ったのなら傷は本当にあるのだろう。しかし、見えない場所だから気にしない相手もいただろうにとも思うとやはり、不思議でならない。


 「本当にどうして、嫁の貰い手がなかったのか……」


 ぼそりと呟く。


 “行ける訳ないだろう。それにしても彼は、本当に女性に興味がないのか? 神に人生を捧げたというのか?“


 マカリーに言われて半信半疑で来たディアルディだが、まったく自分に興味を示さないので驚いたのだ。これなら襲われる心配はないだろう。こちらもまた腑に落ちないのだ。

 誰からも好かれ、マカリーの孫。嫁の候補ならいくらでもいるだろう。それよりももっとわからないのは、関係を持たなくてもいいって事だった。つまり、子孫を残さないと言っている事になる。

 孫が男子なのだから神官にしたのだろう。だったら孫の子も神官にと思うはずだ。ルナードが神官を嫌々やっているとか、または神官ではなければ話はわかる。

 ディアルディは、ルナードもそうだが、マカリーの考えている事もわからなかった。


 ディアルディがふと顔を上げると、ルナードが険しい顔で自分を見ているのに気がついた。ニッコリして返すと、ふんと紅茶を口に運ぶ。


 “そう言えば、ルナードは母親とあまりうまく行っていない様に見えた。“


 ディアルディは、昨日のルナードの態度を思い出していた。ラルーの事を『彼女』と言っていた。神官であるルナードなら普通は、母親を敬うだろう。だがそうではないらしい。

 家と外では、態度が違うのだ。そして、それをディアルディに隠そうともしていない。


 “いてもいいけど、歓迎はしていないって事か。“


 ある意味、居心地が悪い場所に来てしまったと思うも行くあてもないので、身を置くしかない。

 この話を逃せば、後は国を出るしかないのだ。しかし、それはディアルディにはできない。


 「今更ですが、字は書けますか?」


 ルナードが、ディアルディに問う。ディアルディは、書けると頷いた。


 「よかった。意思の疎通は出来ますね。……読み書きまで教えなくてはいけないかと思いました」


 付け加える様にルナードは言った。

 ディアルディも無理して言わなくてもいいのにと思うのだった。


 ”はぁ。普段しない事をすると疲れる。”


 ルナードは、自分の態度にため息をついたのだった。

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