第4話『変わってしまった日常②』
──「メインクエスト初は~~っと、『いけ!脱兎のごとく』で~す。」──
──「内容は簡単、今から数十秒後。イリウスもといモンスターがやって来るので逃げてくださ~い、勝てないので。以上!」──
──「そんじゃあバイバ~イ。」──
──ブッツン──
画面という画面に映っていた幾何学模様な管理人。それが今、見えなくなった。
だからと言って電子機器の機能が元に戻る、という訳ではない。ゲームをクリアしなければならないのだ。
──ザワザワ、ザワ──
民衆にざわめきが戻ってきた。別にこっちは戻ってこなくともいいのだがな。
『逃げなければならない』。人々は目の前に示された特異な内容を納得する為に、こんな大事なことを、頭の片隅に追いやってしまっているのだ。
本来は、ざわめいている暇はない。その時は一刻一刻と迫ってきているのだ。
四人ことヤッギー、マイマイ、リンリン、ユージ。彼女らも逃げようとしない。
管理人の話はちゃんと聞いていただろうに、何故か動かない。その訳は、『ゲーマーだから』につきる。
──シュジジッジーー、バチッ!バチッ!──
──ピッピピピピっピ、バチッ。ドン!ズドーン!──
不快な音と共に飛び出たのはドラゴン………。その他、多数!!
まず、動いたのがリンリン。武器を出す。
「アトゥラァクトゥーー!!?」
スキルを発動する瞬間、違和感を感じた。武器の姿形が変わっている、しかも重い!
「これは……。初期武器!!」
「なんですってーー!」
リンリンのスキルにも変化があった、変化というか退化だ。
「エフェクトタイムが短い。まさか……。」
ヤッギーは理解する、管理人の言葉の意味を。『勝てない』とは難易度が高いというわけではなく『戦えないから勝てない』ということだ。
「むりゲーだ!!!」
ユージの武器も初期の初期に早変わり。装備も初期であり2、3撃で死んでしまう。レベルも1だ。
「ユージ、マイマイ、逃げるぞ!」
「逃げるしかありませんね。」
辺りには恐怖で動けない人間と、全てを捨てて走り出す人間の二択しか居なかった。
「そこ、そこの角左、左に曲がって!その先に何かクエストのチェックポイントがある。」
アサシンダガーはパッシブスキル(常に効果があるスキル)としてデンジャーがあり、危険性をある程度認識できる。
──ドッーーーン!!──
火球が天を飛び交い着弾する。
騒音の中にとりわけ大きな音。閃光がひかる。
可燃性の素材で造られたものや並木、植木等はメラメラと音を立て燃える。黒い煙が遠く離れた所でも舞い上かっている、まるで狼煙のように。
様々な地点でモンスターが現れたらしく、悲鳴がいたる所から木霊している。
──ギャーーーーー!!──
──助げでぇぇぇぇぇ──
──にげろーー!!──
──嫌だぁぁぁ゛ぁ゛ああ──
悲鳴が悲鳴を呼ぶ。それが確かな恐怖へと変わるのは人々が自身の置かれた状況を理解してからであった。
──ガガガガガ…ガ──
蔓延した恐怖に耐えかねたように突然、建物が崩れ始める。駅の周辺だった為ビルが多かった。窓ガラスはドラゴンの咆哮であらかた割れてしまっていて、コンクリートの塊や鉄筋などだったのだが……。
崩れた瓦礫の間を縫って左にある路地に侵入する。
しかし、ヤッギーだけがうまく瓦礫の間を通れない。
三人より一歩遅れて走っていたヤッギーに高さ5mからの瓦礫が頭に突撃。一瞬世界が暗転し戻った時には絶体絶命、仄かに視界が紅くなる。デンジャーの効果で後ろにはモンスターが居ることを知り、瓦礫の雨が今にも降りかかろうとしていた。
「ヤッギーー!!!!」
リンリンがヤッギーの手を掴む。ユージとマイマイは武器を振りかざしスキルを使い、瓦礫から二人を守る。
間一髪、ヤッギーは瓦礫の下敷きにならずにすんだのだった。
四人は路地を進んだ。幸いな事に瓦礫が道に蓋をしたためモンスターが路地に入ってくる事はなかった。ドラゴンも目が悪いのか上空から四人の姿を確認できないようだ。
ヤッギーは意識が朦朧としていて歩けない。左半身に力が入らずに立つことも儘ならず、左を引きずりながら進もうとした。
再びリンリンがヤッギーの手を掴み、ヤッギーの体を引き寄せおんぶをする。
そして、ユージの方を向いた。
「敵から守ってくれ、ユージ。」
「おーけー、盾借りるぜ。ジョブ違うけどスキル使えないだけだからな、振ることはできるさ。」
武器である盾をユージに渡した。
「サンキューな。ユージ。」
「ヤッギー、大丈夫ですか。」
「……………。」
「そっとしてやってくれ。」
「分かりました。」
「だが、このヤッギーの怪我がHPが削れた怪我か、普通の怪我かで次とるべき行動が決まる。」
「なんでだ?」
前方を警戒しているユージが、振り向かず声のみを送ってきた。
「ゲームならば、HPの減少はアイテムやスキル、1日程度の休息でなんとかできるところまで回復します。」
マイマイはそう言ったあと『ですが』と言葉を繋ぐ。
「ですが、普通の怪我であった場合。長期的な入院が必要です、セーフゾーンを見つけなければ。」
「ステータスが見られれば、解るんだろうがなぁ。」
今回はユージも理解できたようで、『まずいな。』と言った。
「……この…先2m、右…。」
「………2mね、OK。」
弱々しい声、今にも倒れそうなヤッギーは、リンリンにおぶられながらも仕事をする。
どうにもチェックポイントは、ヤッギーのミニマップにしか表示されていなく、リタイアすることができない。
ヤッギーを背負ったリンリンを中心に、列になって進む四人。ヤッギーの指示を聞きながら二、三度道を曲がった。明かりのない暗がりが、路地の持つ不気味さを更に助長している。そういうわけかどういうわけか、モンスターと一度もでくわさなかったのは幸いであった。
チェックポイント、そこには紡状の光源があった。
「うわ!」
「ほわぁ……」
光源に近付いたマイマイとユージは声を上げた。
「テキストボードが出てきた。」
「なんて……書いて…る………」
「えーっとね。『標』だってー。」
「しるべか。」
リンリンが意味ありげに呟く。この光源がクエストを進める鍵となるだろうか。
──キィィィィィ──
紡状の光源が音を立てながら収縮していく。
「おい!消えてくぞ。」
「…………突っ込めーー!!!」
──ガゴゴゴゴゴ、ドドドドコドコガッシャン──
空原市は戦場とかした。いや戦場というには、あまりにも無惨で理不尽である。
我々人類はどうなるのだろうか?
奴ら『イリウス』に勝てるのだろうか?
『管理人』とはなんなのだろうか?
敵か?味方か?
ただひたすらの謎。どうすればいいのだろう。
攻略本のないゲームが今始まった。
──メインクエスト:『いけ!脱兎のごとく』のクリアを確認。報酬としてプレイヤーシステムの解放、及び使用を許可しました。──
──次のメインクエストは『冒険者の心得』──
──クエストを開始します。──
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