第23話 革命前劇


『これは100年以上昔の話です。ここ、丘ノ市がツグネとソノミという村に分かれていた時のこと。ツグネである事件が起きました』


 舞台の中央に出てきたナレーターが言い終えると、幕が上がる前から準備していた男子生徒数名にスポットライトが当たる。


 豪華な王座に座り、派手な衣装を着た男子を取り囲むように兵隊の格好をした男子が4人いる。


宗鳳そうほう様だからといって、罪を見過ごすわけにはいきませぬ」


「宗鳳様が罪の無い市民を何人も殺したことはわかっているんです」


「その証拠に、宗鳳様の服の切れ端が現場に落ちていたのです」


「言い逃れは出来ませんので、おとなしく捕まってください」


 それぞれが台詞を言い終えると、持っている槍を宗鳳へ向ける。宗鳳は慌てて手を上げて抵抗する気がないことを訴えた。


「待て、私はそんなことやっていない。さては、倉智が私を嵌めるために仕組んだ罠だな?」


 下手から2人の兵隊が出てきて、宗鳳を囲む兵隊に矛を向けて言う。


「そうだ! 倉智の罠に決まってる!」


「宗鳳様、大丈夫ですか」


「私は大丈夫だ。それよりおまえたち、矛を下げろ。戦って何になる。私が捕まれば誰かが死ぬこともない。そうだろ?」


 宗鳳が体育館を震わせる声で訴えかける。


「そんな、宗鳳様……」


「いいんだ。ほら、私を牢獄へ連れて行け」


 兵隊たちは名残惜しい様子で敬礼した。宗鳳を囲んでいる兵隊が宗鳳を連れて牢獄へ向かおうとした時、女性の声が聞こえる。その声は宗鳳が牢獄へ入れられるのを止める声であった。


「待ってください、宗鳳様は何も悪くありません」


 その女性は華やかな格好とは言えない、貧相な服装をしていた。農民くらいの人だろうが、どうして城内にいるのかはわからない。


「何で平民が城内にいる。すぐに追い出せ」


 倉智が怒鳴る。


「私は見たのです、倉智様が市民を殺しているのを」


 女性は怒鳴り声に負けないくらい力強い声で反撃する。


「なんだと、嘘をつくな!」


「ソノミ神に誓っても、嘘はついておりません」


 ソノミ神とは、古くから言い伝えられている神様のことで、このソノミという名前がそのまま地名になったそうだ。


「こんなことを言われても倉智様は、自分の罪を認めないのですか?」


「こいつも一緒に牢屋送りだ。連れて行け!」


 その言葉で兵隊たちが宗鳳から意識が逸れた瞬間、走り出した。ただでさえ動きにくい服装なのに、一所懸命に城の出口に向かって走ったのだ。


「ま、待て!」


 兵隊が慌てて後を追う。


『この後も、宗鳳は逃げ続けました。倉智は嘘つきで、犯罪者の宗鳳を追いました』


 そのナレーションに続いて、兵隊と倉智が村中を探し始める。いろんな人に宗鳳を見かけなかったか訪ねて周った。その間、横側に立っている生徒たちは、慌ただしい曲をリコーダーで演奏する。


 舞台上の生徒が行ったり来たりを繰り返し、曲が終わると、ある女性は言った。


「見知らぬ男性に連れられてソノミへ行くのを見ました」


 それを聞いた倉智は頭を抱える。


「まさか宗鳳がソノミと協力していたとは……。このまま生かしておいたら危険だ。なんとしても宗鳳をソノミから引っ張り出すのだ」


 ソノミとツグネは昔、仲が悪かった。それで、倉智は宗鳳が敵国と協力していると知り、余計に許せなくなった。


「わかりました。私たちも協力します」


「もう宗鳳様にはついて行けません。なので倉智様のお力になれれば光栄だと思います」


「おぉ、頼もしい。では、お願いしたい」


 宗鳳の兵隊が倉智に忠誠を誓った。


 宗鳳は村で最高権力者、倉智は村では準最高権力者であり、この2人の仲は良いものとは言えなかった。目指す目的ややり方の誤差が仲の良くない原因だ。


 少しばかり宗鳳側に付く者が多いために、宗鳳が最高権力者となった。しかし、この事件を機に、宗鳳から倉智の元へ行く者が多かった。


「では、作戦を立てよう。何か案は無いか?」


 みんな腕を組んで唸り始めた。すると、1人の兵隊が呟く。


「武力で脅してみるのはどうでしょうか?」


「良い案だ。では、早速、ソノミの長に『宗鳳を出さないなら攻め込む』という文書を送らねば」


 そのセリフが終わると、場面転換が始まった。横からリコーダーの心地よい音色が聞こえる。


『こうして、倉智はソノミへ文書を送りました。この文書が届いたソノミは、武力で抵抗しましたが、ツグネの戦略には敵いませんでした』


 ツグネの長とその側近が兵隊に囲まれている場面になった。ツグネの長である小奈代こなよという女性は、そこまで飾った様子のない格好をしている。


「おまえたちが企んでいた計画はもうわかっている。ツグネを支配しようとしているのだろ! 大人しく宗鳳を出せ」


 倉智が一歩前に出る。場所は城内のようで、小奈代は玉座に座っていた。


「そうだぞ。こんなことして恥ずかしくないのか!」


 それに続き、兵隊も一歩前に出た。


「……仕方ないですね。せめて道連れにしましょうか」


 小奈代が呟くと、急に城が揺れ始めた。倉智側の兵隊が動揺している間に、小奈代たちは逃げ出そうとする。


「おまえたち! 惑わされるな! この城は崩れない!」


 倉智は崩れそうな城から逃げようとしている兵隊たちに向かって言う。倉智の言った通り、揺れはすぐに収まる。


「よくも騙したな!」


 小奈代に向かって兵隊の一人が走り出す。


「小奈代様、早くお逃げになられてください」


「小奈代様には一切触れさせません」


 しかし、護衛が道を塞ぎ、小奈代はどんどん奥へと逃げて行く。


 その妨害を上手く擦り抜け、倉智が小奈代を捕まえた。


「安心しろ、おまえたちも、宗鳳も殺しはしない。だけど、罪は償ってもらう!」


「そうですか。宗鳳!」


 小奈代がその名前を呼ぶと、渋々と宗鳳が現れる。


「私たちは自己の利益のためだけに罪を犯してしまったのだ。それに、もう逃げられぬ。ここは素直に捕まっておくのが命のためでもある」


「そうですね。わかりました」


 そう言って宗鳳は捕まった。


『こうして、罪人である宗鳳を捕まえ、また、ツグネを支配しようとしていた小奈代も捕まえることができ、ツグネには平和が訪れました』


 横側から、またリコーダーの音が聞こえる。そして、リコーダーの音が止んだと思えば、生徒が舞台に集まり、合唱する。


 みんな仲良く手を繋ぎながら楽しそうに歌う。その姿を見る者も楽しい気分になれただろう。


 歌も終わり、幕がゆっくりと降りる。それと同時に白いスクリーンも下がってきた。

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