Invincible MetaMind

綾繁 忍

Come hither, Sweet Robin

「慧。丁度良い事件が見つかったよ。事前審査は無事に通った。前回から少し間が空いてしまったけれど、外出だ」

 白いドアを開ける。白い壁に白い床。白いシーツの敷かれたベッドと、白いテーブル、白い椅子。色彩とそれに紐づく感情への配慮を不要とする彼に似つかわしい部屋。その部屋の中心で、彼は何をするわけでもなく、待ち構えていたかのように手を広げて僕を出迎えた。

 部屋に溶けて消えてしまいそうな色素の薄い肌に白いシャツ。祖父譲りであるらしい銀髪は自然な直毛で、整髪料の気配を一切させていない。この部屋における色といえば、彼のアイスブルーの瞳と、テーブルに置かれた真っ黒な革手袋のみ。この部屋において僕は明確に異物だったが、社会の中では彼こそが恐るべき異物だろう。そしてそれは、外見だけの話ではなく。

 彼——白堂慧はくどうけいは、毎回のようにドア付近で立ち止まる僕に疑問を呈したりはせず、静かに、けれど歌うように話す。

「こんにちは、カナエ。ありがとう。新しいパターンだね?」

 優しげな眼差しと微笑み。しかし僕は、それが彼の仮面であることを知っている。偽装。処世術。生き様。あるいは、呪縛。

「そうだよ。今回の事件も、必ず君の情動をより豊かにしてくれる」

 ——悪魔というものは、人間から見てとても美しい姿をしているという。

 事件を私利私欲のために利用する僕等は、きっと酷く忌まわしい存在だ。

 いっそ呪われるべき、と思ってしまうくらいに。

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