11 ボーカル

11-1

 11 ボーカル


 鳴り響くチャイムの音が、まるで天使の笛の音のように聞こえた。

 ――終わったぁ……。

 学園祭前の最後の鬼門、中間テストがようやく終了したのだ。

 今回のテストは本当にきつかった。結果はどうあれ、乗り切った私の事を、私は大いに称えよう。

 嗚呼、自画自賛也……。

「お疲れ~」

「どうよ、出来は?」

 道子と紗絵が、二人して私の席にやってくる。

「ん~、まぁ、無事いつも通りってとこかな?」

 赤は無いだろうが、上位に食い込む程でも無いだろう。いつも通りの平々凡々な点数が予想されるが、今回はいつものテストに加え、ギターと言う特殊課題があったのだ。それをこなしながらの現状維持ならば、褒められてしかるべきだろう。

 とは言え、ギターの腕がそれ程上達したとは思えない。それに正直な所、いい気分転換と現実逃避になってくれた位である。

「私は今回良かったと思うんだ~」

 得意気に笑う道子に、紗絵が作った声を出した。

「なんたって、ユウ君と付きっきりでお勉強したんですもの~」

「紗絵、それ私の真似?」

「似てるでしょ?」

「似てる似てる。実際その通りだしね」

 余裕たっぷりの今の道子には、紗絵のおふざけすら小気味いいのだろう。事実、道子と祐一君はテスト期間の間中、暇を見つけては図書館デートを繰り返していた。サッカー部がテスト休みの期間に入ってからは、それこそ毎日だ。私も何度かお邪魔させて貰ったが、祐一君と言う優秀な先生に付きっきりで勉強を教えて貰っていた道子に対し、本気で嫉妬すら覚えてしまった。

 あれで成績が上がらないなんて嘘だ。

「そんで、あんたは?」

 道子が紗絵に聞き返す。

「ん? ま、流石に赤は無いだろうけど、いつもよりは手応えは無かったかな~。こっちの方の手応えは、そこそこあるんだけどね~」

 空気中のギターを爪弾きながら、紗絵は照れ臭そうな笑みを浮かべた。

「まぁ、試験も終わったし、今日はサクッとカラオケでも行かない?」

「乗った!」

 道子の舟に、すかさず紗絵が乗り込む。

「折角だから、他のプロジェクトメンバーにも声掛けて見ようか。ちょろっと打ち合わせしたいのもあるしね」

「OK。そんじゃ、私は委員長に声掛けて来るわ。紗絵はとりあえず塚君で」

「あいよ」

「和葉ちゃ~ん」

 道子が猫撫で声で、にやけた顔を近づけて来る。

「あんたは、大藤と川口、お願いね」

「うん、いいけど、なんでそんなニヤニヤしてるの?」

「いや、何でも無いわよ?」

 微妙な企みが透けて見えないでも無いが、特に反発する理由も無いので、首を縦に振った。

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