02. 涙の理由

彼の香りに包まれる。背中に回された腕に、ぎゅう、と力が入るのが分かった。

「泣くなよ」

寂しげな声で彼が言う。まだ泣いてないんだけど、と言い返そうとして、けれどもあたしは泣いているふりをした。嘘泣きをするなんて、ズルい女だと思う。

「だって、」

あたしも彼の背中に腕を回して、ぎゅう、と力を入れた。潤んだ瞳で彼を見上げれば、どうやらそれが彼の引き金を引いてしまったらしい。

あたしの唇に彼の唇が触れ、不安そうな声で「元気でた?」なんて覗き込むのだから、思わず「ふはっ」と笑い声が溢れ出す。

ねぇ、すぐ側にある玉ねぎと包丁は、いつになったら気付くの?




(191215)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る