第17話 伐採
朝食を済ませた(ニクも一緒に)俺とモニカはさっそく村の中に打ち捨てられたままの住居の探索に向かう。
しっかし、小さな村だと分かってはいたが村というより集落と表現した方がいいかもしれないな、ここ。
ここから一番近い……といっても馬車で二日の距離にあるフレージュ村では、俺の見送りだけで100人以上の村民が集まっていた。
ところが、こちらランバード村といえば住居自体が30から40くらいしかない。全ての住居に人が住んでいたとしても100人から200人程度しか村人がいないことになる。
辺境開拓村の一つだったのだろう。
余り詳しくは知らないがリグニア王国は人の住むことができる領域を増やそうと辺境の開拓を推奨している。
身分に関わらず開拓団にはそれなりの資金が与えられるとのこと。
辺境には辺境になる理由がある地域が殆どだから、うまく行ったという話を殆ど聞かない。
だけど、稀に開拓村が大きな村となり街にまで発展することもあるそうだ。
ある者は一攫千金を夢見て、またある者は脛にある傷を隠すようにして……辺境開拓に乗り出すと聞く。
俺? 俺は野心とは無縁だ。
そもそもここに人を呼び込むことなど微塵も考えてはいない。俺は俺が……いや、俺とモニカが快適にノンビリと暮らしていければそれでいい。
考え事をしているうちに一軒目の探索予定の住居へ到着した。
モニカと話し合って、漏れがないように端から順に右回りで一軒ずつ見て行こうと決めていたのだ。
土地に余裕はあったのだろうが、木材が貴重だったのか家はそう広くはなかった。
この住居は一階建ての平屋になっていて、土台にレンガを使用し丸太で四方と中央に支柱を立て、周囲を木の板で覆った感じの簡素なつくりをしている。
いや、「していた」と表現すべきか。
木の板は風雨の影響で腐り、一部が倒れて穴だらけになっている。入口のドアは開きっぱなしでそよ風に押されギイギイと嫌な音を立てていた。
屋根も一部欠けていて一応形だけは保っている。
「入ってみる」
今度はちゃんと忘れていない口元の手ぬぐいを。
しっかり縛っているから、多少動いても落ちることはないだろう。
モニカを家の外に残し、一人中に入る。
うーん。
予想通り荒れ放題になっているな。
中央に虫か何かに食われボロボロになった丸太のままの柱がある以外は、仕切りがない大広間になっていた。
家具らしきものもなく、埃を被りっぱなしの錆びついたクワと、藁? の残骸が壁沿いに残っている。
他は……囲炉裏ぽいのもあるけど、もはや見る影もないな。
無言で外に出る。
「モニカ、たぶん、残りの家も似たようなものだと思う。後々、鉄やらの金属が欲しい場合には家探しをした方がいいかもしれなけど粉ひきみたいなのは期待できないかな」
「そうですか。承知しました」
「作ってしまおう。一つ案があるんだ」
「それは楽しみです」
「準備をしに一旦家に戻ろう」
二人で行けばそれほど苦労せず材料を揃えることができるだろ。
◇◇◇
「モニカ。ちょっと村から出て木を伐採しに行こうと思う。ついでに大きな岩とかあればいいなと」
「材料集めですね。では準備をいたしましょうか」
「問題は運び込むことなんだよな。となれば岩より木だけの方がまだマシか」
「それでしたら馬車を使えませんか?」
「人の力で引けるもんなんだっけ、馬車って……」
「難しそうですか」
「材料を集めて運ぶのが難しそうだったら馬車を解体して台車みたいにしてしまえばいけそうな気もする」
「それは、慎重な判断が必要かと」
「うん、なるべく馬車は解体したくない。せっかくの馬車だものな」
一度解体してしまうと二度と元に戻すことは叶わない。
ある意味、俺たちに残された文明の利器の一つと言える馬車を安易に壊すべきではないってことはもっともだ。
そのうち鍛冶や大工仕事にも挑戦してみる気だけど、大工はともかく鍛冶はそれこそ一朝一夕ではいかないだろうから。
「馬や騎竜が手に入るかもしれませんし」
「野生の生き物は飼い慣らすのが難しそうだけど、ニクのこともあるしな」
世の中何が起こるか分からん。
ひょっとしたら、森や山で人に懐く馬車を引くことができる生物に会えるかもしれないし。
うん、やっぱり馬車を壊す案は無しだ。
持ち運べなかったら、他の手を考えればいい。
「とりあえず行ってみようか」
「はい」
手斧を腰にさげ、屋敷を後にする。
◇◇◇
どこでも良かったんだけど、最悪ちょうどいい木が無い事も考慮して村の北側に向かうことにした。
こちらはそのまま進めば森に入るからな。さすがに森に入ればそれなりに幹が太い木も見つかるだろう。
村を出ててくてくと歩くこと十五分くらい。
木々が増えてきてそろそろ森に突入かってところで丁度いいクヌギの木を発見した。
幹の直径はおよそ四十センチと少しってところか。
「これにしよう」
「まさかその手斧で木を伐採するのですか?」
「いや、そんなわけはない。これは枝を落とす必要があったら使おうと思っていただけだよ」
「それでしたら、わたしがやります。ソウシ様は魔力を温存しておいて頂けますか?」
「今日はまだ一発も魔法を使ってないから、全然大丈夫だけど……分かった。お願いするよ」
「はい」
そうだな。
モニカが来て以来、掃除やら他のことで時間を取られていたこともありトマトとキュウリくらいしか畑で育てていないし。
魔力が余ったら、新しい樹木を育成したり畑で他の作物を育てたりできるものな。
モニカが目を閉じ、両手を胸の前で組んで集中状態に入る。
「なるべく根っこに近いほうで頼む」
俺の言葉にコクリと頷き、モニカが詠唱を始めた。
「モニカの名においてお願いいたします。風の精霊さん。ウィンドカッター」
彼女の願いに応じ、足元から目に見えない鋭い風の刃が顕現し、シュンと風を切る音が響き渡る。
グラグラ――。
大きな音を立ててクヌギの木が真横に倒れてく、え。
「危ない」
モニカの腰にタックルをかまし、彼女と共にゴロゴロと地面を転がる。
ドオオオン――。
足先数センチのところにクヌギの木が倒れてきた。
「申し訳ありません。角度をつけずにウインドカッターを放ってしまいました」
「大丈夫だよ。ちゃんと木は伐採できたし、問題ない」
俺に覆いかぶされたままの姿勢でモニカは目を伏せ、謝罪の言葉を述べる。
「よっと」
一息に立ち上がり、モニカの手を引き立ち上がらせた。
「しばらく様子を窺う」
俺が何を言わんとしているのか即座に理解したモニカは、周囲を見渡しつつ耳を澄ませる。
これだけ大きな音を立てたんだ。何かしらのモンスターが寄ってくるかもしれない。
その可能性は低いとは思っているけどな。
深い森の中ならともかく、村にほど近いこの場所ならいたとしても猪くらいのものだろう。
もし、強力なモンスターがこの辺りにいるのならとっくの昔に村を襲いにきているさ。
うん。何も来ない。
むしろ、鳥の囀りが全く聞こえなくなったくらいだ。音に驚いて遠くに飛び立っていったようだ。
「そろそろ大丈夫かな。じゃあ続きを」
「はい。次はどのようにすればよろしいでしょうか?」
このまま持って帰ることができれば結構な木材が手に入るけど、とてもじゃないが無理ってもんだぜ。
なので、必要最低限だけをまず持って帰ろうと思う。
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