第14話 しぇかいのことでしゅ

 途中でお昼と私のお昼寝を挟み、夕方までバトラーさんの話を聞いた。大陸と呼べる大きな場所はふたつで、他にも小さな陸地が点在しているという。

 その小さな大陸や島が集まってできた国もあるし、小さな陸地がひとつの国になっているところもあるという。


「ここは一番大きい大陸で、トゥルニエという。世界の名前はメアディスだ」

「ふむふむ」

「今いる死の森は、トゥルニエ大陸の中心にあるんだが、この森はどこの国にも属していない。それほどに危険で大きい森なんだ」


 なるほど。

 バトラーさんにマップを生成してと言われて出すと、それを小さくしてと言われた。スマホのように縮尺すればいいのかな? そんなことを思いながら両手を使って画面の中を小さくすると、この世界の全体図が見えるようになった。

 本当に不思議なマップだ。

 真ん中に大きな大陸があって、トゥルニエと書かれている。その大陸の右下に寄りそうように、そのトゥルニエ大陸の半分くらいの大きさの、トゥリーナ大陸という陸地がある。

 なんというか、雪だるまを寝かせたような形というのかな? 海で隔てられているから、きちんとした大陸として成立しているようだ。大きい大陸はこのふたつ。

 で、その周囲に、トゥリーナをさらに半分にしたような大陸や島があり、地図の左下と右上のほうには群島になっているところがあった。トゥルニエとトゥリーナ以外の大きめの陸地には名前があり、それ自体がひとつかふたつ、多くて三つの国になっている。

 群島はそれ自体でひとつの国のようだ。

 ……まあ、行くにしても、私がもっと大きくなってからだろうけれど。できれば行きたくないなあ。空を飛んでいくならまだしも、歩いては行きたくない。バトラーさんに乗っかるのもありかな?

 そんな冗談はともかく。トゥルニエ大陸だけを見てと言われて大陸を大きくする。グレーだからよくわからないけれど、確かに中心部は平地よりも森が多く、途切れ途切れながらも高い山が周囲を囲んでいるように見える。

 その中心部のちょっと右下がカラーになっているところがあるから、それが今まで通って来た道なんだろうと推測できた。そのカラーの部分は、ど真ん中を避けるように、ゆるくカーブしている。


「今いるのはこの中心よりも南寄りにある。あと一日も歩けば森の中心に来る」

「ほえー。ほんとうにおおきいんでしゅね」

「ああ。今はこの森を北に向かっていて、その先にある国を目指しているんだ。途中に国境に面している森に出るが、それはまだまだ先だな。ただ……」

「たら?」

「その中心部にはスケルトン種たちがたくさんいるんだ。だからとても厄介でな……」


 おおう、スケルトンっすか。骨っすね、骨。

 嫌いじゃないよ、私。むしろ萌える! できれば専属の騎士にしたい!

 そんなことを言ったらすんごい微妙な顔をされた。


「むちろかっこいいとおもうにょ。がいこちゅのきしっれ、かっこよくないでしゅか⁉」

「そ、そうか……。ステラは変わっているな」

「かわっているというか、しょのしとのかんせいでしゅ」

「そうか。……なら大丈夫、か?」


 私が怖がると思って言えなかったというバトラーさん。気にすんな。一度、イラストじゃなく、生の骸骨騎士スケルトンを見てみたかったんだよねー。

 どんな姿かな。真っ白なスケルトン? それとも、真っ赤な骨のスパルトイ? あるいは竜牙兵ドラゴン・トゥース・ウォーリア? いずれにしても、見たい。

 バトラーさんが危険と判断したら諦めるけどさ。

 話が脱線したけれど、一番危険なのがその中心にいるスケルトンたちで、彼らのテリトリーから抜けてしまえば、今いる魔物と変わらないそうだ。ただ、国境に向かう途中にある山の近くには、更に危険なワイバーンやズー、ベヒーモスという竜種がいるから、死の森にいる限り危険であることは間違いないみたい。


「我から絶対に離れるなよ」

「あい」


 もちろん離れませんとも! ちっぽけな幼児である三歳児な私。世界最強であるバトラーさんから離れたら、一発でアウトだよね、年齢的にもレベル的にも。

 もしかしたら、それもあって戦闘に参加させないで、内臓を燃やすように言ったんだろうか。じゃないと、レベル差で魔法がキャンセルされそうだもんな。

 これが冒険者でパーティーを組んでいれば経験値が分配されるそうなんだけれど、私は冒険者でもなければバトラーさんとパーティーを組んでいるわけでもない。だから経験値は分配されないんだろう。

 なんてことを考えてバトラーさんに話すと、何やら考え込んだ。


「ふむ……我の庇護下に入れたことにすれば、身分もできるしパーティー扱いになる、か?」

「あい?」


 ボソッと何か言ったと思ったら、首から提げていた黒くて長方形のものを引っ張りだし、何やら操作し始めた。バトラーさーん、それはなんですかー?


「……よし。おお、きちんとパーティーとして組んだことになったな」

「あにょー……? バトラーしゃん、しょれはいったいなんれしゅか?」

「ああ、これは冒険者ギルドのタグだ。SSSランクという証だな」

「…………にゃーーー!?」


 神獣が冒険者をやってるとか! 新しいな、おい!

 以前ギルドの話が出た時には聞かなかったんだけれど、冒険者になるとランクが発生するという。最初はFからで、E、D、C、B、A、S、SS、SSSと上がっていくそうだ。

 そのランクによってタグの色や素材が決まっていて、FとEが銅、DとCが銀、BとAが金。Sが白銀、SSが白金、SSSが黒だという。

 何万といる冒険者の中で、AまではそれなりにいるしSもそこそこいるけれど、SSになると全体で百人、SSSになると十五人もいないそうだ。今はバトラーさんを含め、十人しかいないという。

 バトラーさんによると、F~Aランク<Sランク<<SSランク<<<越えられない壁<<<SSSランクだそうな。本当に凄いんだなあ、バトラーさんって。

 つか、年齢的にSSSランクってギルドにバレてるんじゃ……。


「ああ、機密扱いになっている」

「わーお!」

「まあ、SSSランクの冒険者はみな超越者ばかりだからな。100年と寿命が短い人間ですら、超越者になると300年は生きる」

「まじれすかー! にんげんやめてるでしゅよ、しょれ!」

「確かにな」


 くくっ、と笑ったバトラーさんは、とても悪そうな顔をしていた。……うん、見なかったことにしよう。

 で、話を戻して。Sランク以上になると、パーティー申請をタグからできるという。ただしそれは何かしらの原因により未成年を保護した場合の措置に使われ、実質はパーティーの一員ではなく、保護したという扱いになるそうだ。

 その場合も経験値が入るけれど、それは1%だけなんだそうだ――本来であれば。


「ステラの場合は幼児だからな。5%の恩恵に与れる。ただし、町に着くまでか我が解除するまでの措置で、ずっとではない」

「にゃるほどー」


 心配なのは、死の森の魔物たちのレベルがヤバすぎて、私のレベルが一気に上がることだそうだ。一気に上がると、体にどんな影響が出るのかわからないから。

 ……おい、そんな危険な真似をせんでくれ! こちとらまだ幼児なんだよ!

 そんなことを言ったけれど、とりあえず一回戦闘してみて、私の体調が崩れるようであれば、解除するそうだ。その後は今まで通り内臓を燃やすか、一番最初に風魔法を当てたあとでバトラーさんが追撃することで、私も経験値がもらえるという。

 倒し切るんじゃなければいいかと腹を括り、その戦法で頷いた。

 日が沈む前に雨が上がり、暗くなるにつれて魔物の声がし始める。今までは雨が降っていたからか声が聞こえることはなかったが、雨が上がったことによって巣穴から出て餌を探しに行くんだろう。

 入口には魔物除けの結界が張ってあるそうなので、内部に侵入されることもない。

 ご飯を食べて薪をくべ、さっさと毛布を被って寝床に行く。ティーガーになったバトラーさんに守られ、ふっかふかでポカポカなその腕の中はとても安心できて。

 いつの間にか眠っていた。


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