第47話 じゅんわふうなごはんでしゅ
酒臭い大人たちに無言でミントを多めに入れた水を渡し、言外にお前ら酒臭いと行動を示す。すると、全員肩を落としてしょんぼりしたあと、ミント水をチビチビと飲んだ。
その後、しじみと迷ったけどしじみがないことから、テトさんにジャガイモを一口大に切ってもらったあとでオニオンスライスを作ってもらい、鍋に入れる。玉ねぎとジャガイモの味噌汁にするのだ。
ついでに私が持っている煮干しを処理して、一緒に入れてしまえば出汁もカルシウムも摂れるしね。
玉ねぎやにんにくも酒臭さを緩和してくれるからね~。ミントと一緒に摂ってもらい、しっかり消してもらおう。
中身は三十五だとしても体が幼児だからなのか、酒精がとーーっても臭く感じるのだ。なのでしっかり匂いを消してもらおうと思う。
お風呂にも入ってもらいたいところだけれど、これから雪の中を行くからね。そこは私が我慢するしかない。
スープはそれでいいとして、他はどうしようかなあ。最近お米を食べてない。
ならば、いつの間にか黒猫の鞄に入っていた、恐らくバステト様がくださった炊飯器を出してお米を炊くか~。一升炊きだし、大食いの大人がたくさんいるから、一升炊いてもいいよね?
てなわけで、テトさんに味噌汁と卵焼き、焼き魚の用意をしてもらっている間に、小さな手で一升分の米を研ぎ、魔道具になっている炊飯器にドボン。水を吸わせたいところだけど今は時間がないので、その分酒を少しだけ入れてスイッチオン。
この炊飯器、凄いんだぜ~。どうなっているのかわからないけれど、添付されていた取説によると、スイッチを押してから十五分でご飯が炊けるのだ! カレーを作った時にこれがあれば便利だったのに!
とはいえ、カレーはこれからも作る可能性があるので、土鍋で炊いている時間がない時は炊飯器を活用しよう。
テトさんや? 目をキラキラさせて炊飯器を見てたとしても、あげないからね! これは私がバステト様からいただいた、猫印のものだからね!
可愛いんだよ、この炊飯器。全体は真っ黒で側面には金色の目と鼻、
一緒についていた計量カップも猫の顔になっているし、しゃもじも持ち手のところが猫になっている。まさに猫づくしなのだ! だから、たとえテトさんでもあげません!
てなことを力説したら、テトさんはがっくりと項垂れた。というか、バステト様が私が持っている黒猫の鞄に入っている魔道具のほとんどが、私にしか使えない、私専用になっているんだよね。
だから個人的にプレゼントしてもいいと思っても、たとえ神獣といえども性能がヤバすぎて渡せないという状態なのだ。すまん。
そうこうするうちにご飯も炊けたし、味噌汁や他のおかずも完成。異世界なのに見事な和食ご飯となった。
一升炊いたのに、残ったのは三合ほどという、なんとも凄い結果に。なので、残ったご飯は鰹節と醤油を入れておかかの混ぜご飯風にし、いつでも食べられるようおにぎりにした。
大人たちが物欲しそうにしていたけど、ご飯食べたばかりだからあげなーい!
ご飯後は緑茶を飲んでまったりし、防寒バッチリ。とはいえ、どんな素材を使っているのかわからないけれど、布地自体は薄いくせにすっごく暖かい洋服たちなのだ。
あ、そういえば、移動はどうするんだろう? それによっては温石か懐炉の提案をしないと。なので聞いてみた。
「きょうのいどうは、ろうしゅるんでしゅか?」
「今日はわたくしたちが本来の姿になって飛びます」
「あたしも本来の姿になるのよ」
「ほあー! たのしみでしゅ!」
なんと、空を飛んで行くことになりました! セバスさんかセレスさんの背中に乗るのが楽しみー!
ドラゴン夫婦によると、昨日聞いた町までは数日かかるという話だったが、セバスさんとセレスさんだと、本気を出せば一時間もかからないという。おおう、戦闘機かよ!
だけど他の聖獣たちはともかく、私だと魔法を使ったとしても、もしかしたら風圧に飛ばされるかもしれない。なので、セバスさんたちにとってはゆっくりめに飛び、私の体調を気遣いつつ飛ぶ予定なんだそうだ。
私の種族が特殊とはいえ、一応人間で幼児だしね。というか、幼児というのがネックになっているみたい。
それに、遮るものは魔法障壁というものなので、風は避けても気温はがっつり感じるし、上空はクソ寒いと思う。なので、バステト様がくださったコート二枚を着た上に、キャシーさんが作ってくれたブルーライオンのコートも着込むことに。
そのせいでもこもこ状態になったのは言うまでもなく、靴下どころかブーツまで中がもこもこのものを履いて出かけるようにしてみた。今は暑く感じるけれど、雪が降っているから外は寒いしね。
さすがにキャシーさんも着込んでいたし、蜘蛛さんにも毛布を巻きつけたり、レッグウォーマーのようなものを全部の足に着せていた。頭にも帽子を被せていたよ。
もちろん、テトさんとバトラーさんもきっちりブルーライオンのコートを着こんでいて、お揃いだねと言ったら二人に頭を撫でられた。くふ。
準備ができたら外に出る。暖炉の火はテトさんが消してくれているから、あとは亜空間にしまうだけだ。
テトさんが家をしまっている間に、セバスさんとセレスさんが本来の姿であるドラゴンになると、まずは私とバトラーさんがセバスさんに乗り、キャシーさんとテトさんがセレスさんに乗る。
一時間飛んだら家を出して休憩し、今度は私とキャシーさんがセレスさんに乗り、バトラーさんとテトさんがセバスさんに乗る。同じく一時間飛んだら、最後はセバスさんが人型になり、全員でセレスさんに乗って大きくはないが小さくもない町の手前で下りて早めの昼休憩。
休憩が終わったら歩いてその町に向かうらしい。
<町に着いたら、一軒家の賃貸を探しましょう。なければ外で、わたくしが持っているツリーハウスを出します>
「そうだな、それがいいだろう。なにせ我らは特殊だしな」
「できれば町の中にある一軒家がいいね。そうすれば買い物も楽だし」
<なければ、別のところに移動してもいいわよ?>
<そうですね。いざとなったら南西の国に行ってもいいですし>
「それもいいが、ステラのことを考えるとな……」
「そうだね。ただ、今の南側諸国は紛争しているから、ちょっと危険かな」
<<確かに>>
そんなことを話す大人たち。なんか物騒な言葉が交じってるんだけど!
紛争地帯になんか行きたくないやい。それだったら町外れにツリーハウスを出して住んだほうがマシだと思ってしまう。
それは大人たちもわかっているようで、本格的な最終的な手段として、今いる大陸よりも温かいところに行こうと話している。他の大陸も面白そうだけれど、とりあえず私はツリーハウスを体験してみたいと主張しておいた。
一通り談義も終わったし、粉雪だったものが大粒になってきている。これ以上水分が増えてぼた雪になる前に、最後の山脈を越えてしまうことにしたようだ。
念のため毛布を出し、バトラーさんに抱っこされると、セバスさんの背中に乗る。隣を見ると、キャシーさんとテトさんも乗り込んでいた。
<では、いきますよ>
セバスさんの合図で出発。バサリと音がすると、ふわりと空へと飛びあがった。
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