第308話 湖の主と会話をしているよ

 湖の主から話を聞いた。

 ……どうやらここは、古代遺跡らしい。

 このオアシス全体、高い壁に囲まれた地帯がそうなのだと。

「あの建物は、古代遺跡なのか! それは本当に世界遺産だな! ……もしや、この湖もか!?」

 湖の主に尋ねたら、そうだとのこと。


 大昔はもっと肥沃だったらしい。――が、古代人が滅び、都市だけ残り、湖の主はずっと湖を守り続けた。

 湖は、複数の水を生み出すアーティファクトによって形成されている。古代人が滅びる前は、あちこちにそのアーティファクトがあったそうだ。

 現在はこの湖のみで、しかも、いくつか壊れてしまって湖の形成維持が困難になってきた、とのことだった。

 一時期、水位が下がりすぎてアーティファクトが警告を出し、それからは少しずつ復活してきているそうだ。

「……その警告が、『飲んだ者に腹下しの呪いを与える』のか」

 すっごく嫌な呪いだな!

「うわ、すげーな古代人。警告のしかたがこえーよ」

 ソードの意見に同感だ。


 私はちょっと考えた後、湖の主に伝えた。

「……教えてくれた知識に対価を払いたい。調査をしてみないとなんとも言えないが、私ならばそのアーティファクトを修繕または新規に作ることが出来そうだが、お前はそれを望むか?」

 ソードが私を感心したように見た。

「お前って、本当に知識に貪欲で、しかも敬意を払うよな」

「確かにそうだが、この湖の主は、古代人とリアルに知り合いだったんだぞ? すごいと思わないのか? 当時の話を実際見聞きして体験してきた『歴史』が、この湖の主なのだ。私としては、この世界の摩訶不思議さに感動するぞ」

 ソードが冷めた声で私に返した。

「フツーなら会話出来ねーよ。お前だから会話出来んだよ。つまり、摩訶不思議なのはお前」


 …………無視!


 湖の主は、直してほしいと言ってきた。

 壊れていくのはしかたがないけど、直せる者が現れたのなら直してもらう、といった達観した考えをしていた。

「ふむー。やはり永く生きていると、そういった達観した考えを持つのだな。わかった、直してみよう」

 私がそう言ったら、湖から弾丸のごとく何かがこちらに飛んできた。


 ぴょーん。


 掌で受け止めると、透き通った透明の水饅頭みたいなスライムがぷるぷるしている。

「むふ~」

「…………なんか気持ち悪い声が聞こえてきたんだけどよ?」

 ソードが嫌なものを見るみたいな目で見ているんだけど!

 だって、超かわいいじゃん!

 スラリンとは違って透明ぷるぷるだよ?

 スラリンは、サイケデリックでろ~んだけど、コレは透明ぷるぷるだよ?

「お前こそ、魔物をはべらせてんじゃねーかよ。スラリンがすねるぜ?」

「愛でているだけだ!『かわいいは正義。』なのだ!」

 ソードに言い返して、も一度見たら、ぷるぷるぷる。

 かーわーいーいー。

「……分裂体か? 離れても平気か? 一緒に旅しないか? ご飯は何を食べるんだ?」

 スライムに向かって話しかけたら、ソードがおびえたような声で私に向かって怒鳴った。

「怖い怖い怖い、お前、怖い! 気持ち悪い声と顔でスライムを愛でるな!」

 うるさいっ!


 湖の主から、アーティファクトの場所まで案内させる分裂体だが、連れて行ってもいい、と言われた。

 わーい!

「かーわーいーいー」

 すりすりしたら、ソードが顔をひくつかせてドン引きした。


 アーティファクトを見に、命名【プルリン】に案内してもらう。まず、無事なアーティファクトを見せてもらうことになった。

 トプン、と湖にプルリンと一緒に飛び込む。そして湖の底まで潜っていった。

 アーティファクトは、かなり潜った湖底の石が埋め込まれている部分に書かれていた。ふむふむ。

 パシャリ。

 タブレットで写真を撮る。

 横を向いたら、ソードも潜ってきていたよ。前に作ってあげた水着に着替えていた。しまった、私もせっかくだから水着を着れば良かったな。普通に潜っちゃった。

『なんかわかったか?』

『複雑な魔法陣だな。ただ水を出すだけではなく、他と連携させているようだし、ある一定のパターンになると違う魔術が作動するようにもなっているようだ。完全に真似することも出来るが……。他も見てみたい』

 プルリンに伝えると、他の所にも連れていかれる。


 あちこち移動していたら、ソードが私の肩をトントンたたいた。

『……ちょっと、お前、魔術で呼吸をどうにかしてるだろ。俺にもやってよ』

 パチクリ。私はソードを瞬きしながら凝視した。

『お前は独自にどうにかしてると思ってたぞ?』

『俺は普通の人間だから! 出来ないからやって! 息を止めてるんだから! ちょっと限界!』

 こんなに長く息を止めていられる人間がフツーとか言ってますが……。もう三十分以上は潜っているんだけど、なんで息が続くの?

 私は慌ててソードを空気で包んだ。ソードが膝に手をついて深呼吸をしている。

『普通の人間は、これほど長く息を止めていられるのか? 私は無理そうなんだが』

『お前は無呼吸でも生きていけるはずだけど、俺はこんなもん』

 って返された。

 ソードは私を宇宙生物とでも思っているのかな?

 ソードこそ、鯨とかアザラシとかじゃないの?


 全ての現状を確認し、どうにかなりそうなのがわかり私はうなずく。

『いったん戻って魔導液を作って戻る。……の前にソード、復元魔術とやらで直せないか?』

 ソードが首を振った。

『時間が経ちすぎてると無理なんだ。俺や血みどろ魔女でも、一時間がせいぜいだ』

 時間巻き戻し魔術!?

 すごいなやっぱりソードは。

 驚いて感心したが、ソードは苦笑して空気を指さしながら言った。

『そんな俺や血みどろ魔女でも、この魔術は使えないけどな』

 水と魔素を空気に変換して包んでいるのよね。

 そんなにたいした魔術でもないけれど、ソードにはこっちの方がすごいのか。


 浮上して待機しているリョークのところに戻る。

「リョーク、シャールを出してくれ」

 頼んだら出してくれた。

 うーむ。

 湖のほとりにシャール、というのも絵になるなー。

 ……って、見とれていないで魔導液作成。

 残っている魔導具をサーバとして、私が作るのはクライアントにしようか。

 で、サーバ魔導具を強化して、クライアントは自動修復するように作った方が楽だな。


 クライアント魔導具とサーバ強化魔導具を作り、湖に戻ってセット。

 お、すごい勢いで湖のかさが増していくぞ!

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