第21話 あれから数日
神様の腕の中で子供のように泣きじゃくってしまってから数日が経ちました。今、私は自己嫌悪でいっぱいです。
(ヒロインは前世でやり尽くしたから悪役令嬢に転生させてもらったのは私なのに……それを棚に上げてよくまぁ泣いたものだわ)
そうです、私は望んで悪役令嬢になった女。前世でヒロインとして全てのルートは攻略済み。悪役令嬢がどんな末路を辿るのか、ヒロインが攻略対象にどんなに優しくされ、甘い時間を過ごすのかなんて全部知っているのです。
(なのに勝手に傷付いて……その上神様に慰められるなんて、都合のいい)
悪役令嬢として婚約者のカルロ様を手元に繋ぎ止めておかなかったのは私。そう、私はただただ失敗しただけなのです。なのにあんなに泣いてしまうなんて……。
(埋まりたい……穴があったら埋まってしまいたい……)
頭を抱えてテーブルに突っ伏しました。思い出せば出すほど自己嫌悪、赤っ恥です。
自分だって画面の外から同じことをやったのです。何を都合のいい事をと言われたって仕方が無いのに、まさか、転生してきまして前世では私が婚約者を攻略しちゃってたんです、なんて言えませんし。言ったところで誰も信じないでしょうし。
その上、転生する時には主人公には奪われないように私がそのまま結婚する気で転生しました、なんて事も言えませんし。
(結婚……)
前世の記憶を思い出した今となっては余り惹かれない単語ですね、結婚。不老不死になったので一般の方との結婚は悲しい未来しか想像できません。置いていかれるのはちょっと勘弁して欲しいところです。見た目的にも寿命的にも。
私の思考はいつの間にか自己嫌悪から結婚についてにシフトしていました。
攻略対象キャラに不老不死の方はいませんし、今親交がある男性はみんな人外なので結婚という概念はあまり無さそうな気もします。イグニスさんやシェルさんには番だとか嫁だとか言われましたけど……。
だめですね、朝起きて隣に馬が寝ているとか、硬い鱗の上で起きるとか考えたらゾワっとします。
そうそう、クズハさんが帰られてからもアオイさんはうちによく遊びに来てくれます。そして裏の畑を整えてくださったり、庭仕事を手伝ったりと小まめにお世話を焼いてくださります。
曰く、クズハさんと再会できた恩を返したい、との事で……ありがたいんですが、小間使いのような事をさせているようで何だかなぁと思ったりも。
そうそう、アオイさんは一仕事終えると狼位のサイズになって私の足元で寛いでいらっしゃる事も多いんですよね。邪魔じゃないですし、夜なんかは足が暖かくて嬉しいんですが、それについては理由を教えてくれません。昼夜問わず(寝る時はさすがに一人ですが)そばにくっつかれている状態です。
どうにもイグニスさんとシェルさんが一枚噛んでる気がするんですよね。イグニスさんも最近はうちに入り浸りですし。シェルさんと喧嘩もせずに仲良くコソコソ話したりして。時々どこかに行かれてるんですが、私は私で庭仕事や調薬などする事があるので詳しくは聞いていません。
さて、そんなことを考えている間に村に卸す薬もできました。夜も更けましたし、お風呂にして明日届けにいきましょう。
そんな時でした、控えめに家のドアをノックされたのは。足元で丸まっていたアオイさんが立ち上がって人型になります。出てくださるようなので、私は薬をバスケットに【収納】して、シェルさんに来客を告げに行きました。
こんな夜更けです。村の人が急に具合が悪くなったのかもしれませんし、気持ちを落ち着けるカモミールのハーブティーの準備をお願いしました。
「たぶん、お茶は必要無いかと思います」
「でも……」
「とりあえずご一緒にリビングに参りましょう。トカゲも居ますね?」
たしかに、調薬してる間ずっと側にイグニスさんは居ましたけれど。
なんでしょう、何か嫌な予感がひしひししてきました。
「シェルさん? 何かしたんですか?」
「えぇ、まぁ。大丈夫です、マリー様には指一本触れさせませんから」
「……一体何が……」
私は怯えながらリビングに戻りました。
そして目玉が落ちるのでは無いかという程、驚いて目を見開きます。
「どうして……」
茫然と呟いてしまいました。
そこには、ここに居てはいけない方がいらっしゃいました。アオイさんが背後から、イグニスさんが前から睨みを利かせているので、その方は立ったまま居心地悪そうにしています。
「どうして、ここに……カルロ様……」
そこには私の元・婚約者であるカルロ様が立っていました。
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