浄霊セット

 活路が見出せた事で、今日これから行う事は「三条川に行って残留思念を視てくる」というものになった。

 今日は既に霊との対話で時間を使ってしまっていたが、わざわざ明日にすることもない。三条川は狛井骨董店から徒歩で30分も掛からないところにあるし、まだ17時前なので今から出ても暗くなる前に帰れるだろう。――因みに、普段は自転車通学なので自転車があるのだが、今日の朝は雨が降りそうな空模様だったので徒歩にしたのだ。結局、降らなかったのだが。

 そのまま直帰できるようにスクールバッグを手に取ったところで、店主に「待って」と声を掛けられた。

 「これも持っていくといいよ」

 そう言って店主は私の前に、カメラとボイスレコーダーを出した。

 「・・・これは?」

 「これは何か」ではなく「何故こんなものを渡すのか」という意図で尋ねた。少し言葉が足りなかったが、店主はその意図を正確に理解した。

 「君は今まで、霊を縛りつけている残留思念しか視たことがないだろう?霊を縛りつけていない残留思念は、そうであるものに比べて思念が弱い・・・視れる記憶が少なかったり不明瞭だったりする場合が多い。だから、多角的な視点で判断する為にこれらを使った方がいい」

 「はあ・・・分かりました。それで、これはどうやって使えばいいんですか?」

 「カメラでは、実際に霊界に入って思念を撮ってきてほしい。残留思念を視る時は現世から視てると思うけど、写真を撮る時は霊界に入った方がよく撮れるからそうして。必ず何かが写るわけじゃないし、写ったとしても断片的な事しか分からないけど、写真は後でゆっくり見返せるってメリットがあるからね。あ、あとそれ、フィルムカメラだからね。取り直しが出来ないから、枚数に気をつけて。」

 確かに、残留思念を視てもその内容を一度で隅々までインプットするのは難しいので、写真として残せるというのはいいかもしれない。それに、残留思念で視たものを後で伝えるとなると、少なからず私の主観が混ざってしまうだろう。

 ただ、一つだけ不満点があった。

 「・・・なんで今のご時世、フィルムカメラなんでしょうか」

 店主もさっき言ったように撮り直しがきかないし、その上写真をその場で確認する事も出来ない。正直、使いこなせるか不安だった。

 しかし、それにもしっかりと理由があった。

 「実はね、デジカメよりフィルムカメラの方が霊や思念が写りやすいんだ」

 「え、そうなんですか?」

 「うん。そもそも、何で心霊写真って撮ることが出来るんだと思う?」

 「え、霊界との境が曖昧な場所で撮ってるからじゃないんですか?」

 「うん、それもある。でも、そういう場所にいるからって、誰もが霊を視認できるわけじゃないだろう?それと同じだよ。霊や思念の写真を撮るというのは、霊や思念を視るのと同様、霊界に干渉する力・・・霊力が必要になるんだ。ただ、カメラという媒介があるからか、霊界を視たり聞いたりするのとはわけが違う。霊力の高さだけじゃ不十分なんだ。ある程度『撮る』という意識を強く持たなければいけない」

 「・・・要するに、簡単に撮ったり消したりできるデジカメより、それらが安易にできないフィルムカメラの方が、撮るという意識が強くなるって事ですね」

 「そう言う事。やり方はちゃんとこの後教えてあげるから大丈夫だよ。それじゃあ次に、ボイスレコーダーの説明をするね」

 取り敢えず私の表情から不満が消え去ったのを確認したのだろう、店主はボイスレコーダーの説明に入った。

 「これは、300時間以上録れるちゃんとしたやつだよ。まあ、そこまで長時間録音する事は無いだろうけど。これの用途としては、霊界に置いておく事で、霊や思念の音を録る事ができる」

 「霊界に・・・置いておく?」

 「そう。残留思念の断片的な音だったり、霊がいる場合だったら、霊の声を録る事ができる。長時間置いておく方が、よりその音を録れる可能性が高まるからね。あ、音が録れる原理は、カメラと同じだよ」

 「はあ、それは分かりましたが・・・霊界に置いておいて大丈夫なんですか?」

 「まあ、霊相手に使うと壊されちゃう事もあるね。ただ、今回は霊が縛られていない残留思念だって話だから大丈夫でしょう」

 店主はサラッと言うが、そのボイスレコーダーは――ついでに言えばフィルムカメラも――高価そうなものだ。扱いには充分気をつけよう、と思った。


 一通り使い方の説明を聞き終え、私はスクールバッグにフィルムカメラとボイスレコーダーを入れた。

 因みにバッグの中には、今店主から渡された物の他にも、お札が数枚入ったチケットケース、矢立て、スティックのり、ジッパー付き袋に入った塩少々、小さな懐中電灯が入っている。天会寺にバイトに行ってた頃は、これらの物をわざわざ持参しなくても寺にあったし、為辺ためべさんや優里香ゆりかが携帯していたので、スクールバッグに入れると荷物がかさばると理由をつけて、平日のバイトの際は持っていかなかった。しかし、当然店主はそのようなものを持っていないので、今は平日のバイトでもわざわざスクールバッグに入れるようにしている。――荷物がかさばるという問題は、置き勉をすることで解消した。

 さあ今度こそ行ってこようと、入り口の扉に手を掛けたところで、背後から「維純」と声を掛けられた。

 「さっき渡したフィルムカメラでさ、夕方の空も一枚撮ってきてくれない?」

 「・・・はい?」

 「夕方の空。だから、思念を撮る時に、一枚だけフィルムを残しておくようにしてよ」

 「・・・何で、ですか?」

 「何でって?決まってるじゃん」

 不満を隠さずに声色に出して言うと、店主はにっこりと微笑んで言った。

 「綺麗だからだよ」

 その有無を言わさぬ笑顔に、私は呆れつつも無言で頷くしかなかった。

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