第63話 こうして『ヴィスビュー星系辺縁の戦い』が始まった──。
ヴィスビュー星系辺縁──。
すでに巡航加速に移った〈カシハラ〉を中心に、『
その間、
──〝
とまれ〝警告〟を受けた側の『第1特務艦隊』にしたところで〝
この辺り、航宙軍のコオロキ・カイ宙将補は
むしろアルテアン少将の対応・指揮の方が精彩を欠いているのは明らかで、『
一方、〝
7月22日 0750時 【航宙軍護衛艦コウヅ/艦橋】
艦橋の天井に吊られた複合スクリーンを見上げるクサカ1佐の耳に、
『──第1特務艦隊は直径約3万2千kmの〝球形陣〟に展開…… 〈カシハラ〉を傘の中に収めた形で〈アカシ〉に向け遷移加速に入る構えです』
数時間前、ようやく進入してきた〝航宙軍艦隊〟との間で戦術データリンクの同調が終わり、
「──ほ…… やるねぇ……」 戦術マップ上の第1特務艦隊の大胆な機動に
『
「まー、そいつらの加速じゃ間に合わんわな…… しかし……」
これら軽艦艇の加速性能と航続距離では、主戦域の星系辺縁に対し
──こいつはまた〝めんどくさい〟ことになってきたな……。
オオヤシマの統合作戦本部長の直接指揮の下に編成されたという『第1特務艦隊』は、事実上独立した統帥を与えられているらしい……。その意味では〈アカシ〉派遣基地隊もまた統合作戦本部直轄の部隊であったが、この場合の指揮系統は『第1特務艦隊』に隷属するのであろうか。甚だ曖昧と言えた。
「──その〝第1特務艦隊〟の指揮官はコオロキ
クサカ1佐は艦橋の
「ハッ ──データリンクの指揮統制情報は更新されています」
「なるほど……」
──こういう事態を見越して艦隊本部は〝コオロキさん〟を張ってきたわけだものな……。
コオロキ司令の艦隊内での評価は概ね『
「──…こいつはアレか……」 戦術マップの上の光点を確認すると、薄く口元が綻んでしまう。「……
5隻の巡航艦から成る『第1特務艦隊』が、3隻もの
航宙軍は艦隊の中でも〝一、二を争う〟喰えない男を引っ張り出してきたのだった。どうやらオオヤシマ──『星系同盟』は
7月22日 0810時 【
「──〝叛乱艦〟よりの応答、ありません」 通信士の報告が耳に届く。
『回廊北分遣隊』旗艦艦長ラルス=ディートマー・ヴィケーン
この4日間ですでに7度試みられた〝通話〟の呼掛けは、またしても無視された。
さすがにこれほど露骨に〝無視〟をされ続ければ、それは明確な意図で行われたと判断せざるを得ない。ミュローンに対するここまでの礼を失する行動は──
「艦長── 軌道爆雷の投射を開始する。〈エクトル〉が雷撃統制せよ」
ヴィケーンにしてもその命令に異存はなかった。ただ
「よろしいのですか。エリン殿下の救出を事実上放棄することになります。それに周辺には航宙軍も展開していますが」
本来であれば既に軌道爆雷を投射していてもおかしくはない状況ではある。
それを二つの〝要素〟が遅らせていた。
一つはエリン・エストリスセンの身柄確保の要求。
いま一つが〝戦場〟に乱入してきた〝
だがポントゥス・トール・アルテアン少将は、
それでも単独で航行しているのであれば、強攻接舷をして艦を制圧することもできたであろうが、現状では航宙軍の艦艇が間に割って入る形で展開しており不用意に近付くこともできなくなった。そうなれば邪魔立てをする
「〝警告〟は十分したのだ。後は先方の責任だよ」 アルテアン少将は酷薄そうな微笑を浮かべると改めて命令を下した。「──攻撃を開始する。弾着には一応の注意を払うが、標的の損壊の程度については考慮せずともよい。また第一撃については航宙軍艦艇は無視せよ」
その指示は明瞭であった。それに応えるヴィケーン大佐の声もまた簡潔であった。
「
7月22日 0900時 【H.M.S.カシハラ/艦橋】
〝
「よかったのかねえ、帝国軍の〝通話呼〟 無視し続けて……」
第2配備中の艦橋で何とはなしにそう口にした
「仕方ないんだよ。いまここで〝状況を察知〟でもされて取って返されたら、全てが無駄になる」
「いや、そりゃ
「〝喧嘩は高値で〟……って言うだろ?」
手にした
そんな副長に、船務科通信長のシュドウ・ナツミ宙尉が口を挟んだ。
「航宙軍の方とはデータリンク、繋げなくていいんですか?」
同空域に球形陣を広げる第1特務艦隊からは、戦術データリンクの
「──いま繋げたら、
艦長席上でわずかにきまりの悪そうな表情の〝
「だからって通話回線まで封止しなくていいんじゃないの? レーザー回線なんだから
「…………」 珍しく煮え切らないでいるツナミ。
艦長のその様子にシュドウは小さく息を吐いたが、それ以上は何も言わなかった。
そんな
ミシマと違い〝個性を余すことなく発揮する〟を旨としていたツナミやイツキは、何度も特別に指導──平たく言えば〝説教〟──を受けた人物なのだ。……まあ、苦手意識というヤツである。
そんな間の抜けたやり取りは、主管制卓に座るイセ・シオリ宙尉の切羽詰まった声に破られた──。
「帝国軍各艦の周辺に熱源……軌道爆雷の推進剤点火と推定── その数……22!」
「きたか……」 手元の端末の画面から目線を上げた
「第1配備── CIC開け」 艦長のツナミは全艦に総員配置を告げる。
「観測、加速データ、こっちへ回してくれ」
七月二十一日の時点で〝皇女殿下の艦〟から〝
こうして『ヴィスビュー星系辺縁の戦い』が始まった──。
先手を打ったのは『
その動きを察知した〈カシハラ〉であったが、同じ空域に展開する『
この段階の『第1特務艦隊』は、まだ〝
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