42 再戦、シンクVSレン
シンクはすでに開花した≪
彼自身は知るべくもないが、それは彼の叔母である荏原恋歌の≪
淡く光る球体を自在に操る力。
激突時の威力が非常に高く汎用性にも優れる。
高威力の攻撃弾であり、飛行ユニットとして扱うこともできる。
さらにシンクのそれは光球それぞれにコピーした七つの能力を付与できた。
例えば≪
≪
≪
第二段階が開花してすぐの実戦。
だがシンクはこれらを試すまでもなく完璧に扱いこなしていた。
もちろん自分自身も今まで通りにコピーした能力は使用可能である。
久しぶりに使った≪龍童の力≫はこれまでの無力感が嘘のように体に力を与えてくれた。
人喜一体。
≪
しかし。
それでも。
シンクはレンに対し、手も足も出なかった。
「くっ……!」
「いくよー! それっ!」
分厚い氷壁と土塊を重ねた即席の盾を構える。
レンは躊躇なくその上から蹴りを叩き込んできた。
機関銃による斉射すらある程度は防げる氷土の盾。
それがまるでプラスチックのようにあっさりと叩き割られてしまう。
威力を殺すことすらほとんどできず、シンクはガードの上から盛大に吹き飛ばされた。
「がっ……!」
なんとか気を張って体勢を立て直す。
背後の岩山に激突する前に≪
移動したのは上空数十メートル地点。
そこにレンの追撃が迫ってくる。
「あははっ、シンくん、追いついたっ!」
瞬間移動するのを読んでいたのか。
いや、見てからでも十分に対処可能なのだ。
地面を蹴って一瞬で距離を詰めてくる龍神の呪いを受けし少年。
再移動までのクールタイムを待っている余裕はない。
三方向から光球を向かわせ迎撃する。
激突と同時に爆発する炎の球。
触れれば凍り動きを止める氷の弾。
鋼鉄のように硬く大岩すら砕く地の球。
一発でも当たれば致命傷になる高威力の波状攻撃を、
「やっ!」
レンはなんと腕を払うだけですべて弾いてしまった。
高威力の連携技が足止めの役目すら果たせない。
「くそ……」
稼げた時間はわずかに一秒未満。
クールタイム終了にも届かない。
シンクは苦し紛れに爆炎を乗せた拳を突き出した。
≪
これはシンクが使える中では最強の技である。
そこに≪龍童の力≫第二段階のパワーを乗せた正真正銘の必殺技だ。
これが通じなければダメージを与える術はない。
「あはぁっ!」
レンは新しいおもちゃを見つけた子どものように、楽しそうな声を上げながら正面から拳を重ねてきた。
激突と同時に大爆発が巻き起こり二人の周囲は炎と爆風に包まれる。
その中から先に飛び出したのはシンクだった。
攻撃を逃れたわけではなく競り負けてぶっ飛ばされたのだ。
クールタイムは過ぎていたが瞬間移動で逃げる暇はない。
岩肌剥き出しの地面に背中から叩きつけられた。
「ぐわっ……!」
呼吸が止まる。
全身に凄まじい激痛が走る。
装備したDリングの防御と≪龍童の力≫のおかげで、なんとか生きてはいるが……
「あははっ、やっぱりシンくんはすごいなあ! でもまだだよねっ! もっと遊べるよねっ!」
シンクが立ち上がると同時にレンが眼前に降り立つ。
服や剥き出しの素肌こそ煤けているが攻撃が効いた様子は見られない。
最強の技をまともにぶつけてこれだ。
第五段階に至った≪龍童の力≫を持つレンは想像以上の化け物だった。
甘く見ていたと言えばそれまでだが、全力を尽くしてもまともに戦えるような相手ではない。
悔しいが今のシンクとレンの間には小細工を挟む余地すらない圧倒的な実力差がある。
「ちっ、どうすっか……」
前に勝った時のようにレンの攻撃に波長を合わせて撃ち返すことも無理だろう。
あれは当時レンが扱う≪龍童の力≫がまだ第三段階だったから可能だった芸当である。
今同じことをやろうとしても受け止める事すらできずに飲み込まれるのは目に見えている。
「どしたの、シンくん? こないならこっちから行くよっ!」
ゆっくり考えている余裕は与えてもらえない。
狂気すら垣間見える無邪気さでレンが襲いかかってくる。
少年の姿をした神話の龍神。
全身から発する紅色の闘気は津波のよう。
シンクは迎撃のため必死になって光球に乗せた爆炎を放つが、
「効かないって!」
正面から突っ込んでくるレンは防御の構えすら取らない。
土煙が舞い上がり、彼の視界から消えた瞬間を狙って瞬間移動する。
だがこちらの気配を完全に読んでいるレンに対しては時間稼ぎにもならない。
「思いっきりいくよ! 死んじゃったらごめんねっ!」
一秒足らずでこちらを見つけて飛び込んできたレンが拳を突き出す。
シンクは巨大な龍の顎に飲み込まれる錯覚に襲われた。
迫りくる絶対的な死の予感。
しかしシンクは目を閉じなかった。
自分でも驚くくらい冷静に現状を見つめる。
どうしようもないことを悟った上でシンクは……
ほぼ無意識のうちに『七つ目の能力』を発動させた。
「……あ?」
体感時間で三秒ほど固まっていただろうか。
強烈な威圧感からくる龍の幻影はもう見えない。
レンが攻撃するのを止めたわけではない。
どこか違う場所に飛ばされたわけでもない。
だってレンはそこにいる。
シンクの目の前に。
無邪気な表情で体と同じ小さな拳を突き出す少年。
彼はまるで凍り付いたかのように固まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。