第73話 きまったでしゅ
食事を終えて少し落ち着いたのか、シルバーフォックスの毛皮だけではなく、魔石も一緒に持ってきてくれたシルバースライムちゃん。
「ぷ~」
「ありがとー」
「ぷぷ~♪」
私の前に来て、どうぞと言わんばかりに頭に載せたまま差し出してきたので、それを受け取ってからまじまじと見る。
つぶらな瞳は綺麗なアイスブルー。今は私がお礼を言ったことで、キラキラと輝いている。
まだご飯を食べたそうにしているので、今のうちに名前をつけていいか聞いてみるか~。
「あにょね、あにゃたにおにゃまえをちゅけてもいいでしゅか?」
「ぷー!」
「いいと言っているぞ」
「ほんとれしゅか? ありがとーごじゃいましゅ!」
セバスさんが通訳をしてくれたけれど、それがなくてもわかった。だって、目をもっと輝かせながら、ぴょんぴょんと跳ねたんだから。
食事している間に考えておくと言うと、もう一度嬉しそうに飛び跳ねたあと、森へと向かうシルバースライムちゃん。その後ろ姿を見守りつつ、どんな名前がいいかなあと考える。
私のネーミングセンスは怪しいが、できるだけ素敵な名前にしたいよね。
海外出張をしていた関係で言語はそれなりにわかるけれど、あのスライムちゃんの色から連想するとなるとなかなか難しい。安直にシルバーとかあかんしね、しっかり種族名になっているし。
そうだなあ……スペイン語のプラータ、イタリア語のアルジェント、フランス語のアルジャンかラルジャンあたりになるかな。青だとイタリア語のアスールくらいしかカッコいいと思える言葉はないや。
あとは花の色か日本の色名もよさそう。いろいろ候補を出して、選んでもらうのがいいのかねぇ?
薄いブルーだと
いろいろ出てくるんだけれど、ピンとくるものがない。和名の色だとどうしてもこの世界の名前にそぐわないんだよなあ。
それっぽい名前だとプラータ、アルジェントなどを縮めてアル、アスールくらいかな。または
「む~、むじゅかちいでしゅ……」
「下手にバステト様にちなんだ名前にはできないしな」
「でしゅよねー」
セバスさんと揃って溜息をつく。
バステト様のお名前の一部が入っているからといって、人間に加護がついたりするわけではないし、公表されている神獣の名前をつける親もいる。まあ、こちらも神獣の名前をつけたからといって、神獣の加護がもらえるわけではないが、強くあれと願ってつけることがほとんどなんだとか。
問題なのは魔物に名前をつける場合のみで、下手にどれか一文字入ってしまうとランクアップしてしまうのだ。
神獣に関してはバステト様が任命したうえでどれか一文字が入った名前をつけているので問題ないが、テイムしたりシルバースライムちゃんのような存在に名前をつける場合は、本当に気を使うらしい。
とはいえ、一文字程度ならそれほど問題ないし、公表されていなくともすでに神獣としての名前がある場合は、ランクアップもしないそうだ。
だからといって、いきなりどれか一文字を入れてしまって、「ランクアップしちゃった☆」なんてことになったらたまったもんじゃない。
それに、本来の名付けはテイムしているよ~という証だそうで、テイムして名付けると主人と魔物の魔力が絡み合い、パスとして繋がるんだそうだ。とはいえそれはテイマーに限った話で、そうじゃない人が名付けたところで魔力のパスは繋がらないという。
逆にいえば、魔物が拒否したら名付けたとしても従魔にすることはできないってこと。
まあ、名付けたあとでも、魔物のほうがテイムされてもいいよと許可がおりたら自然とその魔力がわかるらしく、パスが繋がる、らしい。
いずれにせよ、今回の場合はスライムちゃん自身が自由でいたい――テイムされたくはないけど、私と一緒に行動したいと言っているし、スライムちゃん自身が名付けてもいいと許可してくれているので、問題にならない。
そんなテイム事情はともかく。
セバスさんとどんな名前がいいか一緒に悩んでいたら、シルバースライムちゃんが満足な顔をして戻ってきた。
「まんじょくしたでしゅか?」
「ぷー!!」
「しょ、しょうでしゅか」
「ぷぷ~?」
相当お腹がすいていたのか、かなりの量を食べたらしいスライムちゃん。一回り大きくなっているのを見て、顔が引きつった。
そんな私の様子に、不思議そうな顔をして体を斜めにするスライムちゃん。なんとも可愛い仕草で萌える~!
あと、期待したような目で見ているので、名前が決められないと話すと、落ち込んだように目尻を下げた。
「こうほがあるでしゅ。しょのおにゃまえをいうから、きにいったのがあったらはんのうしてほしいでしゅ」
「ぷっ!」
「じゃあ、いいましゅね」
そうしてなんとか五つに絞った名前を告げていく。
アスール、アル、ユエ、玻璃、ハリー。
激しく体を上下に動かして反応したのは、なんと玻璃だった。
「はりでいいんでしゅか? ハリーじゃなく」
「ぷー! ぷぷっ、ぷーぷっ!」
「名前の響きがいいって言っている」
「しょうなんでしゅね~」
この世界にはそぐわない名前だけど、本人が気に入っているならいいか。
ということで、名前は玻璃になった。もちろん、名前の由来である水晶やガラスという意味もあると教えると、ガラスには微妙な顔をしたものの、水晶には納得したような顔をしていたシルバースライムちゃんこと、玻璃。
それは仕方ないんだよね。この世界の一般的なガラスって透明じゃないから。一般市民の家でもガラスがはまっているけれど、どれも不透明かよくて半透明なのだ。
透明なのは宿屋や商店だったり、裕福な家と貴族や王族といった、要は金持ちしか持てないほど、透明なガラスはお高いらしい。なので、それを思い出したっぽい。
まあ、日本でもガラスは高かったもんなあ。
とりあえず、ガラスは横に置いといて。
「はり、よろちくでしゅ」
「ぷー!」
お互いに笑顔でよろしくと告げるも、パスが繋がることはなく。
あとで撫でさせてもらおうと画策しつつ、バトラーさんたちの帰りを待った。
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