第25話 ローストビーフでしゅ

「あら~、甘い香りがするわ!」

「ああ」

「ステラ、何をしていたのですか?」

「えっと、ばしゅてとしゃまにいたらいたものをかくにんしていまちた」


 そこから信用できる人以外には話さないでくれとお願いし、現物を見せながら問題となるであろうシステムキッチンとオーブン、ツリーハウスの種を見せる。


「「「……バステト様……」」」


 そう言って、大人たちは呆れたように溜息をついた。

 まず、オーブン。これはこの世界でも魔道具として売られているので、特に問題ないとのこと。問題になるとすれば、一般家庭で使うには少々大きいらしいが、それだけだという。

 パンを焼くために業務用の大型オーブンがあるので、特注で作ってもらったと言えば誤魔化せるらしい。その話にホッとした。

 そしてツリーハウスの種。これもこの世界に存在する。ただし、幼子が持つようなものではなく、貴族や大商人など金持ちが別荘として使うためのもので、庶民が買えるような値段ではないそうだ。


「おおう……」

「アタシたちがいるから大丈夫だと思うケド、ステラちゃんも話さないようにね」

「あい」


 キャシーさんを筆頭に、バトラーさんとテトさんにもしっかりと言い含められたので頷く。

 そして一番問題なのは、システムキッチンだった。システムキッチンというよりも、私の成長に合わせてキッチン自体が大きくなるのが問題らしい。


「とはいえ、ステラの名義になっているからな。そこは大丈夫だろう」

「ステラしか使えないというのも安心できますね」

「ええ。持ち出しもできないでしょうし」

「しょれならよかったれしゅ」


 そこはマジでよかった。

 ただ、システムキッチンという概念はなく、水回りと作業台、コンロなどは必ず別になっていて、それらを組み合わせてキッチンに設置するんだって。なので、鍋などを収納できる棚や戸棚が一緒になっているものは見たことがなく、ここにいる三人や今後出会うであろう神獣たち以外には、絶対に話すなと言われた。

 ですよねー!


「それにしても……いいですね、このシステムキッチンとやらは」

「どうせんがらくでしゅよ?」

「どうせん?」

「じぶんがうごくためのばしょでしゅ」

「ああ、動線か。確かにこれなら楽だね」


 テトさんが興味津々でシステムキッチンを眺める。触ることはできないので、本当に眺めているだけだが。

 一直線だけじゃなく、L字や二列のやつもあると説明すると、感心したように目を輝かせていた。テトさんは料理をするからね。こういう自分専用のキッチンに憧れるんだろう。

 動きを阻害しないよう、カスタマイズできるしね~。そのうち自分だけのものを作りそうだ。

 テトさんいわく、錬金術で作れるらしいし。それはすごい!

 そんな会話をしながら、テトさんはお昼のメインを作っている。今日は牛の魔物がいたらしく、それを使ったサイコロステーキだ。

 ロースかもも肉の部分が余っているならそれをもらって、オーブンでローストビーフを作ってみようかな。作り方を教えたら、テトさんは作ってくれるかな?

 あとで聞いてみよう。

 他にサラダとパンが出され、しっかりと食べる。お菓子に関してはおやつとして食べたいと言うと、バトラーさんが亜空間の中にしまってくれた。

 テトさんとキャシーさんだと、興味という欲望のままに、全部食べてしまう可能性があるから。それは二人も納得しているらしく、しっかりとお願いしていた。

 雑談しているうちに、私はいつもの通りおねむの時間でござる。バトラーさんの背中トントン攻撃に、あっという間に撃沈した。


 二時間ほど寝たあとのおはよーございます。紅茶を全員配り、バトラーさんにお菓子を出してもらう。

 うん、いい味だ~! バナナの自然な甘さも、ジャムの甘さもバッチリ☆

 プレーンはブランデーをかけると美味しいと言うと、テトさんがさっそくブランデーを少量かけていたのは笑ってしまった。もちろん私は食べられないので、その分バナナ味を堪能したとも。

 クッキーもサクサクして美味しいし、全員が顔を綻ばせて食べている。よかった!


「ステラちゃん、とっても美味しいわ!」

「ああ。どれもちょうどいい甘さだ」

「ステラ、今度作り方を教えてください」

「あい!」


 もちろん教えちゃうよ! 今度はテトさんが作ってくれそうだ。楽しみ~!

 お菓子を堪能しつつ、さっそくテトさんに牛の肉が余ってないか聞いたところ、まだまだたくさんあるとのこと。

 どんだけでかかったんだ!


「え? 普通に5メルルはあったぞ?」

「ええ、それでもまだ小さいほうでしたしね」

「まじれしゅかー……」


 バステト様が創造と管理しているからなのか、距離は違うけど重量は地球と同じなのだ。ヤードとポンドが混ざってなくてよかったよ。

 ヤードとポンドが入ると、メートルやキロに換算する計算が面倒なのだ。そういう意味では助かっている。

 おっと、話が逸れた。


「テトしゃん、しょのももにくをくらしゃい」

「何を作るのかな」

「ろーしゅとビーフでしゅ」

「「「ローストビーフ?」」」


 幼児の口ーー!


「あい! おいちいれしゅよ!」

「ふむ……。なら、教えてくれますか? 僕も作ってみたい」

「あい!」


 やっぱり作りたいって言ったよ、テトさん。なので、おやつタイム終了後、オーブンで作る方法とフライパンで作る方法を教えることに。

 空気を抜いた密閉袋に入れ、先に低温で温めてから焼き色をつける方法もあるけれど、この世界にはビニールのような石油製品はない。なので、その方法は却下。

 そしてアルミホイルもないので、できるだけ焼けこげないようにしないとね。

 ただ、ここは魔法がある世界。なので、焼き上がったあとに保温するために、似た効果のある魔法があるはずだ。

 それをテトさんに話すと、料理スキルにちゃんとあると教えてくれた。しかも、熟成させる魔法まであるという。

 な、なんだってー⁉


「じぇ、じぇひおちえてくらしゃい! テトにいしゃま!」

「……っ! もちろんです」


 私を抱き上げ、にっこり微笑んでギュッと抱きつくテトさん。「けしからん、もっとやれ!」との言葉はスルーした。

 もも肉を適度な大きさの塊にしてもらったあと、肉全体にフォークで穴を空けてもらい、そこにニンニクを擦り付けたり塩コショウを振って擦りこんでもらったあと、ひとつはオーブンに入れ、ひとつはフライパンで焼く。

 オーブンは120度の低温で焼くのだ。

 フライパンのほうは何度も転がして表面に焼き色をつけてから、保温の結界を張ってから二十分ほど放置。そのあとは保温機能を切り、自然に冷ます。

 オーブンのほうも出したあとはそのまま放置して冷ます。柔らかいと切りにくいからね。

 ソースはどうしようかな。すり下ろした玉ねぎとニンニクを使ったものにしようかな。醤油もみりんもないから、ワインを使ったものにしよう。


「テトしゃん、あかワインはありましゅか?」

「ありますが……さすがに幼子には……」

「にょみましぇんよ! ろーしゅとビーフのしょーしゅにちゅかうれしゅ」

「ああ、なるほど」


 まさか、飲むと思ったのか? さすがに飲めんがな。

 玉ねぎ一個ととニンニク一欠けをすり下ろしてもらい、フライパンに入れて火にかける。そこにワインと、みりんの代わりに砂糖とはちみつを少々入れてもらい、ワインの酒精と水分を飛ばし、煮詰めていく。


「おさけをひにとおしゅと、しゅせいがとびましゅ。しょのぶん、うまみがましゅんでしゅよ」

「なるほど。それならば納得だ」


 一緒に作っているからね~。納得してくれてよかった。

 ソースを作っている間にローストビーフも冷める。さすがに幼児の細腕では薄切りは難しいと判断したので、テトさんに切ってもらった。

 もちろん、私のは更に小さくしてもらっている。

 あとは玉ねぎスライスをお皿に敷き、その上にソースとビーフ。今日のメインはこれかな?

 あとはカボチャスープとパン、サラダ付きでいただきまーす!

 ローストビーフはどっちもしっとりしていて美味しい! カボチャスープも、漉したカボチャのおかげで滑らかだし、甘みもあっていい。おかわりしちゃおうかな。

 大人たちの反応はといえば、中が赤いことに驚いていたものの、低温で調理する方法だと教え、しかっり火が通っていると話すと、恐る恐る口に入れたあと、目を瞠った。


「なんと、きちんと火が通っているな」

「これは驚きますね」

「血が滴る、なんてこともないものねぇ」

「「「とにかく、美味しい!」」」

「しょれはよかったでしゅ」


 美味しいと言ってくれてよかった!

 テトさんがまた作ると言っているので、期待して待とう。

 その後はそれぞれが気に入った紅茶を出し、配る。私は珍しく緑茶だ。

 緑茶ってなんか落ち着くんだよね。元が日本人だし、母方の伯父が静岡に住んでいて、尚且つ茶畑を持っていたからなのか、毎年新茶を送ってくれていたのだ。

 それとは別に私個人で友人に配りたいからと、しっかりお金を払って作ってもらっていた。懐かしいなあ……。

 今飲んでいる緑茶の味が、伯父から送られて来た味と同じだから、余計にそう感じるのかも。今年は飲めないのが残念だ。

 話していると、あっという間に夜が更けてくる。今夜も大きなバトラーさんに埋もれ、眠りについた。


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