第22話 カレーばくたんでしゅ
まずはお米を研いで水切りしている間に、バトラーさんからギャーギャー鳥のもも肉をもらい、私サイズに合わせたものと大人サイズに合わせた一口大に切る。ニンジンはいちょう切りにしてスライスし、玉ねぎとジャガイモも大小ふたつの一口大にカット。
トマトは湯剥きして種を取り除き、小さく切っておく。三分の一は私が食べる鍋に入れるつもり。
幼児の舌だからね、中辛どころか甘口でさえ無理だろう。だから甘口がさらに甘くなるよう、その中に入れるつもりだ。
あとはリンゴを一個とハチミツ。リンゴも三分の一は私が食べる鍋に入れるのだ。
「ほかに、なにかにゃいかにゃ……」
マジックバッグに手を突っ込んで、食材のアイコンをタップする。さっきバステト様から送られてきた食材もこっちに分類され、尚且つ野菜や肉など、種類ごとに分けてくれるこのアイコン、マジですごい。
その中から野菜をタップして確認し、カボチャとサツマイモ、赤と黄色のパプリカを出す。カボチャは赤ちゃんの頭くらいはありそうな大きさなので、これはバトラーさんに切ってもらうことに。
だってさ……さすがに幼児の力では切れそうにないしね。
半分にしたあと、残りは煮物かサラダ、タルトにしよう。
それからサツマイモもバトラーさんに輪切りにしてもらい、水の中に漬けておいてもらう。その間に私はパプリカを乱切りにした。
他に加工食品がないか見てみたら、ヨーグルトの他にフルーツチャツネがあった。よし、これも使おう。
「バトラーしゃん、カボチャをきってほしいでしゅ」
「どれ……。おや、立派なかぼちゃだな。どうやって切ればいい?」
「んと、まじゅははんぶんにちて、ひとちゅはわたちにくだしゃい」
「ああ。できたぞ。ほら」
「あいあとでしゅ。ちゅぎにたねをとってー、しゃらにはんぶんにちてー、たべやしゅいおおきさにきってくらしゃい」
「わかった」
私がこうしてほしいと言うたびにその通りに切ってくれるバトラーさん。そのうちのいくつかをさらに半分に切ってもらった。
それが終わったら残りの半分を渡し、種を取ってもらってから同じく一口大にカットしてもらったあと、皮を剥いてもらう。その間に大小ふたつの鍋と土鍋を出したあと、米と水を土鍋に入れ、火にかけた。
「ステラ、皮剥きが終わったぞ」
「ありがとでしゅ! それをこのなべにいれてくらしゃい」
「茹でるのか?」
「あい」
「なら、それくらいは我がやろう」
「お~、たしゅかりましゅ!」
男前なおとんだな、おい。いや、今はおかんか。
そんなことを想像してくふくふと笑いつつ、カボチャを茹でるのはお任せする。その間に魔法でもうひとつ竈を作り、火を熾してから金網を乗せるとパプリカとサツマイモ、カボチャを網に乗せてから焼き始める。
これらの野菜は後乗せのするつもりなのだ。なので、じっくりと火を通しておく。
その準備が終わったら、まずは大人たちが食べる用の準備。網焼きしている以外のカレーの具材を炒め、ある程度炒めたら水を入れ、沸騰するまで放置。
その間に私が食べるやつを炒め、同じく水を入れたら沸騰するまで放置。
網焼きを引っくり返しているうちに小さい鍋のほうが先に沸騰したので、あくを取る。それが終わるころに大人用の大きな鍋も沸騰したのであくをとる。
「ステラ、もうじきカボチャが茹で上がるぞ」
「お~。みじゅをしゅてたら、しょのカボチャをちゅぶしてほしいれしゅ」
「わかった」
いつの間にかカボチャが茹で上がる時間になってたか。これ、私一人だったら大変だったかも。バトラーさんがいてくれて助かった。
バトラーさんにカボチャをお願いしている間に、焼きあがった野菜をお皿によけておいたり、ジャガイモが煮えたかどうかの確認をしたあと、カレールゥを入れる。
といっても細かく刻んである状態で瓶に入っているうえ、瓶にはわかるようにラベルが貼ってあるだけなので、どのメーカーのブランドなのかさっぱりわからないのが残念。
まあ、味を複雑にするのであれば、数種類のルゥを使ったりあれこれ足したりすればいいだけなので、メーカーもブランドも問わないが。
まずは小さい鍋にルゥを入れ、同じくハチミツとヨーグルト、フルーツチャツネも入れる。あとは様子を見ながらルゥを足してとろみをつけ、弱火にして放置。
次に大きな鍋。こっちにもハチミツとフルーツチャツネを入れ、ルゥは甘口と中辛の二種類を投入。
とろみがついたとろこでちょろっと舐めてみたけれど、やっぱり幼児には辛かった。ついでに小さな鍋も味見をしたけれど、こっちはそこまで辛いというものではない。
「いい匂いだな、ステラ。腹が減る匂いだ」
「うふふ~、きたいしててくらしゃいね!」
「ああ。楽しみにしている」
潰したカボチャを持って来てくれたバトラーさん。鼻をひくひくさせて匂いを嗅ぎ、顔を綻ばせている。
ついでだからとバトラーさんにふたつの鍋を一回冷やしてもらい、また弱火にかける。あれですよ、一晩経ったあとのカレーの味ってやつ。
肉じゃがなどの煮物も一回冷やしてからもう一度火を通すと、味が染みるからね。その応用だ。
火にかけてる間に、潰してもらったカボチャの中にレーズンとマヨネーズを少々入れ、混ぜる。かなり多いとカボチャの味が消えてしまうから、本当に少しだけだ。
五合炊きの土鍋で米を炊いたけど……足りるだろうか。念のためあと五合炊こうと米を洗い、パパっと炊き始める。こっちはサフランとバターを入れて、サフランライスにしてみた。
飲み物はどうしようと考え、ヨーグルトも牛乳もあるし、マンゴーに似た味の果物があるからと、マンゴーラッシーを作ってみた。あとはオレンジとイチゴっぽい見た目と味の果物も。
料理のスキルで氷が出せることがわかったので、氷を入れるのはご飯の時にすればいい。
他にもレタスとトマトを使ったサラダを用意しているとテトさんとキャシーさんが帰ってきた。
「あら、とってもいい匂い!」
「確かに。嗅いだことのない匂いです」
「そうね。なんとも刺激的な匂いだわ~」
匂いにつられるように中に入ってくる。もちろん濡れている全身を乾かし、尚且つ魔物除けの結界を張ってから岩穴の中に入ってくるんだからすごい。
焚火の前に陣取ったみなさんに、バトラーさんに手伝ってもらいながら深皿に二色のご飯を盛り、カレーを注ぎ、その上に焼いた野菜をカレーの中にドボン。それとサラダをトレイに載せ、どのラッシーがいいか選んでもらったあと、氷を入れる。
ストローがないのは残念だけど、バトラーさんにお願いして木でマドラーを作ってもらったから、それでかき混ぜてから飲んでおくれ。
「ステラちゃん。これはなんて料理かしら」
「カレーでしゅ。のみものはラッシーといいましゅ。ヨーグルトとミルク、くだものがはいってましゅよ」
「「「おお~」」」
「おかわりもありましゅ。どうじょ、めちあがれ」
熱いうちに食べてね~。みなさんの舌に合うかどうかわからんが、匂いだけなら大丈夫そうだし。
ただ、やっぱりというかカレーの色にドン引きしてた。土と同じ色だもんな。そりゃあ知らなければドン引きするわ。
それを見つつ、私はうま~と食べる。
うん、フルーツチャツネを入れたからなのか、辛みの中に甘さとフルーツの味が微かにする。このフルーツチャツネを入れる方法は、とある護衛艦や航空自衛隊の基地で作られている、カレーのレシピを参考にしたのだ。
一度そのレシピを見ながら作ったことがあるんだけれど、本当に美味しかった。
さすがに桃缶はないから入れなかったけど、いつかシロップ漬けを作って、それを入れたカレーに挑戦してみたい。
そんなことを考えていたら。
「あら~、ステラちゃんってばお花を飛ばしているわ~」
「確かに。他にも飛んでいそうですね」
「ああ。この複雑な味だからな。ステラが食べているものと我らが食べているものは食材の大きさが違うが、きっと同じなのであろう」
「あじもちがうでしゅよ? しゃしゅがに、わたちのしたでは、みなしゃんがたべているものはからしゅぎましゅ」
「「「なるほど」」」
味見をしたいというので、鍋からスプーンですくい、それぞれに渡す。辛さに違いがあることに驚かれつつ、やはりというか多少なりとも辛いほうが美味しいと感じているらしい、大人三人。
カボチャサラダも珍しいらしく、テトさんから熱心に作り方を聞かれた。
「こんどちゅくってくらしゃい、テトしゃん」
「わかった。楽しみにしてて」
「あい!」
お~、作ってくれるのか! もちろん楽しみにしているとも!
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