第9話 近所のドラゴンスレイヤー

 翌日、私は朝日と共に目覚めて、神様セレクトの機能性の高いワンピースを着て村へとお出かけする事にしました。意外にお洒落ですが、これならその辺の村娘感もあります。似た様な服が沢山増えていたのでヘビロテしましょう。ドレスからは目を逸らしています、今の私には必要無いものですので。


 朝ご飯には昨日の残りのシチューとミートパイをいただきます。温かいものが温かいままというのはいいものです。冷たいものは冷たいままですし。【収納】魔法はこの世界における冷蔵庫、保温室、何と言い表していいか分かりませんがとにかく便利です。


「ごちそうさまでした」


 食器を洗い、バスケットに銀貨を何枚か入れて出発です。といっても目視できる距離なので、目と鼻の先という感じなんですが。


 村までの道も多少草が生えていますがありました。この道を辿って行けばすぐですね。


 いくら不老不死とは言っても運動はしなければ。不老=太らないでは無いのです。あと、学園では広い構内を歩いて移動が基本だったので歩かないと鈍りそうです。色々と。


 そんなこんなで村につきました。すれ違う人たちは余所者の私を不審そうに見てきます。


 さて、どうしたものでしょう。近所に引っ越してきたのですし、村長さんにご挨拶をすべきでしょうか。


 とりあえず買い物は後回しにして、一番奥まった所にある立派な家の門戸を叩きます。


「すみません、どなたかいらっしゃいませんか」


 そうして声をかけて暫くすると、家の扉が開きました。私服姿の使用人さんの様です。


「初めまして。先日近くに越してきた、魔女のマリーと申します」


 この方が通りがいいだろうという事で、私は略称で自己紹介をしました。


 すると使用人さんは驚いた様な顔をして、慌てて奥へと引っ込んでいきます。ドアは開きっぱなしなので入ってもいいのでしょうか。


 悩んでいるうちに、杖をついた禿頭のご老人がやってきました。たぶんこの方が村長さんですね。


「貴女が……噂の……」


 噂? 何の事でしょう?


「ドラゴンスレイヤーのマリー様ですか……」


「違います」


 ドラゴンを殺してません。助けはしましたけど。


「しかしあの山からの咆哮が消えたのは、あのボロ家が魔法の様に直った日からですし……殺したのではないのですか?」


 目と鼻の先ですから家が直ったのも見られていたんですね。


「あのドラゴンは毒に苦しんで叫んでいただけなんです。それを治療したので鳴くのをやめただけですよ。私は魔女のマリーです、これからお世話になるので挨拶に来ました」


「おお、おお……ドラゴンを治す程の魔女様が……あれから村人もよく眠れる様になりました。ありがとうございます」


 やっぱり昼夜問わず鳴いてたんですね。多少距離があるとはいえ、不眠症に陥った方も多かった事でしょう。


「魔女様にお願いがあるのですが……」


「はい、何でしょう」


「ドラゴンをも治す手腕を見込んで、今後この村に薬を卸していただけないでしょうか?」


「お安い御用です。簡単な薬なら明日にでもいくつか持ってきますし、病人や怪我人が出たら呼んでください」


 ご近所付き合いは大事です。前世の私はそんなものとは無縁でしたが、今回の一人暮らしは会社という社会との繋がりすらありません。この村とのお付き合いで社会性を保つのです。


「ありがたや……もちろん、それなりに謝礼は払います。どうか長いお付き合いをしていただけますと……」


「私も、この村で野菜の苗や肉や家畜を譲っていただきたいと思っていたので、今後ともよろしくお願いします」


 こうして村長さんと握手を交わすと、その様子を背後から覗いていた村人さんたちの視線が変わりました。良い方に。ドラゴンスレイヤーだと思われていたから不審そうに見られていたんですね……。

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