第11話 ひい婆ちゃんに叱られた!

 このエピソードは、私が18歳、専門学校時代に体験したお話です。それより少し時をさかのぼりますが、私が高校二年生の時、大好きだった父方の、ひい婆ちゃんが、突然亡くなりました。私をとても可愛がってくれたので、本当に大好きな婆ちゃんでした。会いに行くと、まず、冷えた三矢サイダーを出してくれるんですよね。そのせいか、三矢サイダーを見ると、なんだかひい婆ちゃんを思い出して、懐かしい気持ちになるんです。亡くなる前、最後に会った時に、帰り際に見せた優しく暖かい笑顔は、今でも忘れません。ひい婆ちゃんは、いつも私の事を暖かい目で見守っていてくれたような気がします。しかし当時の私は……。


 とにかく勉強が嫌いでした……。別にグレてるわけではなかったのですが、勉強はしない、授業をサボって友達と遊んだりする等、全くもっておバカな少年でした。早い話しが落ちこぼれです。しかし、高校二年生のある日の夜、事件が起きました。私はそれを『スクールウォーズ滝沢先生事件』と、呼んでおります……。


 私はいつものように二階にある自室で、勉強もせず、たいした弾けもしないギターをジャカジャカと掻き鳴らし、「ウォウ!」とか「イエィ!」とか言っていると、階段をかけ上がってくる激しい足音が聞こえてきたんですよね。その足音からして親父だ!ヤベェ!と、思いました。うちの親父、かなりの武闘派でしたから……。しかし時既に遅し。逃げる間もありません。ガラッと戸を開けて親父が部屋に乗り込んで来ました。そして……。


「お前ちゃんと学校行ってるのか?いい加減にしろよ!」


 と、言ってボッコボコの鉄拳制裁を受けました。いやぁ、目が覚めましたね。その時、親父、涙を流していましたから。ただ怖いだけの親父だと思っていたのですが、私を心配してくれていたんだなと。深情けが身に沁みましたね。それからは心を入れ換えて、少しずつですが机に向かうようになり、成績も徐々に上がってきました。


 そうなると、夢が生まれてくるんですよね。私、ロックが大好きでしたから、そのアルバムのジャケットのデザインを手掛ける仕事に就きたいな。と、思うようになりました。絵も好きでしたから。それで高校卒業後の進路として選んだのが、某地方都市にあるグラフィックデザインの専門学校でした。そして、古里を離れ、初めての一人暮らしが始まりました。夢にまで見た一人暮らし。家と違ってガミガミと怒る両親からも解放され、自由を謳歌できる。学校に行けば楽しい友達もいる。わくわくするような毎日でした。しかし、授業は楽しいことばかりではないんですよね。好きな絵さえ描いていれば良いというわけではなく、ビジネスのなんとやらとか、頭の悪い私には苦手な授業もありました。それに加えて一人暮らしの解放感も手伝い、苦手な授業がある時はサボるようになっていったんですね……。


 そんなある時でした。朝、目覚まし時計のベルが鳴り目が覚めたんですが、なんだか眠い。季節は春。春眠暁を覚えずと言う詩がありますが、まさにその通り。起きるのが億劫なんですよね。今日は一時間目が苦手な授業だ。ちょとぐらいサボってもいいだろう。誰にも迷惑かけてないんだし……。そう思って再び寝落ちしたんですよね。全くもってバカだ!


 気がつくと私は夢の中にいました。その夢がまた不思議なんですよね。夢の中でも私が寝ている。部屋の中もいつもの通り。と、思ったのですが、「あれっ!」異変に気付きました。なぜか、子供の頃に遊んだ怪獣のおもちゃが枕元の先にある押入れの戸の前に並んで置いてあるんですよね。その中には、ひい婆ちゃんにもらったお小遣いで買ったおもちゃもありました。何だこれ!と、思いました。そして自分の手を見て驚きました。爪が全部真っ黒なんですよね。うわぁ、気持ち悪いなぁ。何かの病気なのかなぁと思って見ていると、突然、バタン!とドアの閉まる大きな音が聞こえました。私は、その大きな音と、中に誰かが入って来たのかなと思う恐怖で、目が覚めました。そして、その目が覚める瞬間に私の耳元で、


「夢童……」


 私を呼ぶ声がしたんですよ!そのかすれた低い声。その声は紛れもなく、ひい婆ちゃんの声でした。いやぁ、怖かったですよ。だって、ひい婆ちゃんはこの世にはいないのですから……。


 ですが、なんだか涙がポロポロと溢れてきたんですよね。その涙は恐怖からではなく、嬉し涙でした。ひい婆ちゃん、だらしのない私を心配して、わさわざあの世から叱りに来てくれたのかな……。そんな気がしたんです。


 それからは、サボることなく一生懸命学校へ通いました。当たり前のことですがね……。それで夢が実現できたのかと言いますと、残念ながら、学校を卒業してから今までずっと、工場で肉体労働です……。今日も元気だ関節が痛い!くうぅ……。(涙)


 私は思ったんです。人は、生きている時は勿論ですが、あの世に行っても、ずっと身内や家族のことを思っているんだなぁと。姿形は見えなくても、人を思い愛する気持ちは永遠なんでしょうね……。


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