第311話 とんでもない人間に拾われた
〈???〉
俺はぼんやりと目を開けた。
……ここはどこだろう?
暗く、冷たい場所だ。
手足が動かない。いや手足だけじゃなく、身体全体がだ。
……そうだ。そういえば砂漠を横断中に、とうとう倒れたのだった。
埋もれて死んだのだろうか。それとも、生き埋めになったのだろうか。
――まだ死んでいないにしろ、生き埋めならじきに死ぬな。
ここまでか……。そう考えていたとき、
『あ、目を覚ましたようだぞ? 死ぬかと思ったが思いのほか生命力があるようだ』
そんな言葉が聞こえてきた。
*
治療用カプセルを開けると、砂漠で拾った男が驚いたような表情でこちらを見た。
スミス君に似た外見なので、魔族かな? 夜空の髪に赤い瞳、おまけに美形。
「ふむふむ。気分はどうかね?」
そう尋ねたら、魔族の男がぼんやりと辺りを見回した。
「……ここは、どこだ?」
私の質問に答えてくれない。
「まぁ、気分が優れなくてもしかたがない。すぐには良くならないかもしれないし、そのまま死ぬかもしれない。ただ、吐き気がある場合は言ってくれ、そのポッドを汚されると嫌だ」
「…………」
気にせず話を進めたら、魔族の男も「質問に答えてくれない」と思ったらしい。
「……吐き気はない。身体が動かないのだが」
魔族の男がようやく私の質問に答えてくれた。
私はうなずいて説明した。
「脱水症が完治しておらず、まだだるいのだろう。そのうち水分が行き渡れば動くようになる。――あ! 尿意もしくは便意を催した場合は言え! そのままされると嫌だ! お前を丸洗いするぞ!」
「…………」
魔族の男が半目になったよ。
「わかった、ちゃんと言う。で、ここはどこだ?」
「私の作った多脚キャンピング戦闘ゴーレムの、そのまた中の、治療魔道具の中だな」
教えたら、魔族の男の目が点になる。
私は現状を説明してやった。
「お前が行き倒れていたのを私たちが奇跡的な確率で通りかかった。死体がアンデッドになるところを観察したかったのだが、残念なことにまだ生きていたので拾って渋々ながら治療したのだ。治療の甲斐なく死亡したならまた外に出してアンデッドになるか試したかったが、これまた残念ながら意識を取り戻してしまって、今ココだ」
魔族の男は説明を聞くと、口を開けて私を見た。そして、険しい顔をして私に吐き捨てた。
「……礼など言いたくなかったが、言わなくていい感じだな」
「うむ! この治療用〝カプセル〟は、私の相棒が大変な怪我を負ったり意識不明の病気になったりしたときに使うために作ったのだが、なんせヤツは頑丈でな! やすやすとは倒れないし、そもそも怪我すら負わない。ぶっつけ本番で試すことになるかと思ったが、折良くお前で実験が出来たので、礼は不要だぞ!」
私が意気揚々と答えたら、ソードが私の後ろで額を手で打って天を仰いでいる。
魔族の男は呆れたような、怒ったような表情をして、顔をしかめつつ目をつぶった。
「それなら安心した。『俺を助けたことを後悔するんだな』ってセリフも言わずに済みそうだ」
さっきから、なんともクサいセリフを言うなぁ。私もそういうセリフを返さないといけないのかな?
「カッコつけたいのならば言っていいぞ? 私も『フッ、別に助けたワケじゃない、落とし物を拾っただけだ』ってカッコつけて返してやるぞ?」
私の言葉を聞いた魔族の男は、むっつりと黙った。
*
〈???〉
とんでもない人間に拾われた。
なんだコイツは?
突拍子もない話をするし、自分を魔族だと気付いていないのか、まるで警戒していない。
……まあいい。むしろ好都合だ。とんでもなかろうが、コイツのおかげでなんとか使命を果たせそうだ。
砂漠のどこまで来たのか、そして一体ここはどこなのかわからないが、とにかく砂漠を抜けてどうにか人間の町までたどり着かなければ……。
荷物がどうなったのかもわからないが、取り戻さねば。
――荷物にある変化の魔道具で人間に化け、人間の町に潜入する。
最悪は魔術でごまかすが、そうなると人目のある場所ではずっとかけ続けねばならない。潜入が厳しくなる。
……他の仲間は、恐らく死んだのだろう。最後まで残って進んでいたのは自分だけだった。
後ろをついてきていると思いたかったが、話し掛けても答える声はなく、足音も聞こえなかった。
振り返るのが怖くてずっと歩いてきた。
そうして、俺も倒れた。
俺はたまたますぐに発見されて、治療されたのだろう……。
「……なぁ。俺が倒れていた近くに、他に誰かいなかったか?」
俺は閉じた目を再び開き人間に聞くと、二人は顔を見合わせた。
「私には見えなかったな。ソードはどうだ?」
背の高い人間の方は気の毒そうな顔で俺を見て、首を横に振った。
「……俺も、連れがいるかもとは考えた。あちこち見て回ったけど……悪いが発見出来なかった。さっきから風が強く吹いていて、地形が変わっている。……お前の仲間は埋もれて、もう見つけられないと思う。正直なところ、お前を発見したのも奇跡みたいなもんなんだ」
俺はまた目をつぶった。
「……そうか……」
しかたがない。俺も他の連中も覚悟して、この砂漠を渡った。
そして、俺が助かったのは奇跡だったのだ。
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