7-3

 湯船を溜めている間に一度部屋に戻ると、階下から母の声が私を呼んだ。

「ちょっと、和葉ー!」

「なーにー?」

 部屋から顔を出し、大声で返す。

「あんた、ご飯どうするの?」

「あー、考えてなかった~!」

「その辺お友達と確認しときなさい。食べるなら、何か軽く作るから」

「うん、ありがとう」

「それと、ちゃんとお湯見ておきなさいよ」

「分かってるわよ~」

 大声の会話を中断し、道子と紗絵に食事に関してのメールを送る。

 すぐに道子から返信があった。

『うちらは早めに行くから、縁日で済ませるけど、あんたらは食べて来てもいいんじゃない?』

 可愛らしい絵文字で送られてきた女子力の高いメールを翻訳した内容は、結局紗絵に確認を取るしか無いと言う結論に至るものだった。

 携帯を片手に再び脱衣所に向かう。

 下着姿になった所で紗絵からのメールが届いた。

『時間も時間だし、軽く何か食ってった方がいいんじゃね? って訳で大藤への連絡は任せた』

 道子とは対称的に、男らしいシンプルな文面で送られてきた紗絵からのメールを受け、ほぼ同時に台所へ言葉を放つ。

「お母さーん。ご飯いるわ~。食べる~!」

 暫し待っても返事が無かった為、脱衣所より顔を出してもう一度叫んだ。

「お母さーん、聞こえたー?」

「はいはい、なぁに?」

 台所とは逆方向から登場した母は、私の姿を確認するなり呆れるような声を出した。

「あんた、年頃の娘が、そんな格好で出てくるんじゃないの」

「別にいいじゃん。家なんだし」

「お父さんもうすぐ帰ってくるわよ?」

「お父さんだったら全然平気だもん」

 正直、全然平気と言う訳では無いが、話しの流れ上強がっておく。

「それで、何?」

「ご飯食べる事になったから、お願い」

「あんまり食べ過ぎるんじゃないわよ。お腹出て、浴衣格好つかないから」

「分かってるわよ」

 そこで、下着姿がたたった所為か、一つくしゃみが出た。

「ほら見なさい。そんな格好してないで、さっさとお風呂入っちゃいなさい」

「は~い」

 脱衣所のドアを閉め、武者震いを起こした腕を軽くさすった後、下着を脱いだ。

 お風呂場のドアを開ける前に、ふと思い出し、玲央君にメールを打つ。

『玲央君、夜遅いので、何かお腹に入れておいて下さい』

 送信ボタンを押し、携帯を閉じる前に時間を確認する。

 4時44分。

 ――うぇっ、見るんじゃ無かった……。

 たまたま時刻を確認した時間が4並びとは……。迷信を然程気にするタイプではないが、何か嫌な予感がしてしまう。

 ――でもまぁ、よくある事だよね。うん、よくあることよくあること……。

 無理矢理自分に言い聞かせながら、お風呂場のドアを開けて、浴衣と言う戦闘服に着替える前の儀礼、身を清める作業に取り掛かった。

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