12 L.N.T.二期生の関係
気が付いた時には、頭が強烈な痛みを訴えていた。
「……ちくしょう!」
高木は身を起こして叫んだ。
ほんのわずかな時間だが気絶していたようだ。
見慣れぬ景色である。
海沿いの公園、小さな湾の向こうには海軍の艦が停泊している。
視線をぐるりと巡らすと、横須賀市街地のビル群、街道沿いのショッピングプラザが見えた。
ぶっ飛ばされた。
この俺が?
その事実を改めて認識すると、怒りで頭が沸騰しそうになった。
ALCOの本拠地を探している最中、わざわざ強烈な電波を発しながら移動している男を発見した時は目的の大半を達成した気になっていた。
その男がラバース参加企業の能力者組織を裏切ってALCOについた裏切り者だという情報はデータを見ればすぐにわかったし、これから行われる大イベントの調査に来た斥候なのだと思った。
捕まえて適当に痛めつければ本命ターゲットである神田和代と小石川香織をあぶり出せるだろう。
そう考えて高木はあの荏原新九郎という男を襲撃した。
ところが標的の荏原新九郎は予想外の抵抗を見せた。
しかも足止めされたところ、マヌケなことに先んじて陸軍に捕縛されやがった。
その上よりによってあのムカつくハルミの野郎から手柄を譲ってもらった形になってしまった。
非常に不愉快な状況。
そこに現れたのがあの制服の女だった。
事もあろうに高木に対して腕力で抵抗し、あまつさえぶっ飛ばしてくれた謎の女。
油断していたとはいえ力比べで負けた。
それも相手は若い女である。
力自慢の高木にとってこのような屈辱は初めてである。
「ぜってえに許さねえ……必ず殺す……」
携帯端末で発信機の位置を探る。
すでに荏原新九郎の反応は消えていた。
いいさ、なら探し出して今度は確実に殺してやる。
高木は右耳のピアスを引きちぎると、表面を擦って偽装のための塗料を落とした。
「この≪
大きめのピアスはみるみるうちに輝く宝石、ジョイストーンへと姿を変える。
己の身体能力に強い自信を持つ高木はJOYの使用を好まない。
そのためインプラントも行っていなかった。
だが、使えるものは何でも使えるようにしておかねばいざという時に生き延びられない。
そういう厳しい世界で生きてきた彼は状況次第で拘りを捨てられる人間だった。
彼が青春を過ごしたL.N.T.第二期。
それは常に死と隣り合わせの戦場の日々。
聞いた話ではL.N.T.第一期生は平和な学園生活の真似事をしながら、緩やかに戦乱に導かれていくという、まだるっこしいやり方をしていたらしい。
対する第二期生は最初からひたすら生き延びるためだけに敵を殺すことを強要される、真の戦場に近い舞台に放り込まれた。
無数に用意された武器とイベント。
それと第一期で余ったジョイストーンの数々。
あらゆるものを駆使して何百人もの少年少女たちが殺し合った。
けれどそれは高木にとって非常に居心地の良い生活だった。
己の肉体とジョイストーンを武器に地獄の町で高木は生き残った。
そして今、こうしてラバースの裏の最高機関に属する手前まで来ている。
第一期を生き延びたAEGISの先輩方は予想以上の怪物だったが、それは実務経験の差があるからだと思っている。
自分ならすぐにあのレベルにも追いつけるという確信もある。
その俺が、いずれはラバースを支配する俺が、女ごとき相手に後れを取ってどうする!?
「待ってろよあの女ぁ、荏原新九郎もろとも挽肉にしてやるぜぇ……」
「残念ながらお前の出番はもう終わりだ」
勢い込んで一歩を踏み出したところで、背後からの声に高木は足を止めて振り返る。
この声……忘れるはずもない。
「……今日は本当に最悪な日だぜ。ハルミに続いてテメエとも会うとはな」
L.N.T.第二期生にはすべて本名とは別に管理者につけられた名前が存在していた。
彼の『高木』という名もラバースの管理者につけられた名で下の名前は存在しない。
ラバースの人間がわかりやすく管理するための個体識別の単語。
あの町で生まれ死んでいった実験動物たちの管理名である。
中でも目の前の男は特に奇妙な名を与えられていた。
『K』という名を。
「俺もお前とは二度と会いたくなかった」
Kは大して興味もなさそうに言った。
その態度がますます高木の勘に障る。
「そうかい……だが逆に考えりゃ好都合だ。L.N.T.第二期の真のトップは誰かってこと、この場で改めて教えてやるぜ。裏切り者野郎がよぉ!」
誰がデータを取っていたのか知らないが、L.N.T.二期生は日々の活動を評価され序列がつけられていた。
殺した敵の数、立ち振る舞い、能力の強さなど事細かなデータが数値化され成績順位となる。
高木はある時までずっと序列第三位に甘んじていた。
敵を何人殺しても決して上位二名との差が埋まることはなかった。
彼の上にいた二人こそKとハルミである。
Kが第一位でハルミが第二位だった。
「井の中の蛙の背丈比べに興味はない」
「お前になくても俺にはあるんだよ。栄光を掴む前に消しておきたい過去の汚点がな!」
高木はかつてハルミと二度、Kと一度だけ戦い、そのいずれも敗北している。
二人とも力で押すタイプの高木を翻弄する戦術の使い手だった。
敵としての相性は最悪だったと言っていい。
ある程度の善戦はしたが、あの時は命からがら逃げ出すのが精一杯だった。
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