(17)うんざりする状況
予め訪問先の担当者と予定を擦り合わせて出向いた天輝だったが、到着してみると何やら手違いかトラブルが生じていたらしく、取り次ぎの女性が頭を下げてきた。
「高梨様。時間通りに出向いていただいたのに、本当に申し訳ありません。筒井はただいま、別件の対応中でして。長引くようなら他の担当者を出向かせますので、こちらで少々お待ちください」
応接スペースに案内されながら平身低頭で詫びてくる女性社員に、天輝は特に気を悪くしたりせず、素直に頷く。
「分かりました。こちらの時間は大丈夫ですので、用事が済むまでお待ちします」
「恐縮です。今、飲み物をお持ちしますが、珈琲、紅茶、緑茶ではどれがよろしいでしょうか?」
「それでは緑茶をお願いできますか?」
「畏まりました。少々お待ちください」
一礼して女性が出ていき、室内に一人取り残された天輝は、テーブルを回り込んで椅子を引いた。
「ここで待たされるなんて、珍しいわね。直前にトラブルでも発生したのかしら? 後は会社に戻るだけだし、今は16:05だから多少待たされても問題は無いから、助かったけど」
天輝は持参した鞄を椅子に置き、上部のファスナーを開けながら誰に言うともなく呟く。
「さて、気合いを入れて情報収集。ここは最近業績が上向いているし、投資先としてはなかなか魅力的だもの。ついでにどんなトラブルが勃発したのかも聞き出して、今後の事業実績に影響が出ないかどうかの判断も……」
天輝が鞄の中からモバイルPCを取り出そうとした時、周囲に違和感を感じた。
「……え? は!? ちょっと、まさかまた!? しかも、こんな所で!?」
これまで2回体験済みの、自分の周囲に生じた不自然な光と浮遊感に、天輝は瞬時に顔色を変えた。そして咄嗟に鞄を掴みながら、困惑と怒りの叫びを上げる。
「これからここで面談なのよ!? もういい加減にして!! いっやぁあぁぁーーっ!!」
しかし絶叫したところで状況が改善する筈もなく、天輝はこれまでと同様に眩い光に包まれた。
鞄を掴んだまま眼を閉じた天輝は、さほど時間を要さずに周囲から異常な光が消失したのと同時に、軽い衝撃と共にどこかに降り立ったのを感じた。それを受けて警戒しながらゆっくりと眼を開けた天輝は、割と広い室内にいる事を確認する。
「もう本当に、勘弁して欲しい……。何なのよ、これ」
今現在自分がいる場所が、本来の訪問先ではあり得ない石造りの建物内で、複雑な意匠が描き出されている、縦横が各10m程の絨毯が足下に敷かれている事実に、天輝はがっくりと肩を落とした。すると至近距離から、淡々とした声が聞こえてくる。
「ほぅ? これはまた随分と、毛色の変わった女が出てきたものだ」
その声に反感を覚えながら天輝が振り向くと、豪奢な衣装を身に纏った四十代半ばに見える男が、尊大な態度で言い放った。
「聖女などと持ち上げられる女であればもう少し魅力的な女かと思っていたが、こんな見映えのしない女だったとは少々興醒めだな。魔王を片付けたら後宮に入れてやろうと思っていたが、これでは食指も動かんぞ」
「はぁ? なんですって!?」
その傍若無人な物言いに天輝は反射的に怒鳴り返そうとしたが、絨毯の外側にいる複数の男達が口々に言い出す。
「陛下のご心情は尤もですが、一応聖女は召喚した国王が庇護するという、しきたりがございますので」
「取り敢えず後宮に入れて、衣食住を保証すればよろしいでしょう」
「そうですとも。別にわざわざ陛下がご寵愛される必要はございません」
「毛色が違う女性だからこそ、今現在後宮にいらっしゃる美しい方々の引き立て役になるのではありませんか?」
「そうでございますな。偶には平々凡々な顔を眺めるのも、気分転換になってよろしいかと」
「なるほど……。お前達の言い分にも一理あるな」
家臣らしき男達の申し出に、天輝の隣にいた主君らしき男が勿体ぶりながら頷く。それを見た天輝の顔が盛大に引き攣った。
(何なのよ、この人達。失礼にも程があるわよ!? これまでと同様に魔王討伐の為に召喚されたと思ったけど、この人を含めてここの連中は、揃いも揃ってものの頼み方を知らないらしいわね!)
あからさまに見下された天輝は本気で腹を立てたが、内心の怒りを押し隠しながら傍らにいる男に声をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます