第2話 願望
目を覚ますと車の座席で横になっていた。左頰に感じる滑らかな感触と鼻を微かに刺激する香水に違和感を覚え、起き上がる。すると、そこには女性が座っていた。
「おはよう。具合は大丈夫?」
20代後半くらいの女性が問う。その質問と同時に車のエンジン音がとまった。
「うん」
僕は、そう返事をしながら目をこすった。辺りを見渡すと知らない場所にいた。だんだんと不安が込み上げてくる。昨日の夜中の出来事を思い出した。
両親が死んだ。
あれは、夢? 鮮明に残った映像が脳裏に浮かぶ。そうだ、きっと悪い夢を見ていたのだ、そうに違いないと言い聞かせる。
「ここはどこ?」
「ここは児童園、
そう言って彼女は車から降り、僕に手招きをする。外へ出ると想像以上に寒く、思わず腕を擦った。
目の前の建物から子供の声が聞こえ、不安が和らいだ。招かれるがまま建物へ入った。庭にはいくつかの遊具が設置されており、ワクワクが止まらない。
校舎の中に入ると、別の女性が出迎えてくれた。
「はじめまして啓太くん。今日からよろしくね」
その女性はさっきまでの女性に代わってオープンスペースまで案内してくれた。そこにはたくさんの子供が列を作って座っていて、どの子も物珍しそうに僕を見つめている。
「ほら、おいで」
先生に笑顔で手招きされ、集団の前に立つ。
「自己紹介してごらん」
「えっと……和田
同い年くらいの子達が笑顔を向ける。その笑顔を見て、上手く自己紹介できたなと胸を撫で下ろした。
「じゃあみんな、啓太くんと仲良くしてね! じゃあ、これで朝の会は終わり」
そう言い終わると列を崩して子供達がたくさん集まってきて
「遊ぼーぜ!」
「おままごとしよ!」
「おままごとより鬼ごっこやろう!」
と口々に言う。
「ちょ、ちょっと……」
頭をかき混ぜられ、動揺していると、腕を掴まれて無理矢理鬼ごっこ組に連行される。別に運動が苦手でも、鬼ごっこが嫌いというわけでもなかったので抵抗はしなかった。外に連れ出されると僕を合わせた4人でジャンケンして、勝った僕は一目散に逃げる。
滑り台、ブランコ、ジャングルジムがあり、滑り台に上った。すると、鬼も滑り台の階段を駆け上がってきたので、急いで滑り台を降りてジャングルジムへ向かう。そこにいた他の参加者を巻き込んで逃げ続ける。疲れと寒さを忘れて走り続けた。
楽しい時間はあっという間に過ぎた。
「そろそろ昼食の時間だから部屋に戻って」
先生が呼びかける。
「はーい!」
元気な返事をした。友達に案内されて給食室に入るとカレーのいい匂いがし、お腹が鳴る。美味しそうなカレーに目を輝かせながら欲望を抑えるので精一杯。両親が居なくなった悲しみを忘れ、ここでの生活に慣れることができると思っていた。
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