第346話 くっころせの意味とは

 ……などと会話している間に勝負が決まった。

 ソードが、ピタリとクーラさんの首筋に剣を当てた。

「……死んでも復活するんだろうが、あんまりとどめは刺したくないんだ。降参してくれ」

 クーラさん、潤んだ瞳でソードを睨みながら唇をかみ。

「……くっ、殺せ!」

 とか言いだしたぞ!

 ソードはそんなクーラさんを見て、フッと笑って剣を収めた。


 え? コッチでもそういう意味なの? 子どもは見ちゃいけませんの展開? そして魔王様は見ているぞ。


「ソードよ。クーラさんの言葉は『イヤラシイコトをしてください』の意味で合っているのか? そして、ソードが剣を引いたということは合意したという意味だよな? 私は席を外したほうがいいか?」

 ソードに尋ねたら、二人が般若みたいな顔してこちらを見た。

 あ、ついでにソードは収めた剣を再び抜いて私に向かってきたな。

「……インドラぁあ! テメェさっきからいい加減にしろゴラァ! 何ふざけたこと言い出してるんだお前たたっ斬るぞゴラァア!」

 あらら。ガチで怒っちゃったよ。

 ソードの剣を躱しつつ、なだめに入る。

「今のクーラさんのセリフは、そういう意味なのだろう? 別世界ではそうだった」

 あ、クーラさんも剣を構えて追いかけてきた。

「そんなワケなかろうがぁああ! 私を愚弄するなぁあ!」

 二人に追いかけられまくった。

「まぁまぁ落ち着け。私の常識ではそうだったんだ。そのセリフを言うと、言った相手にイヤラシイコトをされるのだ。ちなみに、その言葉を言う女性騎士を『くっころ』さんと言う」

「テメーの常識は常識じゃねーんだよゴラァ!!」

「ふざけるなぁ!! 貴様、私とラセツを虚仮にするのも大概にしろぉお!」

 それからずっと追いかけっこ。二人の剣を躱しつつ走り回っていますよ。しばらく攻防が続き、くっころ……じゃなかった、クーラさんは疲れ切って途中でダウン。

 ソードはまだ追いかけ回してくれてるけど、途中でパリィ始めたら大変なことになった。延々互いにパリィですよ。途中でミニミニ鎧騎士クン一号が遊んでいると勘違いして槍を振り回しながら割って入ろうとしなかったらずっとやっていたかも。


 私はソードをなだめるために言った。

「アマト氏に聞いてみろ。スカーレット嬢も、もしかしたら知ってるかもしれんが……いや、知らないか。彼女の叡智は特殊だからな。正直、私も彼女の叡智は持ってないのでその辺はスカーレット嬢から直接得るといいぞ」

「いらない知識を植え込むんじゃねーよ!」

 とか言いつつ早速タブレットを出して問いただしている。

『うわー! 生くっころか! 聞いてみたかった!』

 とは、アマト氏。

『知ってることは知ってますけど、あまり詳しくはありませんわ。確かエルフ騎士とオークの話でしたかしら?』

 意外にもスカーレット嬢、ご存じでした。……ちなみに、そのエルフ騎士のことを美青年だと思っていないよね?

 ソードが考え込んだ。

『それって、俺が彼女をどうにかするって話?』

『まぁ、そうかもねー。女騎士が敵に捕まったときに言う決め台詞。でもって、「その前に楽しませてもらうぜ」って流れだねー』

 アマト氏からそれを聞いたソード、がく然としながらこちらを見て言った。

「……ホントだった」

「何がだ」

 私、嘘なんてついたことないよ。……ちょっとばかり説明を端折っているけれど。

「別にお前をからかったわけでも騙すつもりもない。ただ、私の知ってる物語の台詞にあって、ソードが笑って剣を収めたのでそういう大人の展開になったのかと気を利かせただけだ」

 その言葉でソードはようやく落ち着いた。……いや、アマト氏から『ソードさんが言われたんだ! どんな状況で言われたの?』って興味津々メッセが届いたからかもしれない。

 ここで『女騎士の首に剣を突きつけ降参しろってかっこつけて迫った』なーんて送った場合、なんと言われることやらと考えたのかもね!

「だから、お前たちは気を散らしすぎだ。大したことなど言ってないのだから、いちいち気にするんじゃない」

「「大したことあるわ!」」

 同時にツッコまれた。


 疲労困憊から復活したクーラさんはようやく負けを認めた。

 途端に宝箱がドンドンドンドン! と現れる。

「魔王様を侮るなよ!」

 とか、渡されるときにクーラさんに言われましたけど。

「侮ってなどいないだろう。私はダンジョンコア様にはきちんと礼を尽くしてるぞ」

 私が口をとがらせて抗議したら、クーラさんがひるんだ。

「そ、そうか。ならいいのだ」

 クーラさんは慌ててうなずいて、せき払いした。

「…………ダンジョンコア様? と言ったか?」

 クーラさんの問いに私はうなずく。

「確証はないが、そうであろう? 人ではない雰囲気だったものな。まぁ、ラスボスにしろダンジョンコア様にしろ、私よりも魔素をまとっている生物にはじめて出会った。お会いするのを非常に楽しみにしている」

 クーラさん、私とソードをじっとにらむと、ぷい、と顔を背けた。

「…………簡単に死ぬなよ?」

 なんと。ツンデレか。

 ソードと顔を見合わせて、笑った。

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