9 それから三か月……

 川崎工業地帯の一件以来、しばらくは平穏な時が続いた。


 もちろんSHIP能力者の捕縛は定期的に行われていたし、シンクは第三班のエースとして活躍している。

 ひまわり先輩は相変わらず忙しそうだったが、新戦力として加わったレンの存在は彼女が抜けた穴を抜けて余りあるものだった。


 活動中はサポートに徹し、終わったあとは怒りながらダメだし出しをするのが板についてきたマナ先輩。

 シンクはいつでも必死な彼女に何度となく癒された。


 ツヨシの舎弟ぶりもますます堂に入っている。

 いつもタオルを差し出してくれる無口な少女の名前はまだ聞いていない。

 副班長のアテナやシャルロットなど、個性豊かな仲間に囲まれながら第三班は活動を続けていく。


 連中との付き合いはアミティエの活動だけに留まらない。

 仲良しクラブの趣は第三班の特色であると言えた。


 夏休みには第三班の班員に加え、なぜか青山紗雪も加えて海に遊びに行ったりもした。

 ひまわり先輩に負けず劣らず、今まで隠されていた幼馴染の変態ショタコンぶりには頭を抱えるシンクだったが、文句を言いながらも結構楽しんでいた。


 他の班との関係もおおむね良好である。

 隣の戸塚市を拠点とする第四班とは一度合同で大規模なSHIP能力者の反乱を鎮圧する機会があった。

 古都鎌倉を舞台に真昼の大騒乱になったが、シンクは四班班長オムこと亮と協力し、抜群の連携で見事に事件を解決してみせた。

 ちなみに、なぜかシンクは第四班の黒ギャルのミカから懐かれている。


 テンマの第二班とは仲が良いとは言えないが、禍根を残すことなく協調する関係を保っている。

 九月の中頃にはフレンズ本社から直々の命令が下り、東京湾アクアラインを通って千葉まで遠征を行った。

 向こう側の能力者組織がやらかしてしまった事件の解決を手助けするためである。


 幕張をホームとする千葉の能力者組織。

 彼らはアミティエの班一つと同じ規模の人員で千葉県と茨城県の全土を担当している。


 シンクたちと彼らの活動内容に大きな変わりはない。

 規模は小さいながら、向こうにはアミティエの班長クラスに匹敵する能力者が四人もいた。

 シンクたちアミティエの第二・第三班合同グループは、不幸な成り行きから彼らとも一戦を交えることになってしまう。


 千葉の能力者組織班長である古風な剣士とレンの対決はどちらも勝ちを譲らぬ激戦となった。

 それでも最終的には全員が協力して事件解決に当たることができたのは幸いだった。


 第一班とは担当地域が離れているせいもあって、あまり関わり合う機会はない。

 アミティエ最強と呼ばれる第一班班長はいつも忙しそうにあちこちを飛び回っているらしい。


 日常生活もおおむね平和。

 レンは中学の友だちと仲良くやっているようだ。


 時々シンクの家に男子二名女子一名の三人組がやってきては、レンを連れてどこかに遊びに行っている。

 なんでもある事件をきっかけに、彼らにだけはレンが常識外れの力を持っていることが知られてしまったらしい。


 詳しくは聞かなかったが、危機に陥った友人を救うためならしかたない。

 レンは自分の力を自己満足のための暴力ではなく、大切な仲間を守るために使っているようだ。


 そしてレンがシンクの元へ帰って来てから、三か月が経った秋口のある日。

 事態は急速に動き始めた。




   ※


 第四班はいつものSHIP能力者の捕縛活動後、戸塚中央駅前の居酒屋で飲み会を開いていた。

 このように親睦を深める行事は今まであまりなかったが、最近はオムの発案で定期的に催されることになった。

 おかげで表の少年グループ間の因縁もかなり薄れている。


「あの、オム班長……ちょっといいですか?」


 座敷席で数人のフロントメンバーと今夜の反省会をしていると、末端のメンバーが声をかけてきた。


「ちょっとぉ、いまオムちゃんは大事な話してるんだけどー。用事があるなら後にしてくれないー?」


 自身も呼ばれていないのに勝手に同席していることを棚に上げてミカが文句を言う。


 話しかけてきたのはわずか一か月前に第四班に加入したばかりのメンバーだ。

 オムに声をかけた時点でビクビクしていたが、ミカに凄まれてさらに委縮してしまう。


「いや、構わない。というかミカこそ少し黙っててくれ」

「ぶー」

「それでマナト、何の用だ?」

「えっ、俺の名前……」


 話しかけてきたマナトは日の浅い末端メンバーである。

 彼は自分の名前を覚えてもらっていることに驚いているようだ。

 オムは笑いながら答えた。


「班長が班員の名前を覚えていないわけがあるものか。先日の瀬谷での活躍は聞いているぞ。工場地帯に逃げ込んだ『ボディバランス』の能力者を捕まえた際、見事なおとり役を務めてくれたそうだな」


 オムの気配りの良さにマナトは表情を緩めた。

 その後はややリラックスした様子で用件を話す。


「実は班長に会って欲しい人がいるんです」

「会って欲しい人?」

「はい。同じ学校の人間なんですけど……」


 オムは第四班のフロントメンバーや第二班のテンマなどとは違い、表で名の知られた少年グループのリーダーではない。

 わざわざ会いたいなどと言ってくる人間なんてアミティエの関係者くらいだろう。


 いや、あるいは……


「SHIP能力者か?」

「はい……たぶん。俺も実際に能力をみたことあるわけじゃないんですけど」


 能力に目覚めた人間がアミティエの存在を知って、自ら接触を図ってくるというのもあり得ない話ではない。

 オムはマナトの知り合いが自らを律する節度のある人間と考え、彼の頼みを快諾した。


「わかった。予定を開けておこう」


 だが、この時の軽い判断は彼の運命を大きく狂わせる。

 アミティエを大きく狂わせる黒い影は、まずは第四班の前に姿を現した。

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