愛故に少女は愚者を演じる

代永 並木

第1話

生きるとはなんだろうか

心臓が脳が動いていれば生きているとなるのだろうか

それとも何か目的を持って日々を過ごす事だろうか

あぁ、どうか教えて欲しい

神が定めた時までもう時間が無い……この身体は朽ちる

この命を一時でも不死身とした神よ、せめて最後の時には空っぽのこの命に溢れんばかりの幸福を


〜〜〜


私は限定的に不死身となった

期間は三年、最初神と名乗る輩の言うことを信じていなかった私は殺された

そして蘇った、痛みの感覚はあったが傷は癒えまるで何事も無かったかのように私の身体は動いた

地面には致死量の血と肉が飛び散っていた


「何が目的?」


血肉を見て気分が悪くなったが吐くのを我慢して神と名乗る輩を睨む


「目的? そんなものは無い、ただの神のイタズラだよ。今日から三年間君は不死身だが三年後のこの時間に君は死ぬ」

「不死身なのに死ぬ?」

「限定的な不死能力を与えただけさ、勿論かすり傷程度でも再生能力は発動し一瞬で治る。腕一本程度なら数秒とかからない」


神は与えた力について余すことなく説明をしてくれた

刀を一本支給してくれたのだ

斬れ味もよく刃こぼれ一つしない刀をだ

神が言うには不死となった人物がどう動くか気になるそうだ、刀はおまけだという

全くふざけた話だ

神は説明終えるとすぐに消えた


「残りの人生をどう過ごすかは君次第だ」


取り敢えず家に帰る

不死となれば何でもしていいのだろう

私の親は酒を飲み酔い機嫌が悪ければ殴る、そんな親だった

正直苛立ちを覚えていた私は反抗し殺された

包丁を取りだした父に殺された

神の言う通りすぐに完治した

ただ血は残っているので死んだふりをして動向を伺おうとすると両親はなんと罪の意識などなく反抗した私が悪いと言い死体遺棄を行おうとした

神から貰った刀を使い私は母を斬り裂いた

罪悪感などない


「お前ふざけるな! 親に手を上げるなんて……いやそれよりなんでお前生きてるんだ!!」


父は喚き散らかし包丁をこちらに向ける


「…………」


私は無言で斬り裂いた

その後金を強奪し隠れて生きていたが神のせいか不幸な事故に何度も会い何度も死んでいた

落下事故、交通事故、通り魔などなど死因は様々で何度目か忘れた頃には痛みすら感じなくなっていた

そのせいか感情もう薄れ2年半経った時には生と死の感覚が消え自身が何をしているのかさえ曖昧になっていた

残り半年の筈なのに永遠に感じるほどに

そんな時私は1人の女性に出会った

実は止まっているんじゃないかと思っていた心臓が大きく脈を打った

私はこの感情について知らない、なので様々な手段を用いて調べた

その結果恋という結論に至った

私は女だ、だから女性に恋をするのはおかしいのではないかと最初考えたがこの世は広い、同性愛なるものがあった。私は同性愛者に該当するのだろう

どうやって振り向かせるかどうやって仲良くなろうかなど考えていると一つの妙案が脳裏をよぎった

彼女は警察だった、正義感が強く悪事を許さない純粋で真っ直ぐな

私には時間が無い……たった半年だ


「この方法を取ろう、私なら可能だ」


その方法は他人が見れば正気の沙汰じゃないと思うだろう

もとより私は正気では無い、決められた死が近付いている私に他人の言葉など聞こえはしない

ようやく手に入れた感情……親からは虐待され人権など無いもののように扱われ神のイタズラで何度も死に感情も薄れ生きた感覚を失った私が最初で最後であろう感情だ

ならばせめてこの半年は思うがままに動いてもバチは当たらないはずだ

方法は至って単純で彼女の居る周辺で通り魔事件を起こし事件の調査を行っている彼女を襲撃するというものだ

最初の襲撃では正体を隠して通り魔事件の事で接触を図り状況を見て呼び出し正体を明かす


「楽しみだなぁ」


被害者は誰であろうと関係ないが気分で最初は罪人を襲った

1人目は出所したばかりの殺人鬼、抵抗こそしたが不死身の刀使いには手も足も出ずに死亡

2人目は強姦魔、こちらは捕まっていないが様々な情報からして間違いない、抵抗も出来ず最初こそ威勢が良かったが途中からはプライドもなく泣き喚き命乞いをしていたので殺さず二度と出来ないように手足諸共切り落した

3人目からは適当でニート、威勢のいい権力者、記者、警官などと斬殺して行った

通り魔と同時に彼女と接触し様子を伺った

彼女は本当に良い人だった、プライベートで何度も話し遊ぶこともあった

刻一刻と予定の時刻が迫る中この時間が自分にとっての幸福だと私は思い一分一秒を噛み締めて生きていた

時間は止まらない……楽しい時間は終わりを告げ神の言う私の死ぬ日が来た

集合時間は朝の10時でタイムリミットまで2時間だ


「こんな場所で集合なんてどうしたの?」

「……時間ないから単刀直入に言うけど私は通り魔だよ」


刀を取り出す

彼女は通り魔が刀を使っている事を知っている、それどころか一度目にしている


「……そう、自首をする気?」

「違う、私は貴女を殺す」

「……ねぇ、私を騙して楽しかった?」


彼女は怒り拳銃を取り出す


「警告します、刀を捨て投降しなさい。さもなければ撃ちます」

「やれば? 私は不死身だから死なないけど」


刀を持ち突撃する

好きだから愛したから殺す

彼女はすぐにトリガーを引き発砲、1発は当たり2発目は全然違う場所に着弾する

受けた傷はすぐに完治する


「ほらね」


刀を思いっきり振るう、銃でガードされ受け流される

追撃はなくすぐ立ち上がり距離を取る


「躊躇してると死ぬよ」


刀を全力で振るうが受け流される

彼女が強いという話は聞いていた、だがここまでとは思わなかった

刀相手に素手で渡り合っている

拳銃を仕舞い格闘技の構えを取っている


「なんで騙したの!!」

「私に勝ったら教えて上げる。今から……1時間45分貴方が逃げ切ることが出来れば」

「その前に捕らえる!」


不死身という特性をフルに使い長期戦を仕掛ける

距離を取り様子を伺おうとするが一瞬で距離を詰められ全力の拳が肋骨を砕く


「不死身でも痛みはあるでしょ? もう辛いはず」

「痛み? そんなのずっと前から感じないよ。貴女が死ぬか私の時間が無くなるまで殺し合いは終わらない」


どのくらいの時間が経ったか分からない程戦いを続けていると彼女は一言呟く


「時間切れ」


壁に叩きつけられ足を銃で撃たれる

すぐに傷が癒えると考え立ち上がろうとするが傷が治らず立ち上がれない

その時12時を告げる鐘の音がなった


「え? あぁ、そうもう終わりなんだ……それじゃ約束通り教えて上げる。通り魔事件は貴女に接触するために行ったの」

「なんで」

「時間が無かったから……」

「不死身なのになんで時間がないの?」

「三年前に三年経ったら私は死ぬという条件付きの不死身になったからでその三年後というのが今日の12時」

「私に接触するためだけに人を殺したの?」

「そう、その通り……貴女との日々は楽しかった。この人生で唯一の宝物、私はこの行動に後悔していない」


彼女は涙を流していた

どういう感情での涙か分からない

聞く時間はない


「わ、私だって楽しかったよ。他に方法はなかったの」

「あったんじゃないかな? 私には考え付かなかったけど……そろそろ時間切れみたい」


手足が段々と塵になり崩れていく

時間切れの合図だろう

だから告げよう

私の人生を飾る最後の言葉を

私の最初で最後の

彼女にとって最悪の


「私は貴女を愛しています」


呪いあいの言葉を

言い切り私の身体は崩れ切る

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