28 ひとつめの雪辱
切断された足から鮮血を飛び散らせながらハルミは落下していく。
残った腕から何かを伸ばして勢いを減速させるが受け身を取るには至らない。
激しい音を立て共に背中から床に落下した。
「う、あ……!」
まともに動けるような状態でないのは一目瞭然である。
そんなハルミの傍へとシンクは近づいて行った。
真上から見下ろして額に銃口を向ける。
「残念だったな」
「し、新九郎……」
怯えるような、懇願するような目。
しかしシンクの心は微塵も揺るがない。
「ねえ、お願いだよっ……助けて、殺さないでっ。友だちだろっ」
端から見れば今の自分はとても卑劣なのかもしれない。
乱入者に助けられ、すでに身動きの取れない敵にトドメを刺そうとしているのだ。
だがシンクは決めた。
正義なんかじゃなくてもいい。
悪と誹られても復讐を、恨みを果たすと。
「わ、わかったよっ。オイラが君にしたことはきっと許されることじゃないっ。でも最後にこれだけは言わせてくれっ! あのねっ、実を言うとオイラは――」
ハルミの言葉はそこで途切れた。
シンクが引き金を引いて黙らせたのだ。
荷電粒子砲の光はハルミの顎から上を消滅させた。
最後の一発を撃ち尽くして用済みとなったSH2029を投げ捨てる。
「……ちっ」
予想はしていたことだが、ハルミを殺しても気分はまったく晴れなかった。
むしろ不快感が澱のように体の奥深くに沈殿していく。
復讐なんて果たした所でこんなもの。
単なる自己満足だとわかっていたが止められなかった。
それだけの話だ。
「新九郎」
声に振り向くと、青山紗雪がほとんど無表情でこちらを見ていた。
無抵抗な人間を殺したことを咎めるつもりだろうか。
気まずさを隠すために顔を逸らす。
と、ものすごい力で背中を叩かれた。
「痛え!」
「なーにシケた顔してんのよ。敵を倒したんだからもっと喜びなさいよ」
「喜べって……お前、俺は人を殺したんだぞ」
「そりゃ見てて気分がいいとは言わないけど。でも、殺したいくらい嫌な奴だったんでしょ? 新九郎が無事だったんだからそれでいいじゃない」
なんという単純な思考。
むしろシンクより割り切っている。
「まあ、誰だか知らないけどお墓くらい作ってあげましょうよ。≪
ここに埋める気かよ。
あと植物園の花を勝手に持ってくるのは犯罪だ。
「ところでお前のあの刀、ルシフェルのアホに奪われてたよな」
「うん? そうだよ」
自分のJOYを手元に呼び戻す≪
しかし、あの刀はルシフェルはレンと一緒にどこかに消えてしまったはずだ。
「どうやって戻ってきたんだ?」
「なんか空が割れてそこから落ちてきたよ」
言っている意味がわからない。
「外を見てみればわかるって。ほら、まだ穴は空いてるはずだから」
紗雪に導かれるまま建物の外に出て空を見る。
その景色を見たシンクは絶句した。
「なんだありゃ……」
空の一部が欠けていた。
まるで夜空を映した画面を割ったようである。
たぶんあれはルシフェルがレンやショウを伴って消えた空間である。
形は違うが東京湾上空に開いた異次元へ繋がるゲートと同じモノに違いない。
シンクは確信する。
あの向こうにレンがいると。
そう思った直後、駆けだしていた。
「ちょっと、どこに行くのよ!」
紗雪が呼び止める。
だが構っている余裕はない
どうにかしてあそこに行かなければ。
どうする?
クールタイムの関係で≪
せめて滞空時間を延ばすための他の能力があれば――
……まてよ?
シンクは追いかけて来た紗雪の方を振り返る。
「おい青山。≪
もうずっと前に失った自分のJOY。
惜しいとは思っても未練なんてないはずだった。
けど、役に立つ可能性があるならなんでも使ってやる。
「別に良いけど」
「悪いな」
「ちょっと、乱暴に取らないでよ」
紗雪の手からひったくるように≪
シンクはそれを手に持って強く念じた。
複数の能力をコピーするシンクのJOY。
その中にはもちろん≪
さらに≪
今こそこの手に取り戻す。
俺の≪
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