第354話 ソードの小さいころ
パーシャさんが今度はやってきた。物語の続きが聞きたいそうだ。えぇー……。
「復讐劇になるが……」
「構わない」
パーシャさんが力強くうなずいたが、ソードが慌ててやってきて阻止した。
「ダメだ! 俺の名前で語るなよ!」
「大丈夫だ、ここからはほぼ出ない」
「ほぼ、じゃなくて、出すな! っつってんだよ!」
なんでそんなに嫌がるのだ。そこまで変わった名前でもなし、同名の他人とでも思えばいいのに。
「お前の話じゃない」
ソードにそう言ったら。
「俺の生い立ちに似てるから嫌がってんだよ!」
とか言い出した。マジですか。本日二回目。
ソードを見たら、そっぽを向いた。
「…………俺も、小さい頃に両親が亡くなって、親戚も近くにいない村にいたから、村の連中が外れにある小屋に押し込めて、食い物を恵んでもらう代わりに村の雑用をやらされてた」
重い話をし始めたぞー。
そしてパーシャさんの瞳が輝きだしたぞー。
「大丈夫だ。その前フリはな、意外とよく使われているのだ。物語の主人公はそういう目に遭ってたりするのだ」
「だから、俺は違うって!」
さすが真の勇者称号を持つ男だな。生い立ちがいかにも物語の主人公っぽいぞ。
「まぁまぁ。それもまた、勇者の成長を促すための試練の一つだ。乗り越えたからこそ今のお前がいるのだ。そして、物語としてはありふれた定番ネタです」
「……定番ネタ……」
ソード、がく然とした。
パーシャさんは、私の方の話をまず聞きたいと言ったのでソードががく然としているうちに語った。
――復讐に燃えるインドラ。
リョークのゴーレム核(魔法陣と魔石)を取り出し、ソードに移植。ソードをゴーレム化して操り、父親を何度も何度も襲わせ、でも殺さずにおいて精神的に追い詰める。
精神的に追い詰めた父親を言葉巧みに操り、重税を課し修繕や福祉の寄付をいっさい行わず荒廃させ、町の住民を苦しめた。町を出て行こうとした住民は、ソードを操って血祭りに上げ見せしめとして目立つ場所に磔にした。
ソードの呪いだと皆が脅える。
「今度追い詰められていくのは町の住人と父親なのでした……第二部完」
語り終えたらパーシャさん、うずくまって耳を押さえて震えていた。怖かったらしい。だから言ったのに。
ソードは自身の話を語りたくないからか、その隙に逃げ出していた。
ソードを探していたら次はドゥーリさんが現れた。もう、嫌な予感しかしない。
「さぁ、歌姫よ! 歌い踊ってくれ!」
ジト目でにらんでやった。
「初っぱなから思っていたけどな、なにゆえに主賓がお前たちをもてなさなければならんのだ?」
疑問形式の苦情を述べた。
笑顔のドゥーリさん。
「細かいことは気にするな!」
朗らかにのたまった。もうやだ。
ソードも巻き込む。やつにだけ楽などさせぬ!
逃げていたソードを捕まえ、打ち合わせして、カンフーの演舞を行うことにした。
別世界の知識ではカンフーの演舞の知識はないのだが、映画は観たことある! ので、魅せる演技! を教え込んだ。
ソレっぽい曲をギターで録音。
場を円形に空けてもらい、タブレットにて音楽を流す。
……早くリョークの体を作らねば。
ソードの、さみしそうにタブレットを見つめる顔を見てよりそう思った。
ソレッぽい組手を行う。魅せるためなので、スピード出すなと言ってある。
言ってあるのに、かっこつけた私の挑発手招きポーズに挑発されるソード。
そのスピードで本気と書いてマジと読む攻撃するのやめろ。
これは、ダンス!
最終的に私が「……ソード! 真面目に踊れ!」と怒鳴り、ソードがやっと気づいた。
「あ、そういやダンスだったな」
ダンスがダンスじゃなくなったので、しかたないから結局リュートを弾いて歌ったよ。
魔族はおっきな子供だからね。童謡が良いだろうと【十人の魔族】とか、【魔王の数え歌】とか替え歌で歌ったよ。
リョークがいればもっと盛り上がるのになぁ……とさみしくなったので切り上げた。
――かわいいゴブリン亜種と戯れていよう。魔族にかかわるといろいろやらされるからヤダ、と逃げようとしたらオーガに通せんぼされた。
「我が名はヤシャ! 魔王国騎士団副団長なり!」
ジト目で見てやった。
「手合わせを……」
「それ以上絡むと頭を胴体から切り離すぞ」
私が不機嫌に言うと慌てて手で制してきた。
「待て。待ってくれ。……其方がラセツに鎧の下に着る服を贈ったのだろう?」
うん? 戦いたいんじゃないの?
キョトンとしたら、ヤシャがせき払いした。
「…………そのー、私は、今回、騎士団長とラセツの不在による魔王国の警備を行っていて、其方たちとの戦いに参加出来なかったのだ」
そうだね。いなかったっぽいね。
「そもそも、ラセツと私は同じ副団長。どちらが騎士団長の供についても良かったのに、じゃんけんで負けてしまったのだ!」
へー、あるんだ。じゃんけん。
「それも悔しいのに、ラセツが自慢してきたのだ! 其方に、鎧の下に着る『見えないオシャレ』とやらの服をもらったと!」
うん、わかってきた。
「つまりはヤシャちゃん、君もほしいんだな?」
ズバリ尋ねたら、急にモジモジしながらうなずいた。
――魔王国の騎士団は、女性で構成されているらしいね。
……そうして私は主賓なのに料理を作らされたり、物語を話し聞かせたり、歌い踊らされたり、服を作らされたりしたのだった。ムキー!
「もう、コイツらの宴には参加しない」
宣言したら、ソードに苦笑されて頭をなでられた。
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