第307話 水質調査承ります
気を取り直したソードが周囲を見回す。
「Sランク冒険者パーティ【オールラウンダーズ】だ。ま、この砂漠の町で俺の名前知ってるやつはいないと思うけど、冒険者ランクがSってのはわかってくれるか? わからないなら簡単に説明すると、ほとんどの事で優遇されてる、って意味。んでもって、商人ギルドなんざ目じゃねぇ、って意味でもある。もっと言うなら、王族だって目じゃねぇ、って意味でもあるかな」
珍しく、ソードが王にだって逆らうということに肯定してきたので、うなずいた。
「例えば、せっかく納品した樽を破壊しようとしたという咎で私がお前等を拷問の末惨殺してもまったく問題ないということだ。実際やってみせて証明してもいいぞ? ……興が乗ってきた!
憂さ晴らしに使おう!
意気揚々と向かっていこうとしたら、ソードに襟首をつかまれた。
「わかった。ごめんなさい。俺が悪かったから、やめてあげようね?」
ジタバタしている間に、商人らしき人間とその手下が慌てて逃げていった。
「ソード! 怒るぞ!」
「だから謝ってるだろが。ホラ行こうぜ?」
ようやく振りほどいた。
「いーやーだ! ここでトラブルが起こらないか見張る!」
腕を組みあぐらをかいて断固拒否してやった。
……だけどもその後はトラブルもなくつつがなく終了。
ぶっすー。
膨れていたらソードが私を脇にかかえた。
「すねるなって。ホラ行くぞ」
なんで荷物抱きにするんだ!
そしてちょっと待って。依頼があるかも知れないのよ。
私はギルドマスターに聞いた。
「水質調査はどうする?」
「よろしく頼む。どれくらいかわからんが、原因が分かるなら金貨百枚でどうだ?」
太っ腹だー。
「うむ! では、水質調査を行う!」
「水質調査?」
ソードが疑問の声を上げた。
「湖の水を飲むと腹を壊して下しながら死ぬらしい」
「何ソレ怖い。じゃあ行こうぜ」
私を脇にかかえたまま湖に向かった。
湖にやってきた。
ソードが湖をのぞきこみながら言った。
「綺麗な水に見えるけどな?」
確かに。緑色してない。澄んだ透明な水だ。
「ふーむ。濁りもない。砂漠の湖を他に知らないからなんとも言えないが、砂浜が続く水は透明感が高いと聞くしな……」
一概には言えないが、この状態は毒素が繁殖していない気がするけどな?
植物は、いかにも「暑くても水が少なくても生きていけます!」といった感じの植物だ。
椰子っぽいのとかがある。
辺りは砂だけじゃなく、土のような状態の所もあった。
鼻先が触れるほど湖に顔を近づけて至近距離で見ても、綺麗な水だ。
水を汲んで、魔素解析してみた。
「水質は中性、水中のプランクトン率は低い、有害菌率も低い、有毒成分なし」
うーむ、飲用出来ます。
「飲んでみるか」
「おい! 大丈夫なのかよ!?」
ソードが慌てている。
「私は大丈夫だろうが……飲んでも影響ないと飲む意味がないか。ソード、飲んでみるか?」
ソードから拳固が落とされた。
湖を一周した。
水上ボードで疾走する。
すごく綺麗な湖だな。
こないだ行った湖に匹敵するレベルでの透明度だ。
普通は濁るはずなのに、なんで透明なんだろ? この世界の湖って透き通ってるのがデフォ?
プランクトンとか土とかで濁らないんだろうか。
「ソード。この世界の川や湖は、どこもこんなふうに綺麗な水なのか?」
ソードがキョトンとした。
「そうなんじゃねーか?」
つまり、ソードは濁った水を見たことがないんだな。
「普通、雨が大量に降ったり川の流れが激しくなったりすると、土砂で水が茶色く濁る。ずっと溜まっている湖は、水中植物が繁殖して緑色に濁る。さらに、それを食べる水中に生息する生物が糞で汚して有害成分が含まれる」
私の話を聞いたソードがしかめっ面をした。
「こっちではスライムが食べるから。スライム、糞出さねーし」
なんと! 私は感動した。
「そうか! スライムはすごいな!」
だから濁らないのか! 素晴らしきかなスライム!
「じゃあ、この湖にもきっとスライムがいて、それが掃除してくれてるんだな。なんていい子なんだ~。お目にかかりたいな」
ウキウキしてつぶやいたら、フラグだった。
「お目にかかれそうだぞ?」
ソードの索敵センサーに引っかかったらしい。
私とリョークにも見えた。湖の底に巨大な物体がある。
「おぉお? なかなかにデカいな! お前、言葉が分かるか?」
巨大な物体に話しかけてみた。お、わかるっぽい。
「わかるみたいだな」
ソードが言った。
ソード、お前もな!
「そうか、お前がこの湖の主か」
肯定の思念が送られてきた。そうらしい。
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