第21話 獣人地区

 廊下に待機していた護衛のカイに鑑定の光魔石を頼んで自室に戻った。

テーブルに座り、さっきの書庫での事を考える。


(獣人か・・・人は自分たちと違うというそれだけで残酷になれるものだからな・・・私の世界でもそれは歴史が証明している。)


 かつてのユダヤ人迫害や黒人に対する根強い差別などの、生まれや考え方の違い、肌の色でさえ迫害の原因となる。人間とはそんな性質を持っている。そして獣人は獣のような見た目と、人の身ではありえない魔法を使えないという特徴がある。ならば今も相応の扱いを受けているのではないかと簡単に想像できる。


「周りがそんな対応の中で獣人を愛してしまえば、誰にも知られるわけにはいかないだろうな。まぁ、あの本の作者には悪いが、私がどうこう出来る規模の話でもないか・・・。」



 とりあえず獣人についての思考を私の能力についてに切り替える。


「さっきの鎖では成功したけど、何が条件なんだ。」


 さっきの成功から付与できた時の関連性を考える。部屋の中をぐるぐる回りながら様々な可能性を考え、ありえないと切り捨てていく。数十分考えているとある仮説に辿り着いた。


「もしかして、その物に知識が定着しているか否かで付与が出来るかどうか決まるのかも・・・。」


 その仮説とは、例えば服は着ていると汚れるし、脱いだからと言って綺麗になるわけではないという事は知っている。椅子は自動で動くわけではないと知っている。それはその物に対して知識が既に定着しているのではないか。

そして、魔具や鎖についてはどちらも何だかよく分からない物という共通点がある。つまり知識が定着する余地があるのではないかと考えられる。


 とはいえ、それらが生み出された当初はきちんと定着した知識があったはずだが、長い年月のすえにほとんどの人々がその物の知識を忘れることで定着余地が生まれるのだとしたら・・・


「なんて使い勝手が限定された能力だよ!」


 もしこの仮説が正しいとすれば、私の能力で作った物にはこういうものというイメージで創造している為知識の定着余地がない。町で普通に売られている物も定着余地などない。となると、遺跡から見つかったようなよくわからない物でないと使えない。

しかも遺物は高すぎるという事を考えれば、すごい能力だがその分制限も凄いという事だ。


「そうなると今後はお金を稼ぎながら遺物いぶつ探しも並行しておこなっていかないとな。あとは、私自身を守る装備の開発も進めていこう。」



 方針を決めていると扉がノックされ、カイが鑑定の魔石を持って来てくれた。

この後に獣人地区へと行ってみたかった私は彼を部屋に招きテーブルへ案内した。


「待たせたな、あの防衛戦で魔獣どもを全滅させているからレンのレベルは相当上がっているはずだぜ。護衛なんて要らないかもしれないな!」


笑いながら、それでいいのかと思うようなセリフを投げ込んでくる。

苦笑いしながら魔石を受け取るとさっそく指先で砕き、自身の状態を確認する。


ーーーーー ーーーーー ーーーーー ーーーー


名 前:火乃宮 蓮(ヒノミヤ レン)

レベル:160    体力:48000  魔力:-----

スキル:知識創造(限定開放)(付与可能)

    万物封印(1/5)

称 号:統治者 開発者 死を運ぶ者 異世界の理を持つ者 救世の英雄 支配者     悪魔の怨敵 未熟な封印者


ーーーーー ----- ----- ----


(うーん、レベルが凄いことになっているな。やはりスキルも知識創造が付与可能になっているし、なによりさっきの本の影響か、万物封印なんてスキルが増えている。というか悪魔のってなんだよ・・。)


 上がりすぎているレベルや新たな能力に、なぜか悪魔に恨まれているような称号といろいろ確認したいことができた。今後どこまでの能力を話し、なにをしていこうかの考えをめぐらせていると、カイが話し掛けてきた。


「で、どうだったんだレン?」


「あ、ああ。レベルは100を超えているよ。」


「マジか!?すげーな!俺の知る限り教皇様が90位だったから世界有数のレベルだな。けど気を付けろよ、レベルが高いイコール強いじゃないからな。そこに技術が無ければ簡単に自分より下のレベルの奴にやられちまうからな。」


「ありがとう。肝に銘じておくよ。」


 どうやらこの世界はレベルがすべてというわけではなく、技術を身に付けなければ本当の意味では強者足りえないらしい。そういう意味では努力した者が報われるということだ。


「まぁ、相手とのレベル差が5倍を超えてくると傷一つ付けるのも難しいって事らしいが、俺の周りの同僚はそんなに大きな差は無いから試せないけどな。」


「ははっ、私も痛い思いはしたくないので、出来れば試す機会は来ないでもらえるとありがたいよ。」


「そりゃ違いない。」



 話に一段落着いたところで獣人の居住区に行ってみたいことをカイに告げる。


「獣人?なんでそんなもの見たがるんだ?」


「私の世界に獣人という種族は居なかったんだ。知らない事を知りたいと思う好奇心は誰にだってあるだろう?」


「ふ~ん、そんなもんか。俺たちは見飽きているから良く分からんけど。ちょっと待ってろ、今許可を貰ってくるから。あ、そん時はあの王国の護衛も来るから覚悟しておけよ。」


 そう言えば今後外出の際には彼女たちを護衛に付けると言われていた。きれいな女性に言い寄られるのは悪い気はしないが、今は色々な国や人の思惑がありすぎて素直に誘いに乗ったら身動きが取れなくなりそうなので、悟りを開いた偉人のごとき対応をしなければならないのが苦痛になる。


「そうだったね。はぁ、覚悟しておくよ。」


「レンも大変だな。じゃあちょっと行ってくる。」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 獣人地区は王城からは離れた、いわゆる貧民街ひんみんがいのようなところにあった。辺りを見渡すと長屋ながやのような建物が立ち並び、王都観光したあの場所とはまるで雰囲気が違っていた。


 ちらほらと獣人と思われる人々が見受けられるが、どの獣人もその眼に力が無かった。所々破れたような服を身にまといボサボサの髪をしている獣人たちを見てこの国における獣人の存在位置を知る。

 そして皆一様に首には黒っぽい首輪をしていた。おそらくこれが精神操作から守るための魔具なのだろう。


(ウサギ耳や猫耳、角が生えていたり、鱗を纏っていたりと様々な男女の獣人が居るが、思っていたより獣に寄っているような姿だな。)


 元の世界のアニメなどで見たようなほとんど人間の容姿に獣耳が生えただけというわけではなく、体毛は獣のようにふさふさしている。爪も鋭く伸びており、口から覗く牙も簡単に肉を突き刺せそうなほど鋭い。顔は人のようだがそれ以外は確かに獣を思わせる風貌ふうぼうをしている。


「ねぇねぇ蓮様、獣人なんか見てどうするの?」


 ピナが問いかけてくる。別にこれといって目的があったわけではなく、ただ知らなかったから見てみたかっただけなので言ってしまえばもう目的は達している。


「私の世界には獣人は居ないから、どんな人たちなのか見てみたかったんだよ。」


「ふ~ん、良かった。てっきり蓮様ってそっちの趣味なのかと思ったもん。」


「そっちの趣味?」


「はい、貴族の方の中には獣人との行為や獣人同士の生殖行為に大変興奮する方もいらっしゃいます。獣人はそれなりの値段で買えるので何匹も所有している方もいますが、大抵重労働用に買うか愛玩用ですから。」


ピナに変わってレイノールが獣人についての扱いを説明してくれた。


「なるほど、そうなんですね。」


「それと火乃宮様、獣人を人とは呼びません彼らはあくまで獣人ですから。」


この王国、もしかしたらこの世界の人々は獣人とは人に近い姿をした動物のような認識なのかもしれない。


「分かりました。ところで、獣人と喋ってみることは可能ですか?」


「じゃあピナが呼んでこようか?どんな獣人がいい?」


別に誰でも良かったので目についたウサギ耳がある女性を指さし、ピナに伝えると素早く声をかけに行き呼んできてくれた。


「は、はじめまして英雄様。わ、私は069ぜろろくきゅうばんです。」


どうもこの居住区にいる獣人には名前というものがないのか、番号で言われた。


(これではまるで家畜だな。)


069番と名乗った彼女は体はスレンダーでモコモコとしたウサギのような体毛で、顔は鼻がウサギの様にヒクヒクしている。だが一番目を引くのは長いうさ耳だった。


 もし元の世界のケモナーがここにいれば歓喜するだろう。ただ、この世界で彼女たちはいわば家畜。家畜に親愛の情を向けてしまえば精神の病を疑われるかもしれないと推測する。


(話し方も相応にしないと白い目で見られそうだな。)


私が考えている最中にも彼女はビクビクしながらこちらのようすをうかがうだけだった。


「君はどんな仕事をしているのかな?」


「は、はい。・・・私は幸運にも来週に第三位貴族様の元へ雇って頂けます。そこで、庭木の剪定と主様をよろこばすお仕事を頂けました。」


 なんだか違和感を覚える返答に首を傾げてしまう。口元は笑っているが、その目は今にも泣き出しそうな程涙を貯めていたのだ。


「これはアルミラージの獣人かなぁ。耳が刃物みたいな切れ味で庭仕事には適しているんですよ~。もう一つの仕事は単に飼い主の趣味じゃないかなぁ。」


ピナがまるで商品の紹介みたいな説明をしてくれた。


「なるほど、獣人にも能力に合わせた仕事が割り振られているんですね。」


「そうだよ~。あ、蓮様の夜の相手ならピナがいるからね!」


 そう言うと自分の無い胸を腕に押し当ててくるが、残念ながら、肋骨ろっこつが当たるような固い感触でしかない。そこにレイノールが無言で腕を取り豊満な胸を押し当てて来た。


「もちろん私もです。」


「止めないか貴方たち、はしたないですよ!」


今日はクロスティーナがいないので、代わりにルナが声を荒げる。


「ふふっ、いつでもお部屋に呼んでねっ!」


ウィンクをしてこちらをあおってくるピナに焦りながらも平静を保つように努力する。


(ある意味私も家畜みたいなものだな・・・)


もし種馬に感情があるならこんな気持ちを持つかもしれないと思いながら、獣人地区を後にした。

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