(45)驚天動地の告白、その2

 レイナの指示で、テキパキと人数分の飲み物を入れたカップとテーブル、椅子が並べられた。微妙な空気が漂う中、促されて五人がテーブルを囲む。しかしカップに手を付けないまま、悠真が伸也に対して凄んだ。


「さて、レイナさんの顔を立てて、取り敢えず話だけは聞いてやる。洗いざらい吐け」

「そんな犯罪者みたいな扱いを……」

「なにか文句があるのか?」

「……ありません」

 呆れ顔の女性陣からの援護射撃は皆無であり、伸也はあっさりと白旗を上げた。


「ええと……、まずはいつ頃からこっちに来ているのかと言えば、高校一年の時だから、十年前からだな。な~んか日常が平凡すぎて、血沸き肉躍る冒険の世界に飛び込みたいな~とか考えながら寝落ちしたんだ。そして目が覚めたら地面に寝ているし、周りの景色は明らかに異常だし、大パニックだったな~」

 飄々と伸也が語った内容を聞いた天輝と悠真は、思わず小声で呟く。


「私、ごく最近、もの凄く似た話を聞いた気がする……」

「奇遇だな。俺もだ」

「……二人とも、気のせいよ」

 分が悪いのを自覚しつつ、海晴は二人から視線を逸らした。


「あの時は、さすがに俺も焦ったな~。『これは絶対夢だ! もう一度寝て起きたら、絶対に俺の部屋の俺のベッドだ!』と自分自身に言い聞かせて気合を入れて寝直したら、ちゃんと自分の部屋の自分のベットで寝ていて、安心したのなんのって」

「ほぅう? それは良かったな。普通だったら、そこでめでたしめでたしの筈なんだが。どうして今まで、この世界に関わっているんだ?」

 能天気すぎる伸也の発言に、悠真のこめかみに見事な青筋が浮かんだ。しかし取り敢えず中断させるつもりは無いらしく、話の続きを促す。


「それがさ、何日かして冷静に考えてみたら、夢にしては凄いリアリティだったし、ひょっとしたら本当に異世界に行ったかもと思うようになって。試しに強く念じてやてみたら、行き来できるのが分かったんだ」

 そこまで聞いて堪忍袋の緒が切れたらしい悠真は、勢い良く立ち上がってテーブルを回り込み、伸也に詰め寄りながら怒声を放った。


「どうしてそこで、俺達に言わない!?」

「だってさ、絶対父さんや兄貴に言ったら『そんな得体の知れない所に行き来するな!!』って、絶対怒るだろ。すぐに向こうとこっちの時間の流れが違うのが分かったし、溜め込んだ宿題や課題をこなすのに重宝してたんだよ」

「この、ど阿呆がっ!!」

「いてっ! 兄貴、暴力反対!!」

「海晴が十年以上もこっちを行き来してたのを最近まで知らなかったがな、まさかお前もとは思わなかったぞ!」

 まともに拳骨を食らって抗議の声を上げた伸也だったが、予想外の事を聞かされ、驚愕の面持ちで海晴に向き直った。


「え? マジか、海晴!? なんで言わなかったんだよ!?」

「あんたがそれを言うわけ!? あんただけには言われたくないわ!!」

「俺達が遠縁なのは確かだが……、海晴と伸也の血の繋がりを、今実感した」

「否定も反論もできないけど、かなり複雑だわ……」

 二人の言い合いに、悠真と天輝がうんざりした口調で感想を述べる。しかし時間を無駄にはできないと、悠真が話を進めた。


「因みに海晴は、学生時代時間の流れの差を利用して試験対策、カメラマンとして働き出してからはこちらの世界を撮影旅行の被写体にしていたらしいが、お前はこっちで何をやっていたんだ? 相も変わらず冒険ごっこか?」

「ええと……、最初の頃は探検で、後はボランティアとスカウト?」

「はぁ? なんだって?」

「ええと……。興味本位であちこち出向いているうちに、ここの遺跡に辿り着いたんだ。ここって拠点にするにはもってこいでさ」

 途端に怪訝な顔になった悠真に、伸也が弁解するように話し出す。そこで天輝が不思議そうに問いを発した。


「伸也? ここって遺跡なの? 何の遺跡?」

「俺にも未だに正確には分からないんだけど、こっちの世界の失われた古代文明とかの遺跡だと思うんだよな。ここに入って廊下を歩いて来ただろ? 光源もないのに、廊下が歩くのに支障がない程度の明るさだったと思うけど」

「それは不思議に思っていたわ。窓とか無いし照明らしき物も見当たらないのに、どうやって明るくしているんだろうって」

「あとセンサー付きの水道があるんだよ。手を出した時だけ流れるやつ」

「何それ? こんな岩盤の中に水流を通すだけでも凄いのに、どうやって反応させてるのよ?」

「未だに、全然分からん。水洗のトイレもある。トイレットペーパーはないから、向こうから持って来てるが」

「ええと……、多分下水用に、水が流れっぱなしの場所があるって事よね?」

「そういえば一番近いかな」

「なんか凄いわね……」

 そこまで聞いて唖然とした天輝に代わって、海晴が問いかける。


「まさかコンロがあるとか言わないわよね?」

「竈はあるな。そしてどうやってか、煙は自然に排気されてる。あと源泉かけ流しの温泉っぽいのも」

 それを聞いた海晴は目を輝かせ、身を乗り出して食いついた。


「なにその古代文明の遺跡っぽいレアアイテムの数々!?」

「だろ!? もうワクワクするよな!?」

「何が、どうワクワクするって?」

「…………」

 伸也も勢い込んで話し出そうとしたが、悠真に冷たくぶった切られて瞬時に口を閉ざした。するとここで、この間議論の行方を見守っていたレイナが、神妙に会話に割って入ってくる。


「あの、悠真さん。伸也は決して頭が悪い方ではないのですが、整然と系統立てて説明するのは不得手なタイプです。宜しければ私の方から、第三者の視点で事情を説明いたしましょうか?」

 その提案を、悠真は即座に受け入れた。


「その方が確実に早そうですね。できればお願いします。順序立てて、かつ端的に」

「了解しました」

 冷静に頷いたレイナを見て、天輝と海晴が囁き合う。


「こっちの人なのに、日本語ペラペラだね」

「うん。なんとなく、これまでの人達のように、私達の体質で自動的に翻訳して聞こえているわけじゃない気がする。絶対、日本語を喋っているよね?」

「以前会った時も伸也の片腕っぽかったけど、やっぱり敏腕っぽい」

「やっぱり伸也の芸能事務所、この人のおかげで成り立っているんじゃない?」

 自分達の推測にほぼ間違いがないであろうことを、この時二人は確信していた。










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