夏休み最終日に異世界から帰った僕たちは宿題を終わらせることができるのか
リアム
1話 僕の夏休み
この世界に来て今日でちょうど30日だ。体感としてはもっと長く感じたが、こまめにつけていた日記にもそれ以上の日数は記されていなかった。
あれは、ちょうど夏休みの初日だった。友達と海に行くバスで急な
異世界に召喚されて、色んな人と出会い、もとの世界ではできない体験をして、
もちろん、楽しいことだけではなかった。悲しいことも苦しいことも死を覚悟することもあった。
「うぉぉぉぉん! マリアさぁぁぁぁぁん! 今日でお別れなんてぇぇぇぇ!
あっちで叫んでいるのはシュン。幼稚園のころからの友達で
「ちょっと、シュン! 見てて恥ずかしすぎるから今すぐ止めなさい! 燃やすわよ!」
シュンを叱っているのは、ミサトだ。シュンと同様に幼稚園の頃からの友達だ。こちらでの
「シュンさん、そんなに泣かないで。ミサトさんも抑えて抑えて」
二人をなだめているのがマリアだ。マリアは異世界の住人であり召喚の
「タケルもそんなところで日記つけてないで! さっさとこっちへ来なさい! ……もうすぐお別れなんだから」
そして、今呼ばれたのが僕。名前はタケル。こちらでの
「うん、今いくよ」
僕は日記を閉じて、皆のところへ行く。
「まったく! こんなときでもマイペースなんだから……」
あきれた様子でミサトが言う。シュンは
「そうだぞ! タケルもマリアさんに世話になったんだからもっと別れを惜しめ!!」
今日は、異世界から元の世界への帰還の日だ。時計の針が0:00を指した時、僕らは自動的に元の世界へ戻る。そういう決まりになっている。
異世界はいわゆる剣と魔法の世界で、
しかし、一つ誤算があった。それは、僕らがまだ子どもだったことだ。
古代から受け継がれてきた勇者を呼び出す転移魔法は、
「年齢が12歳以下の子どもが転移させられた時は30日経過で自動的に送り返されてしまう」
異世界転移の魔法を作った古代の
正直、僕らが転移させられたとき、異世界の人たちはがっかりした顔をしていた。仕方がないことだ、世界を救う勇者を呼び寄せたいのに、30日で帰ってしまう子どもが来たんじゃ、がっかりもする。
そんなことで周囲の人たちはよそよそしい雰囲気を出していたが、召喚の巫女であるマリアは僕らをいつも気にかけていてくれた。
この異世界のことを何でも教えてくれて、体験させてくれた。僕らが、異世界を冒険したいと言い出した時もはじめは反対をしていたが、説得の結果、マリア自身が同行することで許可をもらう手助けをしてくれた。
「タケルさん、シュンさん、ミサトさん、あなた方がこの世界に来てから今日で30日になります。こちらの都合で皆さんをこんな目に
マリアが深々と頭を下げる。長い金髪が地面に着いて、汚れてしまわないか少しハラハラする。
「そんなぁぁぁ! 謝らないで下さい! マリアさぁん! 最高の30日間でした! 異世界を冒険できたし! マリアさんと出会えたし! 絶対に忘れません!」
「そうよ! 最高に楽しかったわ!……それにマリアが謝ることなんてないわ。私たち、ちゃんと元の世界に帰れるもの! 最高の思い出ができたわ!」
シュンとミサトがそれぞれ声をかける。僕も頷いて同意する。
「ありがとうございます、みなさん」
マリアが顔をあげる。顔は笑っているが、目は潤んでいた。
「もうすぐお別れです。せめて、最後の時は手を繋ぎませんか」
マリアの言葉で輪になり手を繋ぐ。みんな見つめあって時を待つ。
時計のすべての針が真上を指す。光が僕らを包む。目の前が真っ白になる
しだいに光が収まる。身に付けているものも体の感覚も特に変わりない。
変わったのはシュンもミサトもマリアもいないこと。それに加えて、1ヶ月ぶりに自分の部屋に帰ってきていたこと。
電子時計を確認すると、0:00と表示されており、その傍らに「8月31日(日)」と表示されていた。
僕は夏休み最終日にこの世界へと帰還したのだった。
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