第5話:奴隷商の息子は臭い奴隷が嫌い①
俺は片山
でも、幸か不幸か色っぽい声をした女神様に、異世界の肉体をいただいて残りの余生をいただくことができました。
しかも、偶然にも名前がニートという男性。金髪イケメンでスラっと長身なのです。
これは、ありがたいと思ったのですが、なんとこのニートという男は奴隷商の一人息子で鬼畜だったのです。
この世界の父親も、屋敷に住む召使いの人たちも、みんな俺のことを恐れた目で見てきます。
話しかけようと思っても、地面に伏して顔を上げず、嵐が過ぎ去るのを待つのみという感じで微動だにしません。
それでも、執事のアルノルトさんは、俺に対して率直に意見してくれ、何もわからない俺に色々と教えてくれます。
まだまだ、この世界のルールはわからないので腰を低くして、やっていこうと思います。
俺は、部屋の机の上にあった紙に、暇つぶしに日記のようなものを書き連ねた。
この世界の文字も読めるが、日記なので日本語で書いておいた。こっちの人が読めるのかどうかわからないけど、読まれたくないもんね。
狐耳の少女が気になったので、部屋に連れて来てもらえるよう執事にお願いしていたけど、そろそろ来る頃かと俺は立ち上がった。
ドアの前で耳を澄まし、廊下の様子を探る。
まだこの館の勝手がわからないので、自分で探索するのは怖い。まだ自分の家だという感覚がないのだから仕方がないが。
廊下に足音が聞こえて来た。アルノルトの声が聞こえてくる。なんの話をしているのだろう。
「アーヴィアよ。今朝からニート様は私に対して丁寧な口調で話されている。ということは、これは圧力なのだ。丁寧な言葉で威圧して来ていることは、アーヴィアも今朝の様子でわかっていると思う」
「はい……たしかに、丁寧な口調をされていました」
え? もしかして、敬語で話したのを威圧的に感じてるわけ?
ニートってやつは普段どんな口調で執事や奴隷に話していたんだろう。
俺が、丁寧に話すことによって奴隷や召使いの人たちが恐れてしまうことにショックを受けた。そういえば、アルノルトさんに話しかけた時ギョッとされたのは、そういうことか。
これからはこの肉体で余生を過ごさないといけないのだから、鬼畜でクズな息子を演じていかないといけないってことなのかもしれない。
丁寧口調はやめて、命令口調の方がもしかしたら安心するのなら、そうしよう。
二人の会話を聞くため、ドアに耳をつけた。
「しっかりお務めしてくるのだよ。無事を祈る」
アルノルトさんの声と同時に、ノックの音。うわっ、耳がっ!!
もろにドアのノック音が耳に直撃し、驚いた俺は尻餅をついてしまった。
「どうぞ」
なんとか、声を絞り出したけど変な声になってしまった。
狐耳の少女が、ドアを開けて入って来た。やはり下を向いたままだ。髪は茶色で長いが、洗っていないのかベトベトしているようで汚い。
さらに、足もずっと裸足だったのだろう。黒ずみ、ところどころ
掻きむしったのか、虫刺されのような後もあった。
頭の先から、つま先までつい舐めるように見てしまったが、彼女はそのことには気付いていないようで、じっと立っている。
「どうぞ。中に入って」
「は、はい……」
ビクッと肩が震えたと思うと、部屋に入るとドアを閉め、そして土下座の姿勢をとった。あれ?この世界のルールか何かですか?
そうだ、丁寧口調ではなく命令口調の方がいいのだった。
「正座しなくてもいいから、立て!」
俺は、命令口調で言ってみたが、そんなのガラじゃないし、女の子に命令口調なんてしたことなかったので胸の鼓動が激しくなった。
心臓バクバク状態だけど、女の子がスッと立ち上がったので安心した。
「名前は? 名前はあるんだろ?」
「あっ、はい…… アーヴィアです」
狐耳が、ペタンと頭に垂れているのを見ると、かなり元気がないってことかな。狐って犬みたいに尻尾を振ったりするのだろうか。
俺は、しばらく少女を見ていたが何もしゃべらなくなったので、さらに話しかけてみることにした。
「えっと、突然呼び出してすまん。驚いただろう」
俺、ちゃんと命令口調で話せてる?っていうか、女の子にこんな口調で話して嫌われたりしないだろうか。
もともと嫌われているんだから、そこは気にしなくてもいいんだろうけど、できることなら仲良くやりたいしなあ。
「だ、大丈夫です……精一杯ご奉仕……します……」
「ああ、励め!」
うわ、励めってなんだそれ、時代劇かよ。
もっと気の利いたこと言えば良かったと猛省していたところ、狐少女はスルスルと身につけていた服を脱ぎ始めた。
「な、なにを…… なんで脱ぐの?」
「す、すみませんでした……ぬ、脱がしてくださるの……ですか。でも、手が汚れてしまいます……」
「いや、脱がしたりしない」
その言葉を聞くと、少女の体からストンと服が床に落ちた。
うーむ、痩せこけていてどうみても栄養が足りてないな。胸もペタンコだし、腹だけは幼児体型みたいにぽっこり出てるし。
それに、ひどく浅黒いんだけど、色黒ってわけじゃなくて垢だな、これは。
「ず、ずいぶん汚いな。風呂には入っていないのか?」
「あ、はい……もうしわけございません。汚い体をお見せして……ふ、風呂はこのお屋敷に来てから一度も……」
恥ずかしくなったのか、手で胸と股の部分を隠しているが、あまりにも貧相な姿に俺の下半身も無反応だ。
それよりも、風呂に入ってないとは、奴隷って風呂に入らないものなのだろうか?
「え? この屋敷に来て一度も風呂に入ってないの? それは奴隷だから? それとも獣人族は風呂が嫌いなのか?」
俺は、驚いて思わず普段の口調で話しかけると、少女は慌てて土下座する。
「も、すみません、すみません……決してお風呂に入れてもらっていないと文句を言っているわけではありません。すみません、すみません」
「かまわん。怒ってなどいない。興味があったから聞いただけだ。お前たちは、風呂に入らないのか、それとも風呂に入れないのか」
少女は、床に頭をこすりつけている。全裸の少女を土下座させるなんて、俺にはできない。
立ち上がらせようと、腕を掴んで引っ張り上げようとした。
「ひぃっ! 申し訳ございません。申し訳ございません……」
おいおい、元の俺ってどんだけ恐れられているんだよ。この調子では全く会話が成立しない。土下座と謝罪は禁止ってことにしたらいいのかな。
「立て。今後、土下座禁止だ。いいか、何があっても俺に土下座するな」
「はい、土下座禁止……わかりました……土下座……」
意外とすんなりと受け入れてくれたので、安心した。腕を持って、少女を立ち上がらせる。
「アーヴィア以外の奴隷も、風呂には入ってないのか?」
「はい、奴隷の家には風呂はありませんし、水浴びも以前はあったと聞いたことがありますが私がここに来てからは一度もなくて」
ずっと気になっていた獣みたいな匂いは、獣人族だからってわけではなく、風呂に入っていなかったからってことか。
俺は、奴隷たちがどのような環境で過ごしているのか、気になった。
「アーヴィア。お前たちの家に案内してくれないか」
「えっ、それは……ご主人様に来ていただくような、そんなところでは……」
「なぜだ?」
思わず強い口調で、言ってしまった。すると、またしても土下座!
さっき土下座禁止って言いましたよね? もう、身についた習慣みたいなものなのかもしれない。
「アルノルトさんを呼んで来てください。それと、服は着てください」
「も、申し訳ございません。お許しを、お許しを……」
しまった。丁寧な口調で話しかけると、怖がらせてしまうんだった。
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