7 神鏡翼 –diamond wing–
ショウが携帯端末を取り出してフレンズの人間に連絡を入れようとすると、周りに残っていたポシビリテのメンバーが話しかけてきた。
「な、なあアンタ。さっきの本当なのかよ」
「ん?」
「折原さんの能力が、ただの幻覚だって話……」
リーダーがあっさりと倒された今、彼らに抵抗をする意思はないだろう。
仮に攻撃をされても問題なくあしらうことができる。
そう考えたショウは気軽に説明した。
「ああ、本当だぜ」
折原のJOY≪
毒を盛られた相手はしばし地獄の拷問を受ける幻覚を見る。
しかもご丁寧に記憶の改竄までされ、その夢を現実だと思わされるのだ。
受けた相手は拷問執行人であると錯覚した能力者に対して逆らう気を起こさなくなる。
一種の暴力的な洗脳能力と言えるだろう。
「洗脳、ね……あはは」
彼はおそらく幻覚蟲の洗礼を受けたことがあるのだろう。
ポシビリテのメンバーのほとんどは恐怖によって服従していたはずだ。
手も足も出ずに酷い目にあわされ、逆らうとまた一度地獄を見せられると言われて。
真実を知ればもう言いなりになることもない。
反乱に加担した者たちには何らかの処分は下るだろう。
だが、望むならまたいずれかの能力者組織に振り分けられるはずだ。
「このアマ……よくも、いままで……このアマぁ!」
「おっと、気持ちはわかるが手は出すなよ」
真実を知った男は怒りの声を上げる。
どうやら折原の素の人望は皆無に等しいようだ。
妙な気を起こされては困るので釘を刺しておこうと思ったのだが、
「死にやがれ!」
男は懐から黒光りする鉄の塊を取り出した。
直後、検車区内に耳をつんざくような破裂音が響いた。
硝煙の匂いが風に乗り、一瞬だけ周囲が明るく照らされた。
直後、暗闇と静寂が戻る。
「あ、あれ……?」
気絶したままの折原は自分が撃たれたことにすら気付かなかっただろう。
だから、この場で一番驚いているのは拳銃を撃った本人である。
薬莢と拉げた弾丸はほぼ同時に地面に転がった。
折原と男の間に透明な翼が広がっている。
その翼の根本はショウの背中にあった。
高速飛翔や風を操る力などは副次的な能力に過ぎない。
その真価はあらゆる攻撃に反応して瞬時に発動し、銃弾程度ならものともしない絶対防御。
神器の一つに数えられる最強のJOY。
その名は≪
「悪いな。そいつは重要参考人だから、死なせるわけにはいかないんだ」
今回の件で折原が反ラバース組織と関係を持っていたのは間違いない。
恐怖による抑圧から解き放たれた配下が復讐したい気持ちはわかるが、それは許可できない。
「ほら、よこせよ」
「う、うわああああああっ!」
恐慌状態に陥った彼はショウに銃口を向けて何度も何度も引き金を引いた。
しかし放たれた銃弾は悉くショウに当たる前に見えない壁に阻まれる。
十数発の弾丸をすべて撃ち尽くし、しばし無為に引き金を引く音が響いた。
やがて力をなくした男の手から拳銃が落ちると、ショウはそれをひょいと拾い上げる。
「ったく、こんなもんどこで手に入れたんだよ」
「こ、殺さないでくれ……」
「殺さねえよ。質問に答えろ」
怯えた目で懇願されると、こちらが悪いことをしているような気になる。
どうやら彼には少しリハビリが必要なようだ。
いくら能力者組織という裏社会に属しているとはいえ、この日本で拳銃なんかが簡単に手に入るわけがない。
そんなものを売りさばいている組織があるならアミティエに制圧命令が下るはずだ。
別件か、あるいは……
「し、知らない奴からもらったんだよ。顔を隠して声を変えていたけど、たぶん女だ。万が一にも折原さんが失敗するようなことがあれば、これで撃ち殺せって。そうすれば少なくとも俺は見逃してもらえるし、どっちにしてもアイツの支配からは解放されるって……」
「わかった」
そうか、失敗した時のための口封じか。
それも恐怖心を利用した非道な方法で。
最初から折原を切り捨てるつもりだったのだ。
しかし、奴らは致命的なミスをした。
折原とヒットマンに仕立て上げた部下。
奴らが接触した二人も、こうして確保に成功した。
ここから奴らの情報を割り出せないほどラバースは甘くない。
反ラバース組織ALCO。
とうとう尻尾を掴んだぞ。
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