6-6
程無くして、車はお目当ての海水浴場へと到着した。
駐車場から見下ろした海は、天気も良い為か、沢山の人で溢れていた。
「うっわ、すごい人ですね」
「そうだね、まぁでも、泊まりの人はあんまり居ないだろうから、夕方過ぎたら静かになると思うよ」
紗絵と順哉さんのやりとりを聞きながら、持参した荷物を車から運び出し、皆で砂浜へと向かった。
パラソル群が犇めく場所から少し後ろに陣取る。
太陽の勢いは思っていたよりも強く、肌がじりじりと焼ける。
荷物を纏めた所で、祐一君が、テント張っておくから女の子達は先に着替えておいでよ、と言ってくれた。
車の中で聞いたことだが、彼が所属するサッカー部は、毎年キャンプ合宿を行っている為、テントの張り方と畳み方には自信があるらしいのだ。今日使う二つのテントも、彼が持ってきてくれたものである。
「ああ、男三人いれば余裕だよ。野郎は着替えるのも早いし、行っておいで」
順哉さんもそう笑ってくれた為、女三人、お言葉に甘える事にした。
「ユウ君本当は、早く私の水着姿が見たいだけなんじゃないの?」
「何言ってんだよ、そんなの早く見たいに決まってるだろ?」
「やだ~、もう~、正直なんだから~」
道子と祐一君が、コントのようなやりとりを繰り広げている。
「はいはい、さっさと行くよ」
そんな道子の腕を紗絵が引っ張って行く。
私も二人の後に従い、海水浴場に設置された簡易更衣室へと向かった。
焼かれた砂が、時折ビーチサンダルの隙間に入り込んで来る。
「順哉さんって、想像してたよりも随分幼い感じね」
「そう? でも、話してると、考え方とか結構しっかりしてるし、見た目が若く見えるだけじゃない?」
「そうかな~? ま、車運転出来るってのは、確かにポイント高いわよね~」
紗絵と道子のやりとりを耳に溶かしながら、私は腕の中に抱えたビキニを着た状態で、玲央君の前に立つ事を想像していた。
――可愛いと思ってくれるだろうか?
柄にも無く、そんな事を考える。
だけど、想像上の玲央君は、表情を崩さないまま、まぁ、いいんじゃない、と呟くのみだ。
確かに玲央君は、事実として、私には全く興味無いのかもしれないが、想像の中でまで私の事など眼中に無い彼の姿しか思い浮かばない、自分のリアリストっぷりに呆れ返る。
だけど、可愛いねと微笑んでくれる玲央君なんて、逆立ちしたって想像なんて出来っこない。
途端に、帰りたくなってきた……。
腕の中で眠る水着は、物凄く大胆と言う程のものではない。だけれども、紗絵と道子に流されてしまった感は否めないが、布の面積的には、私にしてはかなり頑張った方だ。寧ろ、これで頑張ってないと言い張れる程、私は豪胆では無い。慎ましやかに貞淑を重んじるつもりはそれ程ないが、私にだってそれなりに羞恥心と言うものがある。
それが、玲央君に初めて水着姿を見てもらうとなれば、頑張ろうが頑張るまいが恥ずかしい事に変わりは無い。だったら、ちょっとでも魅力的に映るように、頑張るしか無い。
どれだけ思考を逡巡させようと、結局は一択なのである。
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