2話 重要な話
8時に起床、みんなに説明する心の準備をする。俺の記憶が戻った時にシャルはその場にいたからすぐに言えた。だけど今回は時間も空いてしまったため、みんなにどう説明しようか不安。あいつらがそんな風に俺を見てくるわけじゃないわかっているけど、みんなが俺の事を別人のように見てきたら? そんなことを考えるだけで、言うのが怖くなる。今日会う人たちは俺にとってかけがえのない親友。だから拒絶されたら俺は立ち直れるかわからない。
そんなことを考えていたら9時を回ってしまった。シャルとの待ち合わせまで後30分しかない。すぐに身支度を始める。ここ最近になってワックスを付けるのにも慣れてきたのですぐにできた。朝食を食べて家を出る。遅れるとはチャットで送ったが、5分も遅れてしまった。
「おはようございます」
「おはよう」
「遅いですよ! 早くいかなくちゃ遅れちゃいます」
「ごめん」
少し小走りで駅に向かっていたが、すぐにシャルがヒールをはいていることに気づき、普通に歩き始める。
「大くん。どうしたのですか? 遅れちゃいますよ?」
「シャルヒールはいてるから歩いていこう」
「私のことは気にしないで早く行きましょう」
「ダメだよ。ヒールは足を痛めやすいだろ? 俺のせいでそうなったら嫌だし、今日は楽しく行きたいからさ」
「そうですか...」
「シャルがヒール履いてきたことが悪いわけじゃないから気にしないで。俺が遅刻したのが悪いわけだし、あいつらなら遅れても許してくれると思うからさ。それより歩きながら俺の話聞いてくれる?」
「はい」
集合場所に向かうまで、俺の話を聞いてもらった。みんなに話して拒絶されないか。また友達じゃなくなったらどうしようなど。急いでいるにも関わらず俺の話をシャルはちゃんと聞いてくれる。シャルはそんなことは絶対に無いって言ってくれる。絶対に無いけど、もし拒絶されても私がいるから大丈夫って言われた。今言われてすごくホッとした。でも最後に言ってくれた後、シャルは申し訳なさそうな表情になっていた。
自由が丘のロータリー前に着くとすでにみんながいた。
「遅れた。ごめん」
「遅かったね」
「遅ーい」
「まあいつものことだしいいよ。それよりいきなりどうした?」
「みんなには伝えたいことがあるから、そこのス〇バにでも行かないか?」
「わかった」
みんなでス〇バの飲み物を買う。記憶が戻ったことを説明しようとするが、言葉が出てこない。やっぱり言った後のことを考えると怖い。俺が話さなくて数分立つ。
「大輔。別に言いたくない事だったら言わなくていいんだぜ。ここにいるメンバーは全員がお前のことを友達って思っている。だから言いたくないことがあったら言わなくていい。言われなくても友達には変わりないからな」
「そうだよ! ゆうくんが言う通り。誰だって言いたくないことはあると思うよ! 私だって言いたくないことあるもん」
「え? あるの! 俺にも?」
「そうだよ!」
「まあ上野と雪奈と茶番は置いといてさ、だいくんが言ったことはみんな受け入れると思うよ。言いたくなかったら言わなくてもいいけど、言った方が楽になることだってあると思うよ。今言おうとしていることだって、みんなうすうす気づいていると思うよ。」
みんなから言われて決心がついた。俺はみんなのことを親友だと思っていたけど、心のどこかで信用できていなかったんだな。こんな気持ちで親友と言っていたことが恥ずかしい。
「イギリスに行って、記憶が戻った」
俺はみんなの目を見て言うと、シャル以外の全員が泣いていた。俺のために泣いてくれる友達がいるのに俺は信用をどこかできていなかったことに恥を感じた。それと同時に拒絶されなくてよかったと言う安堵感もこみ上げてきた。
「だいくん。よかったね」
「大輔おめでとう!」
「一ノ瀬行った甲斐があったじゃん!」
「あぁ。お前たちに拒絶されなくてよかった」
俺も泣きながら答える。
「「「拒絶する意味がないじゃん」」」
「俺もどうかしてたよ」
みんなに俺の記憶が戻った事実を言ったので、俺の過去を話し始める。小さいころの話をそのために家からアルバムを持ってきていた。みんなでアルバムを見ていて、シャルと二人で撮ってある写真のページに行く。
「やっぱり大輔とシャルロットは幼馴染だったんだな」
「そうだな。今回記憶を取り戻せたのもシャルのおかげだし」
「そうなんだな。それよりもシャルロットの呼び方変えたんだな」
「俺の記憶が戻ったから、お互い小さなころ呼んでた名前に変えたんだ」
「そっか」
その後もアルバムを見る。優輝は俺の写真を笑い、伊藤と結衣は俺とシャルの写真をかわいいと言う。
シャルと俺ももう一度見ていると、懐かしい気持ちがこみ上げてくる。お互いが印象のある写真を見て、顔を見合わせると笑ってしまう。
「みんなに渡したいものがある。受け取ってもらえるか?」
「「「「もちろん」」」」
俺はバックからキーホルダーを取り出す。絵柄はイギリスの国旗。
「なんでイギリスの国旗なんだ?」
「俺たちとシャルがもし離れ離れになってもこのキーホルダーを見たら、一生思い出せるだろ? 後はみんなと友情って言うかおそろいのものがほしかったからかな。大人になったらこんなに会う機会もないからな」
「そっか! サンキューな」
でも俺がキーホルダーを渡したらシャルは泣き始めた。すると結衣がシャルと二人で話して来ると言ってトイレに向かった。
「お前シャルロットのこと泣かすようなことでもしたか?」
「してないよ」
「一ノ瀬が結衣やシャルちゃんのことを泣かすなんて一生無いだろうね」
「そうだな」
二人がトイレから帰ってくる。
「シャル。なんか悪い事でもしたか? ごめん」
「いえ。嬉しくて泣いてしまっただけなので、気にしないでください。それよりもお昼を食べに行きましょう!」
「そうだな」
みんなでお昼を食べて、カラオケに向かった。カラオケに行くのが半年ぶりで懐かしい。半年前はシャルと伊藤とはクラスメイト、結衣には振られて気持ちがきつかった。優輝とも今より仲が良くなかった。でも今は全員が親友。半年あるとなにがあるかわからない。2学年になったころには今のメンバーとどのように変化しているのかが楽しみだ。
カラオケも終わり家に帰宅しようとした時、シャルが
「皆さんにお話があります」
「シャルどうした?」
「私はあと半年でイギリスに帰国します」
シャルの言っている言葉を理解するのに数秒必要だった。やっと親友になれたのに半年後には帰国だって? やっと学校生活も楽しくなってきて、2年生からが高校生の本番ってところで帰国するんだよ。俺が混乱していたら
「シャルちゃん嘘だよね?」
「本当です」
「シャルロット。それは決定事項なのか?」
「そうです」
「なんで帰るんだよ。やっと、やっと親友になれたのに」
「大輔。一番悲しいのはシャルロットだ。お前がそこまで言うな」
「...」
「その反応だと森本はこのことを知ってたんだよな?」
「そうね」
「結衣ちゃん。いつ言われたの?」
「文化祭の前かな」
なんでこんなに重要なことを俺たちに言ってくれなかったんだよ。すると伊藤が
「なんで言ってくれなかったの?」
「シャルちゃんが望んだからだよ。それに私から言うのはよくないと思う。こんな重要なことを私から言うのはよくないと思うから」
「結衣ちゃんのことを責めないでください。私が黙っていてって頼んだので」
聞いた中で唯一平常心を保っていた優輝が
「今聞いて、みんな整理できてないから学校が始まってから5人で集まって聞こうぜ」
「お前はなんでそんなに平然としていられるんだよ。シャルがイギリスに行って悲しくないのか?」
俺が優輝の肩を掴んで、強く言う。すると優輝が俺の手を振りほどいて
「悲しいに決まってんだろ! せっかくできた親友だぞ。今まで俺に親友と言える友達はいなかったんだよ。男は俺の事を僻んできて、女は俺に色目を使ってくる。そんな中、唯一男友達になったのが大輔だよ。大輔のつながりで個々のメンツと友達になれて俺はやっと居場所を見つけたって思ったよ。でもそれはシャルロットだって一緒のことを思っていると思う。それを俺たちが文句言っても、シャルロットがきつくなるだけだろ!」
「上野くん。ありがとうございます。でも言うのが遅かったのも悪いので」
優輝に言われて我に返る。俺が回りを見回すとみんな泣いていた。優輝は俺が問い詰めて、我慢していた涙が出た感じだ。伊藤は号泣していて、シャルと結衣は少し涙を流している感じ。俺はこんな中で後先考えずに言ったんだなって思う。俺も優輝に言いながら涙が出ていた。
「ごめん。優輝の言う通りだ。今話してもちゃんとした気持ちが伝えられないから。だから学校が始まってからみんなでまた集まろう」
「そうだね」
「うん」
みんなと解散する。シャルと一緒に家に帰る。行きとは違い、帰りはお互いが無言の状態で家に向かった。家に着くとシャルは
「大くん。言うのが遅くなってしまってすみません。でも皆さんにはちゃんと私から伝えたかったので」
「そうだな。俺もあの時は何も考えずに言っちゃってごめん。じゃあ学校でな」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ」
シャルと別れて家に帰る。家に入るとすぐ自室に入り、号泣する。やっと記憶が戻って今後の学校生活が楽しくなるってところでなんで。なんでだよ! このメンバーの誰か1人でもかけちゃいけないんだよ。その時結衣と文化祭を回った時のことを思い出す。書道部で書いてあった言葉。一期一会。今がこの時なんだな。
駄々をこねてもシャルがイギリスに帰ることを変えることはできない。だから俺が告白する日を早めようと思う。そのためにどちらかを振らなくてはならない。でもあの時から選ぶ人は決めている。だから後1か月間のどこかで振る。こんなに早くなるとは思わなかったけど、今から心の準備をしておこう。残り半年間でどれだけみんなとの思い出を作れるか。
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