勇者にも有給休暇を!

こうさん

第1話 王国復古の大号令!?

今からちょっとだけ昔に起きた事である。


Ep1 急襲


王都から10クロレ離れた村、クチャナ。数十年前までは炭鉱で栄え、炭鉱夫たちで賑わっていた村も今では閑古鳥がなく有様。もちろん訳あってではあるが。数百年前、このクチャナ村がまだ小さな開拓村だった時代、世は「多国間大戦」の真っ只中であった。後に和平条約が下されたものの、そこかしこで大小の争乱が続いた後、「名将」達の活躍もあって、やっと平和な世になったが、幾つもの国家が消え去ってしまった。帝国、王国、法治国、それぞれの統治方式でその後数年は和平が続いたのだが…


ある時王都カンセルに異変が起きた。突如、天界から異型の化物達、「怪獣」が数百の群れで地に降り立ったのだ。遥か昔、多国間で血で血を洗う大戦争が繰り広げられた大陸では、一つの大国がまるで、他国を退けるように中央に君臨していた。名は「クリュート王国」。大戦で数々の勝利を収め、多国間で和平を結んだ、当時の国王「大王カミサル」を筆頭に大国として、圧倒的な力を保持していた。その後も長きに渡って何度か大きな争乱はあったが今ではクリュート王国は周辺国家と固く強固な盟を結んでいた。更に国王「カンセル」はカミサルの息子で、政治にも軍事にも非常に長けた人物であった。カミサル亡き後、見事に大国を率いてみせたのだ。そう、「王都カンセル」とは民衆が王を慕うが故に付けた名であった。しかしそんな王にも反対勢力が存在した。それが次王候補の一人「ガナイ」率いる隊であった。元はクリュート王国の軍人で列国に名を轟かせた軍人ではあったが、カンセルのその民衆を想う政治が気に食わなかった。彼は根っからの軍人気質で、戦こそ彼の全てだったのだ。そんな彼はその力を利用し、隊を率いて密かに王を暗殺した。しかし反乱が王都内でばれてしまい、カンセルの部下、名将「ナルイ」率いていた隊との戦に敗北し、夢は叶わず戦死、ガナイ隊の生き残った者は捕虜にされ、醜い拷問の餌食になった。それによってガナイが王の政治に不満を持っていた事が王宮内にばれると、カンセル配下の大臣達は、以前のような「民主的」な政治を求めた。いつの時も民を思っていたあのカンセルのような王を即位させようとしたのだ。そしてカンセルの意思を継いでいた「ミロイ」が民衆の支持もあって王に即位した。民や軍はカンセルの死から、そのあまりにも大きなモノを失った反動で酷く悲しみ、士気はもはや皆無であった。それ程までに愛されていた国王だったのだ。またミロイは生まれながらにして病弱であり、軍事や政治にも関心はあったが、理解が浅く、とても一国をまとめれるような人物ではなかった。ミロイは王に即位してから、初めて、「国王」という職種の難しさを知った。経験の浅さがもろにでてしまったのだった。それもそのはず。ミロイはまだ12歳であった。大臣達や民衆は周辺国家に劣る事を恐れた。彼らの脳裏にはあの「大戦」がよぎっていた。恐れるが故に、素早い王の即位を望んだのだ。あのカンセルのような王を。しかしその「焦り」が、怪獣の侵攻を進める羽目になってしまった。「王が急病で病死」したのだ。その後、即位した王はカンセルの側近であった名将「チャナ」。名将の中でも一二を争う強さからカンセルの側近に立っていた。しかしカンセルとは違う独占欲と無謀な軍拡政策は民衆との間にあった「信頼感」を失う羽目になってしまったのだ。それによって国家は崩壊状態。あの時の歪みが今になって響いてしまったのだ。結果、チャナは自ら王位を退き、今では「何処か」に身を潜めている。噂では、新しい国家をつくるつもりだとか。

何はともあれ、それによって外交が停滞。周辺国家との関係悪化から完全に孤立していたのだ。追い打ちをかけるこの状況に対応できるはずもなく、一度は歴史から名も消えてしまう程の事態に。怪獣たちの侵攻は止まるはずもなく、ある意味防壁的な役割をするはずだったクリュート王国の思わぬ事態に周辺国家が対応する事になるのだが、既存の剣や槍では戦うどころか、近づく事すらできなかった。「怪獣」それは、ヒトにも他の動物にも似つかぬ体躯とその凶悪な見た目と性格から容易に想像できるように、圧倒的な攻撃力を保持していた。また個体によっては、範囲攻撃等も可能なモノもいた。それが数百の群れとなって襲い掛かれば、人によって構成され、武器と鋼の心で武装した「軍隊」であれど、どうなるかなど一目瞭然。またクリュートの軍隊の半分ほどは民衆によって構成された戦の経験の無い部隊だったのだ。国内のデモの鎮圧や内政、外交の失敗もあって、戦に人員を割く余裕が無く、急遽、周辺の村々から徴兵されたのだ。もちろんクリュートの民も、カンセルへの高い忠誠心があったし、民とはいっても国策で、幼少期から鍛錬を積んできた強きクリュートの民である。だが、王亡き今、誰を信じればよいのかもわからず、その「眠れる力」を発揮できずにいた。大戦時、なぜクリュートが大勝利を収めることができたのか、真なる理由は民の団結力であった。戦において勝敗を分ける大きな要因になるのは、「民の団結力」だ。もし大戦時の軍隊であれば、事は収まったのかもしれないが。


結果、王都カンセルを拠点に侵略した怪獣達は、次の侵略先を、周りを取り囲む周辺国家にした。


果たして、どうなったかは言うまでもないが…

周辺国家は次々に侵略され、クリュート王国を囲むように怪獣たちは次々に侵略していく。一昔前、クリュートに台頭したとまで言われた北の大国、帝国「ラリュア」や、クリュートと最初に盟を結んだ東の小国「ワリス」等の主要人物たちは、怪獣達の侵略を甘く見ていた。何故か。ラリュアは昔から、軍事に関しては、雲が幾重にも重なる程、謎が多かった。そして、ラリュアの軍事力は、決してクリュートに劣るものではなかった。あの大戦でもクリュートに匹敵したラリュアは、名将「ワンナ」率いる「魔導隊」たる未知の部隊を保持しており、軍事力では、クリュートに勝るとも劣らないと称された程の大国であった。それに険しい山々に囲まれた地理的状況も相まって、そのような化物でさえ、超えられないであろうと予想していたのだ。ワリスもラリュアには劣っていても、クリュートの名将たちが恐れた拳士、「ヌボー」を筆頭に「拳士隊」を保持しており、少数部隊ではあるが、各々が非常に明確な「志」を持ち、その忠誠心は、たとえ命が尽きても消えぬ程で、戦においては怖いもの知らずだった。ラリュアの皇帝「ベリン」やワリスの王「タムス」は容易に「怪獣」を迎え撃つ事ができると考えていたのだ。その「思考」こそが「敗北」を生んでしまった。怪獣は何も陸地を歩くモノだけではなく、空を飛ぶモノ、地中を這うモノ、それに百を裕に超える怪獣達の群れ。対抗できるはずもなかった。蹂躙され、肉片と血の海で国家内は混乱の渦に飲み込まれていった。結果論ではあるが、この結果を生んだのはクリュートであった。国内の事情に目を取られ、強固な盟を結んでいたはずの周辺国家と全く連携が取れていなかったのだ。その為、怪獣達の「情報」が上手く伝わっていなかったのだ。クリュート王国は陸続きに周辺国家に囲まれた大陸の中央に位置する大国、つまりは周辺国家はクリュート王国を囲うようにして存在する。そこに怪獣達が侵略していく。周りには敵しかいない訳だ。未だ侵略されていない国は、気高い山々に囲まれた、クリュートの南に位置する小国だけであった。 


Ep2 王国復古


この事態を非常に重く見た人物がいた。

クリュート王国のちょうど南に位置する小国、法治国家「カクト」の当時の女性総理大臣である「ナビア」。彼女は非常に冷静で、残酷な事も厭わない、元「軍人」であったのだ。その政治の基本指針は「法治」である。人によってではなく、法によって治めるのだ。これは周りを見ても、この小国カクトだけであった。ナビアはこのような状況ではあったが、「事ここに至っては、我らの未来を救うのは我ら自身ではない、クリュートの民のみである。」と、周辺国家に言い放ったのである。隣国やその他の国家の主要人物たちは彼女の政治や軍事においての逸脱した「センス」を認めていた。彼らは理由よりも行動を欲したのだ。ここから人類の大反撃が始まるのだ。


ナビアはカクトの全兵力をクリュート王国の首都、カンセルに集結させた。カクトの軍隊は彼女の慕う部下に、完膚なきまでに鍛え上げられた非常に強力な軍隊であった。しかしあの「怪獣」には見事なまでに敗北、半分ほどの軍人を失ってしまったのだった。故に彼女は彼らの「力」を欲した。そしてナビアは周辺国家に「王国復古の大号令」と称して、自らが総司令官になったのだ。

まず、多国間の国境を一時的に廃止。各国々の「現段階」での主要部隊をカンセルの周りに配置、ゲリラ戦を怪獣に挑んだ。険しい山々の自然環境を上手く利用したのだ。

彼女はこの行動以前に、クリュートの民や兵士の士気を挙げる事を強く望んだのだ。彼女は先代から教えられていた。クリュートの「恐ろしさ」を。彼らの「団結力」を。だから、そう難しくはなかった。あの「王国」を復古させる事が。彼女はクリュートの民へ向けてこう言い放った。

「強きクリュートの民共よ!今は亡きカンセルの意を継ぐ者達よ!立ち上がるのだ、貴殿達の鍛え上げられた心と武力、今こそヤツらにみせつけてやろうではないか!!カンセルを落胆させる事などあってはならないのだ!」と。


Ep3 反撃準備


カンセルの死はナビアを通して周辺国家にも知れ渡っていた。ナビアは王国の大臣の許可を得て、クリュート王国の物資を、戦の為に利用する事を決めた。

戦争には物資と食料が不可欠である。国家間で通貨の違いがあれば、物資購入の際に非常に面倒だ。そこで、ナビアは多国間で、両替不要の共通通貨を作ったのだ。ナビアの名を参考に、「ナビ」と名づけた。そして兵士として力を貸し、武勲を挙げた者にはこのナビを与え、生活や食料に困らぬよう工夫したのだ。この現実的かつ精神的なある意味「誘惑」は彼らにとってかつての士気を取り戻すのに十分すぎた。怪獣達の侵略によって、仲間や家族を亡くし士気を失っていたクリュート兵達は各々の武器を手に取り、戦場に再び赴く事を決意した。またナビアが中心となって集めた多国の寄せ集めの兵士達「新連合隊」とも合流、ナビアやクリュートの名将率いる新隊、「獅子隊」、「新魔導隊」、「新拳士隊」に力を貸した。


Ep4 モノノフの再来


元々、クリュートには名将が何人もいたのだ。多国間大戦の後、何十年も続いた争乱を見事に抑えてみせたクロイのように、彼らの戦略、士気、戦においての強さはもはや、同盟国であるカクトやその他の国家でさえ圧倒するものだった。故に強力な盟を結び、団結していたのだ。奇跡的なのか必然的なのか、カンセルは非常に人徳のある国王で、他の国家を侵略しようなど、思いもしなかった。だからこそ反対勢力もいたのだが…


過去がどうであれ、彼らの強さは間違いなく「本物」である。ガナイに継ぐ名将と恐れられた「クロイ」はあのガナイの兄である。王宮内にガナイの反乱の事が知れた今、クロイは王宮内でも、あまり良い目では見られなかった。大臣達は「クロイも王の政治に不満を持っていたのではないか」と良からぬ噂をする者もいた。しかし民衆は知っていた。これまで、王の側近として民を守り、民に尽してきたのだ。だから彼を悪く噂する者はいなかった。またガナイとクロイは実力で言えば五分五分であったが、知略と忠誠に関しては、兄が上回っていた。王は忠誠が高いクロイを側近に置いていた。ガナイはそれが理解できなかった。武ではガナイに分がある。ガナイは知らなかった。「武」を火とするなら、水は「知」だ。抑制しなければ、たとえ強力な火だとしても、燃え広がり仲間さえも燃やし尽くしてしまう。ガナイは知には分がなかった。軍人気質だったガナイは兄にさえ、その怒りの矛先を向けようとしていたのだった



クロイは当時の獅子隊の隊長であった。彼は獅子隊に向けてこう言ったのだ。

「剣や槍が効かないのは、近づけないからであって、剣や槍が、弱く役に立たない武器ではない!私がそれを証明しようではないか!!」こう言ったのだ。獅子隊とは元々、ナビアが率いていた、カクトの主力部隊である。ただナビアは多国をまとめる事や、王国復古、更には国境廃止など、一隊を指揮する時間がない。その為、ナビアが最も信用している名将、クロイに指揮をまかせたのだ。部隊員達は、最初こそ戸惑ったものの、クロイのその逸脱した策略と、命を重んじる戦い方は非常に評価が高かった。ただ、隊長が先陣を切って指揮するのは、ナビアから相当叱責されたらしいが…優秀で人徳のある人物だからこそ、もう少し自分の命を大切にして欲しいとの事だったのだ。かのクロイと言えど、無敵ではないからだ。この指示に従ったかどうかは、ナビアの知る所ではないが…


Ep5 反撃の狼煙


彼の事を「有言実行」と言うのだろう。

彼はその圧倒的な策略と、武力、また「龍槍」を使いこなす腕は、相手が怪獣とて、その効力を十分に発揮した。「龍槍」。先端には龍の顔が施された、三叉の刃を持つ非常に大きな槍だ。これは元々、ガナイの愛棒であったのだ。クロイは王亡き今、自分の愛武器「白虎太刀」は、クロイが認める「戦」でしか使わないそうだ。クロイが認める戦。それが何を表すのかは、兵士達の知る所ではない。ただ少なくとも、クロイは怪獣達との争いを「戦」としては捉えていないようだ。そのような理由で、今この武器を手に取っている。全長が裕に2メカルを超えるこの武器をここまで、美しく、完璧に操れるのは、後にも先にも、この二人だけであろう。そんな龍槍はあの怪獣をもいとも簡単に殺してしまったのだ。全長5メカルを超える飛竜のような化物だった。飛ぶことすらなかっただろう。


「フンッ!!!とろいぞケダモノがぁっ!!」


一瞬だった。クロイの逸脱した運動神経と筋力は、怪獣にも劣らぬモノであった。動きを見事に捉えられた怪獣は龍槍を己が頭に叩き込まれ、脳漿と青い血液があたり一帯に飛び散った。帰り血を浴びたクロイのその容姿はもはや人とはいえぬ、「畏怖」のオーラがまとわりついていた。あえて表現するなら「鬼神」とでも言うべきか。

部下達も、一時は、勝利の雄叫びはおろか、言葉を口にする事すらできなかった。


この撃破を起爆剤に、隊はクロイを中心に犠牲を払いながらも、少しずつ、着実に、勢力図を変えていったのだ。その小さくとも大きな躍進は、人間が怪獣相手にも引けを取らない事を証明できたものでもあった。それほどまでにクリュートの名将は強かったのだ。歴戦の猛者は伊達ではなかった。彼にとっては敵が「ヒト」から「バケモノ」に変わっただけであった。国内の内戦や内政の対処に目が向き、外の事に王宮内が対応できていなかっただけであったのだ。また、このクロイの大勝利は他の部隊にも、大きな勇気を与えた。

更に、ナビアの戦術によって、飛行型はさておき、大抵の怪獣共の進行速度が目に見えて落ちていた。


「反撃の狼煙は上げられた。戦え強きもの共よ!」

クロイは後に、「英雄」として語り継がれる人物になるが、それはまだ先の話。







あとがき

最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございます!!実はこれが初めての投稿になる、ド素人でございますwあ、できれば今後も連載する予定ですので、宜しくお願いいたします!!

今回は大国クリュートと、その周りを取り巻く国家についての関係と、歴史背景について書きました。なので少しややこしい話になってます。スミマセン…

何はともあれ、次は主人公であるリュッセルとその妹さんが初登場する予定です。一話で出せなくて申し訳ないです…と、とにかく頑張りますので!!!w

月に一度は投稿できるよう努力します!!

では次巻で。ありがとうございました。

すみませんあと一つだけ聞いてくださいw

作品についてのコメントお待ちしてまーす!!

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