Subsection B03「訪問(者?)」

──トントン、トン。

 暗闇の中で、何かを叩くような音が聞こえてきた。

 初めは小さな音であったが、ユリハがそれを認識した途端、その音は次第に大きくなっていく。

──ドンドンドンッ!

 ハッとして、ユリハは目を見開いた。

 ベッドの中──ユリハは横向きに寝転がっていた。山の麓の町に宿泊した宿──その部屋の中で、ユリハは目を覚した。

──ドンドンッ!

 相変わらず、乱暴に扉を叩くような音が響いている。

「あ、は〜い……。ちょっと待ってくださーい」

 寝ぼけ眼で、ユリハは眠い目を擦りながら上半身を起こした。ついつい大きな欠伸が出てしまう。

 どうやら宿泊していた部屋のベッドの中で、いつの間にか眠りについてしまっていたようだ。

──しかし、先程の冥界での出来事が全て夢の中の話であるというわけではない。

 ユリハはベッド脇にある備え付けの棚の上に置かれた包みを開けた。本来であれば、この中にはユリハが刈り取った山姥の生首が入っているはずである。

 ところが、結び目を解くと包みの中に生首はなく、代わりに報酬として金貨が数枚入っていた。

 ユリハはその金貨を手に取ると、指の中で弄んだ。

 そうこうしている内にも、扉の外ではせっかちな相手がトントンとノックを繰り返していた。

「あぁ、そういえば……」

 ふと、ユリハは閻魔の言葉を思い返した。

──詳しくは、天界の使いの者が行くからその者から聞いてくれ。

 確か、閻魔はそんなことを言っていたはずだ。ならば、こうもドアを激しく叩いてユリハの眠りを妨げた相手が天界からの使いの者なのだろう。

 合点がいって、ユリハは扉へと急いだ。

「ごめんなさい。今、開けますね」

 警戒心もなく、ユリハは鍵を解いて扉をガチャリと開けた。果たしてそれが本当に天界からの使いの者であるかも確認せずに、無防備に扉を開けてしまった。

 案の定、扉の向こうからぬっと顔を出した相手の姿に、ユリハは思わず声を失ってしまう。

「えぇ……」

 思わず口の中で悲鳴が漏れた。

「う……うま……?」

 ユリハの目の前に立っていたのは白馬であった。艷やかな白い毛並みには少しの汚れもついておらず、よく手入れが施されていた。

 紛れもない──それは、ただの馬である。

「お迎えに上がりましタ。ウェラ様がお待ちかねダヨ」

 さらに、当たり前のようにその白馬は、平然とユリハに向かってそんなことを言い出したのであった。

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