第7話 ヤバいでしゅ

 昼と同じように野菜と干し肉を切り、それはスープにする。あとは歩いている途中で見つけて採取した、シメジみたいな形のキノコも入れることにしよう。

 パンはブドウが入ってるロールパン。私は一個でいいが、バトラーさんは三個もあれば足りるかな。

 メインはバトラーさんのリクエストでボアの肉。見た目の肉質はイノシシに近い。

 これならステーキがいいかな? それとも串焼き? もっと寒かったら牡丹鍋でもよかったけれど、鍋にするにしても材料が全く足りないから諦める。

 さて、どうしよう……串焼きに挑戦してみるか。

 まずはサイコロ状に切って味付けし、そこらに転がっている木の枝を串にする。なんと、料理スキルには串にする魔法もあるのだ! 買わなくていい分お金が浮くし、超便利!

 串を竈の周囲に刺そうとしたところ、さすがにこれは幼児の力では刺すことができなかった。見かねたバトラーさんが刺してくれて、助かったよ。

 バトラーさんがどれくらい食べるかわからないからかなりたくさん作ったけれど、だ、大丈夫かな? 私は一本あれば充分です。

 もちろん、私が食べる分は私の口のサイズに小さく切ってあるから、すぐにわかるようになっている。残ったら葉っぱか何かでくるみ、鞄にしまっておこう。

 周囲を見ると、笹の形でバナナのような大きな葉っぱがあるしね。一応鑑定してみたら、抗菌作用がある葉っぱと出たから、大丈夫だろう。

 そんな心配をしていろいろ想定していたんだけれど、二十本近くあった串焼きは、全部バトラーさんのお腹に収まりました! パンも追加で五個出したよ……。これは町に行ったら、食料を多く買わないとダメかもしれないと思った瞬間だった。

 食後のデサートは森で採取した果物。オレンジ色で、見た目もオレンジそっくりだ。


「これは皮をむいて食べるんだ。どれ」


 バトラーさんが皮をむいてくれて、それを手渡してくれる。見た目もオレンジっぽいからと鑑定したら、オレンジとなっていたのには笑ってしまったが。

 さて、味はどうだろう? 半分に割ったあとで一房口に含む。


「ん~~~! おいちいでしゅ!」

「それはよかった」


 瑞々しい果汁とオレンジの味。これは美味しい! 皮はとっといて、砂糖が手に入ったらマーマレードにしよう。途中でもいだやつだけだと足りないだろうから、また見つけたらたくさん欲しいと、バトラーさんにお願いしないとね!

 うまうまとご飯を食べ、まったりする。夜は何がいいだろう? 無糖の紅茶でいいか。無糖紅茶が入っている水筒とハチミツを出し、バトラーさんにも渡す。ここにミントを浮かべてもいいかも。

 今は手元にないから我慢して、バトラーさんにオレンジの皮を小さくしてもらい、コップの中に入れてもらう。幼児の体だから、さすがにハチミツを入れることはしなかった。

 スティックシュガーや角砂糖が欲しいとは言わないから、せめて白砂糖か黒糖が欲しい!


「しょういえば、バトラーしゃん。ここはどういったところなんでしゅか?」

「ここは魔の森と言ってな。いろんな強さの魔物がいる森だ」

「うえっ⁉ しょんなきけんなばしょらったれしゅか⁉」

「ああ。ステラがいた場所はまだ森の浅い場所だったからよかったが、これからはもっと強い魔物が出てくる。ステラが一人で移動することなく、我が発見できてよかった」


 おおう……そんなに危険な森だったのか。てか、これからもっと危険になるってどういうこと? なんか嫌な予感がして質問すると、森の奥へと入っているという。

 なんだってーーー⁉


「理由は簡単だ。ステラがいた場所から近いところに街道があるが、その街道がある国は奴隷がいる。ステラのように整った顔をした幼子など、恰好の餌だ」

「……」

「そして奴隷を使い、隣国に戦争をしかけるような、クズのいる国だ。だからこそ近い国ではなく、奴隷を禁止している国に向かっている。その国は差別もなく、獣人も亜人もいるからな、安心して暮らせるんだ」

「にゃるほど……」


 森は確かに危険だけれど、バトラーさんにとっては雑魚ばかりだという。捕まって奴隷にされるよりも、安全安心に暮らせる国のほうがいいと考えてくれたんだって。

 それに、魔の森の奥で採れる果物や薬草、魔物の素材はとても貴重だそうで、果物は栄養価が高く、素材はどこの国に行っても高く買ってくれるという。それならば危険な国よりも安全な国で売ったほうがいいという判断もあると、バトラーさんが言う。


「奥に行けば行くほど強くなる。すなわち、魔物のランクも上がる。ランクが上がるということは、肉も美味いんだ」

「にゃるほろ。おにくのランクってなんれしゅか?」

「そうだな、うまさの目安とでも言うのだろうか。一番低いランクはD。そこからC、B、A、Sと上がってゆく。魔の森の肉は、AとSが多い。それがたとえ、ホーンラビットだとしてもな」

「おお~。もりのしょとのラビットは、ランクがおちるでしゅか?」

「ああ。外はCランクだ」


 一気に下がったな、おい。あれか、牛肉のランクみたいなものか。

 バトラーさんによると、果物や薬草、肉質の上質さは魔力に関係しているようで、魔素の濃い場所で採取したり狩りをしたもののほうが、ランクが高いそうだ。

 そしてそれは魔の森だけではなくダンジョンにも言えることで、ダンジョンで採取したりしたものも比較的ランクの高い素材や食材になるそうだ。


「まあ、ステラは幼子だからな。ダンジョンに潜ることはないだろう。我も許さぬ」

「あい」


 ダンジョンに行けって言われなくてよかった~! そういう意味では幼女万歳ってところか。

 日もとっぷり暮れて、少し肌寒くなってきた。幼児の体も眠りを欲しているのか、あくびが出る。

 焚火も竈もそのままにしておけばいいとバトラーさんが言うのでそのままにし、樹洞の中へと入る。ここの樹洞も葉っぱがたくさんあって、ふかふかだった。

 敷物と毛布を出し、毛布を体に巻き付けてから敷物の上で横になると、バトラーさんが黒虎になって私をすっぽりと前足と腹の中に閉じ込める。

 めっちゃあったかい! 極楽じゃー!


「あったかいれしゅ」

<そうか。我がいる。安心して眠るがいい>

「あい」


 ふかふかな葉っぱの敷布団に、ほかほかな毛皮のバトラーさん。もふもふだー! とすり寄って目を瞑ると、あっという間に寝入ってしまった。

 天然のもふもふ布団は最の高であった。


 翌朝、ギャーギャーと鳴く鳥の声で目が覚める。上を向くと、バトラーさんのドアップと綺麗な金色の目があった。

 美形な黒虎でドキドキするぞ、こんちくしょー!


「おはようごじゃいましゅ」

<おはよう。さあ、顔を洗ってご飯にしよう>

「あい!」


 もふもふを堪能させてもらったあと、敷物と毛布を片付け、タオルを出して池に行く。水はとても澄んでいて底が見えた。

 手を入れてみるととても冷たくて、顔を洗うと一気に目が覚める。鑑定しても危険はない水だったので、そのまま口に含んだら、とても美味しい水だった。

 軟水っぽい感じかな?

 もう一度顔を洗い、ふと、水鏡になっている水面に映った自分を見る。


「ぴょっ⁉」


 変な声が出たのも仕方がない。バトラーさんが可愛いとか整っていると言っていたことに首を傾げていたんだが、これなら納得だ。

 肩のあたりで切りそろえられている髪は黒色で、艶々サラサラだ。目の色は、右は青とも緑ともとれる色彩で、左はバトラーさんと同じ金色のオッドアイ。

 そして幼児らしいふっくらとした頬とピンク色をした唇、鼻筋が通った顔に大きな目。とにかく、幼児にしては整いすぎていて、将来が楽しみではある。

 確か鞄の中に鏡もあったはずだから、あとでちゃんと見るとして。おいおい……貴族や王族の子として通じるレベルの顔面偏差値だぞ、これ。


「ヤバいでしゅ……!」


 奴隷の話をするからおかしいと思ったら……! うん、納得した! 庇護する大人がいないと絶対に攫われるわ、これ!

 しかも、幼児ホイホイになりかねない。いや、絶対になる!

 人型になったバトラーさんが黒髪でよかったよ~! 親子とか年の離れた兄弟や従兄とかの設定にしないとヤバイ!

 バトラーさんの見た目がおじ様じゃなくてもっと若ければ兄弟でもいけたんだけどなあ。これはあとでバトラーさんと相談しよう。

 まずは朝ご飯だ。相談は歩きながらでもできるし。


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