9 親子の宣戦布告
この国が一変したことを告げる総理大臣の声を聞きながら、新生浩満は今後のことを考える。
権力は手に入れた。
軍事力も手に入れた。
しかし、本当に手に入れたものはもっと強大だ。
能力者などオモチャを持たせただけの子どもであるという認識に間違いはない。
強烈な破壊をまき散らす能力者であっても武装をした軍隊の一個小隊もあれば撃滅は容易い。
だが、何事にも例外はある。
例えば神器所有者。
例えば特殊任務遂行中の三人の懐刀。
例えば今は失われて久しいL.N.T.の断罪の魔天使。
これから始まる世界との戦いにおいては、軍すらも上回るこれらの逸脱者が鍵を握る。
彼らは武器を持たせた素人などではない。
言ってみれば唯一無二の超兵器である。
現状、浩満が最も多くそのレベルの能力者を所有している。
彼らを完璧に支配下に置く技術は自分しか持っていない。
ただし逸脱者の存在は手元にある以外にもいくつか確認ができている。
小石川香織はともかく、在野から発掘した不肖の息子には感謝してやってもいい。
「お前が残した成果は私がしっかりと役立ててやるから安心しろ……」
と、浩満が独り言を呟いたその時。
『そう何もかも思い通りになると思うなよ』
どこからか声が聞こえてきた。
浩満はとっさに自身のJOYを発動させる。
≪
神器の一つに数えられるこの能力は、その特性の一つとして周囲の時間を止めることができる。
この止まった時間の中で動けるのは確認されている限り≪
浩満は時間を停止した中で周囲の確認を開始した。
この特別傍聴室にいるのは浩満ただ一人である。
ドアは厳重にロックされている。
材質は砲撃を受けても壊れないほど頑丈。
ましてやこっそり侵入できる者などいるはずがない。
一時間かけて盗聴器やスピーカーの確認も行ったが、それらしい物は見られなかった。
念のため一度傍聴室から出て拳銃を手にして戻ってくる。
ここまでに要した浩満の体感時間はおよそ二時間。
しかし≪
この過剰とも言える慎重さが浩満をこの国の影の支配者にまでのし上げた秘訣である。
『どうした、無駄な警戒をして疲れたか?』
声は再び聞こえてきた。
今度は確かにハッキリと、その声の主が何者かわかるほどに。
浩満はスーツの内ポケットから携帯端末を取り出した。
そこには黒一色の待機画面はなく、代わりに悪趣味な銀髪の青年の顔が表示されていた。
『こうして顔を合わせるのは久しぶりだな。クソ親父』
「貴様か……」
浩満は携帯端末を弄っていない。
自動着信モードにしてもいないし、映像通話などという機能はそもそもついていない。
明らかにこの機械は乗っ取られている。
この悪趣味な銀髪の少年、フレンズ社というオモチャを与えてやった我が息子に。
『始末したはずの人間が蘇って驚いたか? ああ、確かに僕は死んだ。お前の送った刺客にまんまとやられたよ……だが一足遅かったな。僕はついに至ったんだ。お前が言っていた
自らをルシフェルと名乗る息子は父を出し抜いた愉悦を隠そうとせず、高らかに宣戦を布告する。
『僕はお前を超える。お前の手に入れたモノをすべてメチャクチャにしてやる。いいか、首を洗って待って――』
息子の言葉を最後まで聞くことなくルシフェルは携帯端末を止めた。
電源を切ったわけではなく、≪
もはやこの端末は部品をバラして一から組み立てたところで二度と起動することはない。
まったく、してやられた。
「まさか貴様自身がステージを昇るとはな」
思いも寄らないとはこのことだ。
そしてあの様子では決して自分に降りそうにはない。
どんな力を得たのか知らないが、浩満にとって大きな障害となるのは間違いないだろう。
ああ。
まったく。
「前言を撤回しよう。貴様には大いに期待する。是非とも我が覇道への障害となり、この私を思う存分に楽しませてくれ!」
楽しいなあ、この世界ってやつは。
思い通りにならないって事はなんでこんなにも楽しいんだ。
「それでこそ貴様を作った甲斐があるというものだ」
浩満は歪んだ笑顔を浮かべて、機能を失った携帯端末をゴミ箱に投げ捨てた。
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