(38)天輝の考え

「それなんだけど……」

「うん? 天輝、どうかしたのか?」

「あの……、そもそも私が召喚されたのって、この世界に魔王が出現したからなんだよね?」

「連中の言い分だとそうだな」

「本当にそうなのか、甚だ疑わしいけど」

 海晴と悠真が揃って忌々しげに頷き、天輝が神妙な顔つきで指摘する。


「そうするとここの召喚陣を壊しても、また他の召喚陣で召喚されたり、時間が経ってから別の人が召喚される可能性はあるのよね?」

「まあ……、その可能性は否定できないな」

「腹立たしいことにね」

「だから、そもそもその魔王が出現するのを、どうにかできないのかなと思って……」

「……え?」

 天輝が自信なさげにそう口にすると、海晴は意表を衝かれたように目を見開いた。しかし悠真はたちまち渋面になり、腹立たしげに問い返す。


「奴らの言う通り、俺達が魔王とやらを退治すれば良いと言うわけか?」

「退治というか……、魔王は常時存在するわけではないみたいだし、出現する条件とかが分かれば、それを排除できないかなと思って。そうすれば今後しばらくこの世界の人達は安心して暮らせるし、私のように召喚される人もいなくなるんじゃないかな?」

「確かにそれは一理あるわね」

 そこで海晴が納得したように頷く。それで力を得たように、天輝は言葉を継いだ。


「そうよね? 私は霊力はあるのに全く使えない役立たずだけど、海晴やお兄ちゃんがいてくれたから無事に戻れるわ。だけどこの先、私の子孫とかで私と同様に上手く力が使えないのに召喚される人が出てきてしまったら、一大事じゃない。そういう危険性が回避できるなら、今のうちにしておきたいのよ。こんな事を言っても実際に動くのは海晴とお兄ちゃんになるし、面倒事に巻き込んだ上に対処を押し付ける事になるから、ものすごく心苦しいんだけど……」

 いかにも申し訳なさそうに言葉尻を濁した天輝だったが、海晴は明るい笑顔で言い切った。


「天輝、巻き込んだとか押し付けるとか、何を言ってるのよ! そもそも私が好き放題使っている霊力は、天輝のものなんだからね!? その霊力をどう使いたいか、本来の保持者の天輝の意向が優先されるべきでしょうが!! それに天輝の意見に大賛成! やっぱり面倒事は元から断たなきゃ駄目よね!!」

 それに悠真も真顔で賛同する。


「そうだな。天輝の意見に俺も賛成だ。この際、不安要素は排除できるなら排除しておくのに越したことはないな」

「二人とも、ありがとう」

 安堵して礼を述べた天輝の前で、早速海晴と悠真がこれからの方向性を検討し始める。


「さて、そうすると、どうしたものかしら?」

「とにかく、連中が主張している魔王とやらがどんな存在なのかを調べないと、対策の取りようがないな。取り敢えずどこにいるかと、どんな悪影響を周囲に及ぼしているかかな?」

「そうよね。まずは情報収集ということで、さっきの連中に尋問しましょう」

「ええと……、海晴? 尋問って……」

 海晴が断定口調で言い出した内容を聞いて、天輝は微妙に顔色を変えた。しかし悠真が、天輝の不安を増幅させる事を口にする。


「海晴、お前は過去に行った事がない場所には行けないんだよな? だが、良く知っている人間がどこに居るのかが分かれば、そこに向かって移動できるんだよな?」

「そうよ? だからさっきお兄ちゃんに天輝の気配を探って貰って、そこめがけて転移できたんじゃない」

「それは、殆ど初対面の相手でも大丈夫か?」

「え?」

 唐突に問われた内容に海晴は一瞬戸惑ったが、すぐに納得した表情になって頷いた。


「あぁ……、そういうこと。あの系統の間抜け面なら、もうばっちり覚えたから安心して」

「それならどうとでもなるな。おあつらえ向きに、土埃が消えてきた。連中、腰が抜けて逃げられなれなかったらしい」

「あの……、お兄ちゃん? できるだけ穏便にね? 私達、魔王じゃないんだからね!?」

 含み笑いをする悠真を見て天輝は再び不安を覚えたが、彼女の不安は的中する事になった。


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