第22話 帝国・公国・評議国
あのオーラスト王国の防衛戦から3日後、ここはギルクローネ帝国帝城の一室。
「それで首尾はどうなのじゃ?」
「はっ!オーラスト王国に送っている間者よりの報告で確認いたしましたところ、召喚された火乃宮 蓮なる人物は悪魔の軍勢を
報告した部下に対して皇帝は急に鋭い視線を投げかけ部下を叱責した。
「たわけ!報告は一番重要な要点を素早く簡潔に伝えよといつも言っておろう。
叱責を受けたことで報告している彼の額から大量の汗が流れてくる。まるで土下座の様な姿勢にまで頭を下げている床には汗で染みが出来ているほどだ。皇帝の機嫌を損ねれば自宅には自分の首しか帰れなくなることは前任者の末路を見て理解していたからだ。
「も、申し訳ありません。あまりにも
「愚か者が!それは妾が決めること。おぬし如きが考えることではないわ!」
「はっ、大変申し訳ありませんでした!」
彼が今回の報告において真偽の確認を優先していたのは、前任者が出所不明な偽りの情報を皇帝に
その光景や対応をまじかで見ていた彼は恐怖のために視線を上げることが出来ず、ずっと床に視線が固定されてしまっている。彼にとって皇帝は全てにおいて正しい。たとえそれが理不尽なものだったとしても、力ある者に対してはただ肯定することでしか長生きできない。それが帝国で生きていくという事だ。
「真偽は確認中にございますが、火乃宮 蓮の作り出した武器によって魔獣を全滅させたとの事にございます。その武器は空を目にも止まらぬ速さにて轟音と共に飛び去り、気付くと大森林表層が荒野のように成り果て、辺りには魔獣たちの血肉が飛び散っているだけだったと・・・。」
「ふふっ、すばらしい!その力、是非妾のものとしたい。」
皇帝にとっては手段はどうでもよかった。火乃宮 蓮という人物が作った武器が結果として魔獣どもを皆殺しにできたという点が重要だった。
魔獣の数は2千を超えていたと報告が来ている。敵魔獣の展開状況にもよるが、自分の攻撃系最大の第2位風魔法「暴虐の嵐」でも最大に魔力を注いで300~500始末できれば大戦果といえる。
その4倍以上の戦果を一人の人間が可能だというのは想像の
だからこそ皇帝は動き始めていたのだ。
「それで、もう一つの首尾はどうじゃ?」
「はっ!アスタルト教国には火乃宮 蓮の支援要請を打診しており、既に了承されております。」
「よろしい。それで報告や情報からお前はその者をこのギルクローネ帝国に引き込めると考えるか?」
「現状では難しい可能性があります。かの者は召喚されて時間が短く、足場を固めるためにまず広く世界を知りたいと発言しているらしいです。一度の接触で取り込むには相当大きな餌が無ければ難しいでしょう。」
「その餌が妾だったとしてもかえ?」
非常に答えずらい質問だ。この帝国の国家元首に対し難しいと言えば不敬とも取られるし、大丈夫と言えばもし失敗したときに自分の首が飛んでしまうかもしれない。必死に言葉を選んで発言する。
「男性にはいろいろな好みがあります。それは身長や体格や年齢など様々です。その調査は最優先にさせております。ですが容姿においてはこの世界に皇帝の右にでるものなど居りません。」
「ふっ、そうか。では取り込めぬ時には暗殺部隊の用意をせよ。もちろん悪魔が消滅してからじゃぞ。」
「皇帝のお心のままに!」
ようやく顔を上げた彼の目に映ったのは、表現していた通りの絶世の美女がソファーに変わらず横になっていた姿だった。
艶やかな黒髪をアップに纏め上げ、綺麗なうなじが
彼は自分の欲望を抑え込むように生唾を飲み込み、
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フロリア公国宰相執務室、酪農や農業などの一次産業が盛んなこの国において、この国の行く末を決めている行政、司法、立法、外交、防諜、産業、公室を担当する7人の大臣たちが集まっている。
その雰囲気は重々しいものではなく、この公国の特色なのかどこか穏やかな感じだった。
そんな中で防諜を担当している部署の大臣が先陣を切る。
「教国が召喚した火乃宮という人物はどうやら相当な力を持っていることは間違いない。」
その発言を受けて行政の大臣が口を開く。
「そうか、我が国も悪魔の軍勢とみられる侵攻が最近見受けられておる。教国に要請をしておくかな。」
「そうですな、ではそのように王に報告しましょう。ところで王は今どちらへ?」
「いつもの所だ、分かっているだろう。」
「はぁ。前王が急に亡くなられ、わずか16歳で即位されましたからいた仕方ないかとは存じますが、
「そう言うな、あのお方の頭脳は極めて優秀でいらっしゃる。ただ少しばかり欲望に忠実すぎるだけだ。」
フロリア公国の新国王は知王として民衆からの人気が厚い。農地改革や経済改革などで暮らしの質が向上し国民は皆王に感謝をしているほどだ。ただ、女遊びが好き過ぎるためにあちこちで女性にまつわるトラブルを巻き起こしてしまっていた。そのトラブルの対処や予防のため公室部署が新しく設立されたほどだった。
「では公室大臣に報告は任せた。外交大臣は教国への要請をお願いする。では今日は解散だ。」
時刻は17時、ちょうど定時の時刻だった。この後の行動は主に2通りしかない、家で飲むか店で飲むかだ。
そう、この国は悪魔の侵攻があってもただただ平和で穏やかなお国柄だった。
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アッセンブリー評議国会議室、評議国は商人の国であると周囲の国からは認知されている。主要な10の商材を取り扱っている商会の長たちの合議によってこの国は成り立っている。
この会議室の円卓にはその10の商会の長たちが一堂に会していた。その議題は勿論召喚された火乃宮 蓮についての事だったが、会議の方向性は若干違っていた。それは評議国はまだ本格的な悪魔の侵攻の被害に会っていなかったためだ。
「その報告は誠か?」
「ええ、帝国の間者に十分な報酬を払って得た情報です。まず間違いないかと。」
「では奴は何の制約や材料も必要無く物を作り出せるという事か・・・。」
「これは一大事です。奴がどこかの国に所属し、そこで無尽蔵に商品を作っていけば我が国の国力は著しく低下しますぞ!」
「我が国へ取り込むよう動きますか?」
「いや、仮に取り込めたとしても各商会におけるバランスに著しい不均衡が生じてしまう。それは評議国の不和を招きかねない。排除が第一優先だろう。」
「そやつは殺せるのか?」
「現在王国と帝国にて腕利きの者たちの買収を行っておりますので、近いうちに答えは出るでしょう。」
「分かっていると思うが、そやつが悪魔を消滅できるのならその後だぞ!」
「分かっている。すべては評議国の利益のためだ!」
この国は商人たちで成り立っている。それはすなわち評議国に利益が無ければ、自分の商会に利益が無ければ動かない。逆に自分たちに金銭的に損害が発生する可能性が少しでもあれば即座に行動に移す。まさに商人魂逞しいといった人物たちの集まりである。
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