Episode11-A やっと気づいた?
駅構内はそこそこ混雑していて、背の低い私は爪先歩きで、友達の千鶴(ちづる)と彼女のお兄さんを探し回るはめになった。
学校は違うけれども、千鶴は私と同じ中学二年生だ。
彼女には大学生のお兄さんがいて、私自身はお兄さんに直接の面識はないも車で迎えに来てくれると聞いている。
お兄さんが運転する車でSNS映えする人気スポットまで乗せていってもらい、後は私と千鶴の二人で久しぶりに目いっぱい遊びまくる予定なのだ。
バッグを胸の前で抱きかかえたまま、爪先立ちでキョロキョロし続けている私に、「おーい、こっちこっち」と大学生ぐらいの男の人が親し気に手を振ってきた。
もしかして、あの人が千鶴のお兄さん?
けれども、近くに千鶴の姿はない。
「迎えに来てくれてありがとうございます。どうして、すぐに私のこと分かったんですか? もしかして千鶴に写真を見せてもらってたんですか?」
「…………ああ、まあね」
「千鶴は今、どこにいるんですか?」
「あいつなら先に行って待っているよ。俺が車で連れて行くから。ほら、バッグも持ってあげる」
強引に私のバッグを手に取ったお兄さんは、スタスタと歩き出した。
少し嫌な感じというよりも怖くなってしまったが、私がお兄さんの車――黒いワゴン車――の助手席に座った時には、ちゃんとバッグは返してくれた。
車の中は、これでもかというほど煙草の匂いが染みついていた。
それに何か別の匂いまでもが、ムワリと漂っていた。
碌に掃除もしていないのか、助手席の足元に置かれたゴミ箱からは、白いティッシュが溢れんばかりだった。
滑るように走り出した車。
お兄さん自身も、車中のこの臭いは自覚しているのか窓を全開にした。
ハンドルを握ったまま、お兄さんが私に聞く。
「ええと、中学一年生ぐらい? まさか、まだ小学生だったりする?」
「いえ、中学二年生です。千鶴と同い年なんですけど……」
「へえ、そうなの」
なんだろう? この違和感。
その時、私のバッグの中のスマホが震えた。千鶴からの着信だ。
「ねえ、いったい、今、駅のどこにいるの? 私とお兄ちゃんとで、ずっと駅の中を探しているんだけど……」
それが千鶴の第一声だった。
どういうこと? 千鶴は今、お兄さんと一緒にいる? 駅で私を探してくれている? じゃあ、この人は誰なの?
「やっと気づいた?」
低く笑った運転席の男は、私の手からスマホをもぎ取り窓から放り投げた。
そして、アクセルをグンと踏み込んだ。
(完)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます