15 紗雪VS陸軍兵士
「でえぇい!」
ルーフの上に乗った紗雪はジョイストーンを解放。
大剣のJOY≪
これは元々埼玉の能力者組織に所属していたタケハのサブJOYである。
ロシアに渡った際に一時的に借り受け、そのまま紗雪が武器として使わせてもらっている。
ALCOと行動を共にする以上、紗雪もある程度の護身術は身につけておくべきであるとの神田和代の提案を受け、仲間たちから基礎的な戦闘訓練を教わったのだが……
結果は和代の予想を遙かに超えて凄まじい成果をもたらした。
大剣を振り上げたまま紗雪は飛ぶ。
並走する陸軍車両に向かって≪
鋼鉄の塊がぶつかり合う鈍い音が響いた。
ライフルの連射を受けても傷ひとつつかない装甲車。
その屋根が、まるでアルミのようにべこりとヘコんでしまう。
「流石に斬れないわね……ならっ!」
紗雪は装甲車のヘコんだ屋根の端に飛び移り再び剣を振り下ろす
刃は半円を描いて車の側部に叩きつけられた。
「うわあーっ!」
窓が割れる。
銃を構えて身を乗り出していた兵士が衝撃で外に転げ落ちる。
運転手はハンドル操作を失い、車は中央分離帯を乗り越え、街路樹をなぎ倒しながら歩道向こうの住宅に突っ込んでいった。
紗雪は素早く装甲車から飛び降りて後方から迫ってくる別の車両に飛びついた。
「やああああっ!」
切り上げ……というよりは掬い上げるような動作。
数トンはあるだろう装甲車が宙に浮いた。
「せいや!」
浮き上がった車両は空中で逆さまになり、屋根を下にして落ちてくる。
それが地面に激突する直前、紗雪は思いっきり剣をスイングしてぶっ飛ばした。
「もういっちょ!」
足を止め、次に迫ってくる装甲車めがけて剣を振り抜く。
紗雪はしっかりと大地を踏みしめている。
アスファルトに亀裂が走るが、一歩も動かない。
吹き飛ばされたのは突っ込んできた装甲車の方だった。
急に戻って来た装甲車に後続車が激突。
二台が道路に横転すると、他の車も避けきれず次々と衝突していく。
完全に進路を塞ぐことに成功した紗雪は道路の先に目を向けて、
「ちょっと、なんでおいていくのよ!」
薄情にも先に行ってしまったシンクの運転する車に向かって叫んだ。
右手で大剣の柄を握り、左手で剣の腹を支えるように構える。
「でぇい!」
大剣を槍投げの容量で投擲。
ジャンプして剣の腹に飛び乗った。
※
飛行する剣がシンクの運転する車両に迫る。
「おい、マジかよ!?」
あわや車体が串刺しと言うところで、紗雪は剣をジョイストーンに戻した。
曲芸のように車体の淵に掴まって踊るような身のこなしで空いた窓から車内に入ってくる。
「ただいま」
「お前はどこぞの世界一の殺し屋か!?」
自分で投げた剣に乗って飛んでくるとか、もはや超人としか言いようのない芸当である。
あっという間に陸軍の装甲車両を八台も無力化した幼なじみにシンクは恐怖を覚えた。
ボディーガードとしては頼りになるが、正直言って怖すぎる。
こんなやつを隣りに乗せて運転することに不安を感じざるを得ない。
ナビを見ると、いつの間にかルートは本来の道筋から大きくハズレたコースを示していた。
Uターンが必要だが湘南道路まで戻る必要はないらしい。
浦賀を通って北から向かう道で行けるようだ。
中心部にまで戻るのは再び陸軍と鉢合わせる可能性が高い。
地図を見る限り大回りだがこのまま直進しても辿り着けるようだ。
もちろん、そのルートなら敵と合わないという保障はどこにもない。
安全を取るか最短距離を取るかは迷うところだ。
「ねえねえ、新九郎」
「なんだようるせえな。いま考え事してるんだよ」
「あれ」
しつこく袖を引っ張る紗雪がシンクの体越しに窓の外を指差した。
なんだよと思い視線を右に向けると、そこには信じられないものがいた。
「なっ……」
シンクがそれを認識して反射的にブレーキを踏む。
同時に
装甲車のギリギリ前方を砲弾がかすめる。
爆音と共に道路左の堤防が吹っ飛んだ。
激しい爆風を受け車体が大きく傾ぐ。
初撃を避けることはできたが、戦車はなおも反対車線を併走して走っている。
「あんなの街中で出してくるかよ……!」
巨大な回転式砲塔を持ったキャタピラ駆動の戦闘装甲車両、いわゆる戦車である。
しかも速度はこちらと大差なく、移動しながらも正確に狙って撃ってきた。
次に撃たれたら確実に当てられるだろう。
直撃を食らったら装甲車だって無事で済むわけがない。
いざとなれば自分だけでも≪
「新九郎、とめて!」
紗雪が叫んだ。
シンクはブレーキをめいっぱい踏み込んで車を減速させる。
「何か考えがあるのか?」
普通なら無視するところだが、さきほど超人的な活躍をみせてくれた女である。
見捨てて逃げる前に彼女自身の提案に一縷の望みをかけてみようと思った。
車が完全に停まると、紗雪は車外に出て右手に大剣を具現化させた。
戦車の砲塔はすでにこちらを向いてしっかり狙っている。
野球のバッターよろしく剣を振りかぶる。
「撃ち返してやるわ」
あ、ダメだ。
馬鹿力と運動能力はあっても、こいつは頭が残念だった。
普通に考えて音速近い速度で飛んでくる戦車の砲弾なんて跳ね返せるわけがない。
せめて降伏勧告でもあるかと期待したが戦車は沈黙を保ったまま。
五秒過ぎ、十秒経ってもまだ敵に動きは見られない。
「なんだ……?」
どういうつもりかと訝っていると、砲塔がぐるりと九十度回転した。
轟音と共に撃ち放った砲弾は後方の海岸に着弾して砂煙を立てる。
待ち構えていた紗雪はぽかーんとした表情でそれを眺めていた。
「なにやってるの、あれ……?」
「わかんねーよ。バグったんじゃねーの」
聞かれても答えられるはずがなく、理解を放棄して適当に言葉を返すシンクだったが。
「
声は反対側の窓の外から聞こえた。
目を向けると見覚えのある男が立っている。
以前にショウと一緒に紗雪を連れ去ろうとした金髪の外国人だ。
名前は確か……
「マークさん!?」
「やあ、サユキ」
マーク=シグー。
有名俳優のして、クリスタの大企業の御曹司。
JOYとはまったく別系統の超能力を使うクリスタ人の青年だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。