第72話 つよいでしゅ

 私というか、私たちの旅に一緒に来ることになったシルバースライムちゃんだが、今は森と草原の境界で狩りをしている。


「ぷぷーっ♪」

「……たのしそうでしゅね」

「そうだな。ちょうど、フォレストウルフを捕まえたようだ。ほら」

「あ~……」


 視線の先には、何十倍もの大きさのフォレストウルフを包みこもうとしているスライムの姿が。あっという間に包み込むと、青白いウルフの体毛が見えなくなった。

 それがどんどん縮んでいくのが面白いというか、恐ろしいというか。

 そもそも、どうしてシルバースライムが狩りを始めたかというと、セバスさんの突っ込みが原因だった。


「餌を求めてここまで来たんじゃないのか?」

「ぷ~? ……ぷっぷぷっ!?」


 セバスさんの指摘にちょっと考えたあと、まるで「忘れてた!」みたいな声と顔をしたあと、すんごいスピードで森の中に入っていったんだよね。すぐに「ぴぎゃー!」って声がしたかと思うと銀色の塊が森と草原の境界に現れた。

 セバスさんがスライムが食事中だと教えてくれなければ、どんどん小さくなる銀色の塊に慄いているだけだったと思う。

 まあ、今もその食事スピードと、大きさに関係なく包み込める体積がどこにあるのかと、慄いてるが。

 私が見つけたシルバースライムは、テニスボールくらいの大きさしかないんだけどなあ。シルバースライム自体は、そんなの関係ねえ! とばかりに、自分よりも大きな魔物を捕食しているが。


「……しゅごいでしゅね」

「そうだな」

「あんにゃにちっちゃいのに、どうやってくるんでるんでしゅかね」

「さてなあ。スライムの神獣もいるが、さすがに出会ってはいないからな」

「しょうれしゅか」


 セバスさんですらスライムの神獣に会ったことはないのか。

 つうか、スライムも神獣になるんか。

 どんだけ強いんだよ、そのスライムは。会ってみたいけれど、会えないよねぇ。

 とか言ってるとフラグが立つんだよな、これが。まあ、なるようになるでしょ。

 なーんて、セバスさんとのんびり話しながら、シルバースライムの食事風景を見ていたわけだが、フォレストウルフが終わり、次の獲物を探しに森に入るシルバースライム。

 いい加減、名前をつけてあげたいんだけど、勝手につけたらダメだよねぇ。セバスさんに聞いてみるか。


「あにょ、セバスしゃん」

「ん? どうした?」

「あのスライムににゃまえをちゅけても、だいじょぶでしゅか?」

「大丈夫だと思うが、念のためあいつに聞いてみるといい。スライムによっては名前をつけることで、従魔になってしまったりするからな」

「おおう……、そりぇはらめでしゅよね」

「そうだな」


 そうか、従魔になっちゃう子もいるのか。

 テイマースキルがなければ従魔としてテイムすることはできないそうなんだけど、魔物の中には本人を気に入って、従魔になってくれる子もいるんだそうだ。その場合はテイムスキルがなくても従魔になってくれるけれど、本当に極稀におきる現象らしい。

 とはいえ、私とあの子の場合、それはないだろうとセバスさん。なぜならば、私があの子の話す内容がわからなかったから。

 私と一緒に行動してもいいと思ってくれたことは事実だが、あの段階でわかったのであれば、それは私の従魔になってもいいよという意思表示でもあるんだって。

 それがないってことは、現段階では従魔になるほど私を信用・信頼していないか、信用・信頼はしているが、誰かの従魔になる気はないかのどちらかなんだそうな。


「信用も信頼もしているとは思う。が、従魔にはなりたくないみたいだな」

「しょうなんでしゅか?」

「ああ。自由でいたいし、誰かに縛られるのは嫌だと言っていた」

「にゃるほろー」


 いくら言語理解の魔法があろうとも、さすがに魔物の言葉はわからないってことか。そういえば、バトラーさんと初めて会った時、魔物の姿だったけれど私にもわかる言葉だったもんなあ。

 きっと神獣だからというのもあるだろう。

 あとは、この世界の人間たちが使う言葉限定での言語理解かもしれない。

 だって、全種族って書かれてないし。

 全種族だったら魔物の言葉もわかるはずだもの。それがないってことは、ヒトとして生活している者限定なんだろう。

 まあ、宿屋で会ったステイシーさんによると、大陸ごとや国によっても言葉が違うそうだしね。そのへんは地球に似てるのかも。

 なにせ、文字の勉強をしている時に、大陸共通語があるんだよと教わったくらいだし。

 あれかな、地球でいう英語みたいなものなのかな。

 この言語であれば、他国の人でもわかる、みたいな。

 とはいえ、言語理解がある以上、私には関係ないらしい。私は意識していないけれど、ステイシーさんと話した時、あの国の言葉だったらしいから。


 おっと、脱線した。


 視線の先にはシルバースライムちゃん。別の魔物を狩ってきたらしく、その毛皮は見事な銀色だ。


「おい、そのシルバーフォックスの毛皮は、こちらにくれないか? ステラのコートにしたいんだが」

「ぷっぷー♪」

「ありがとな」

「ぷ~♪」


 セバスさんの問いかけに、楽しそうに返事をするシルバースライム。なんだかいいよって感じの返事だったね。セバスさんに聞くと、いいよと言っていたらしい。

 つうか、この世界にもシルバーフォックスがいることに驚いた。

 どんな姿の魔物なのかな? 初めて見るから、楽しみだ♪


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る