第305話 乾いているわね

 ギルドは、やっぱり砂で出来ていた。しかも芸術的だ。

「うむうむ! 情緒があるな!」

 建てた人、わかってるぅ!

 タブレットで写真を撮り、アマト氏とスカーレット嬢に送った。

 即レスで、

『世界遺産!?』

 って、同じことをよこしてきた。

 ソードが私のタブレットをのぞき込む。

「そーやって使うのか」

「まぁな。お前もベン君にでも送ったらどうだ?」

「考えとく」

 と、ソードが答えた。

 考えるのか。

 考えるものではないが、まぁ、考えたいなら考えるといいよ。


 ギルドの中に入ると、比較的涼しい。砂で出来ているからだろうか。

 役人の人が知らせてくれたらしく、受付嬢に話しかけようとしたらすぐにギルドマスターらしき陽に焼けたたくましい男性が現れた。いかにも砂漠の戦士! って感じだな。情緒にあふれている。

「私はこの町のおさで、ギルドマスターも兼任している。水を売ってくれるのだと聞いたが本当か?」

 …………。

 ソードと顔を見合わせた。

 まず、水の話からなんだ。これはまた乾燥してるなぁ。

「うーむ、私が魔術で水を出すのだが……。石や炭はないか? 私の作り出す水は純水と言われるものでな、空気を魔素で合成して出すのだが、純水とはおいしくないのだ。石や炭を入れるとおいしくなる……」

「美味さなどどうでもいい。飲用出来る水が出せるのか? 水魔術はこの町では皆使える。使えなければ生きてはいけないからな。だが、飲める水など作れないぞ」

 ギルドマスターが私の言葉を遮って聞いてきた。

 ソードがひらひらと手を振った。

「そこは安心しろ。俺もコイツの作る水を飲んでるし、関所通るときに役人の持ってる水甕にも入れてきたが、飲めなかったって連絡は来てないだろ?」

 ギルドマスターがうなずいた。

「では、売ってほしい。いくらで売るか?」

 トントン拍子で話が進んでいく。が、ここで止まった。

 …………相場がわからない。

 ソードも黙ったままなので、しばし悩んだ末に私は答えた。

「困っているのなら、魔石と交換してくれ。それを代金とする」

 ソードは肩をすくめ、ギルドマスターは固まった。

「…………そんなものでいいのか?」

 恐る恐るといった感じでギルドマスターが尋ねてくるので、まずかったのかな? とチラッとソードを見た。

 ソードが「お好きにどうぞ」と思念で返してきたので私はうなずく。

「私は、魔素や魔石を媒体にして水を生み出す。なので、そちらが水を必要とするように、私は魔石を必要とするのだ。いくらあってもいいのだ、いろいろ作れるからな! だから、魔石をくれ」

 ギルドマスターが超喜んだ。

 さっそく私を連行しようとするギルドマスターに、ソードが慌てる。

「あ、ちょっと待ってくれ。俺Sランクなんで、ギルドに顔出したら停滞してる依頼をこなさないとなんねーんだよ。なんかある?」

「ぬ? ……そうか、そういえばそのことも連絡が来ていたな。とりあえず急務は水だ! 停滞してる依頼は、水の確保だ!」

 ――だそうです。

 ソードを置いてきぼりにして、ギルドマスターは私をずるずると引きずっていった。


「どのくらい出せるんだ?」

 ギルドマスターが樽を私の前に運びながら聞いてきた。

「いくらでも出せるが、一箇所で出し続けると、空気がなくなるな。水は空気から作るからな。つまり、空気がなくなるまで作れる。ちなみに、空気がなくなると呼吸出来なくなって死ぬ」

 ギルドマスター、固まる。

「…………死なない程度に作ってくれるか?」

「了解した」

 砂漠だから風もあるしそうは死なないと思うけれど。

 今回出番なしのソードは、「ちょっと見回ってくる」と私に言い捨てリョークと遊びに出かけた。

 私は樽の前にあぐらをかく。

「ホントは炭とか石を入れておくとおいしくなるんだけどなー。そもそもココ、砂があるから砂を入れてもいい気がするなー」

 って言いながら樽に水を溜めていたら、

「全部飲めないだろうが」

 ってギルドマスターにツッコまれた。

 そういえばそうか。

「炭ならあるから後で入れておく。……不思議な光景だな」

 ギルドマスターが樽をのぞき込みながらつぶやいた。

 樽の中に粒子が集まり水を形成していく。いつの間にか満ちている、といった感じだ。

 たまった水を、ギルドマスターがさっそくくんで口に含む。

「!! 普通に飲めるぞ! というか、こんなに純度の高い水は飲んだことないぞ!」

 飲んだとたんに驚いて叫んだ。

「純水と言っただろう? 完全無欠の混じりけなしの水だ。普通の水は、何かしら混じっていて、それが逆においしさになったりもするんだ。炭や石を入れておくと、そこに含まれてる何らかしらの作用でおいしくなる、と言われている」

 私が説明すると、ギルドマスターが驚いて私を見る。

「なんでそんなことを知っている?」

 おおっとぉ。ソコに疑問を持っちゃう?

「私は、英知の持ち主なのだ! 五歳の時に英知を授かった。それにより、妙な知識を持っているのだ。ちなみに、勇者と言われる者もこの英知の持ち主らしいぞ」

 あいまいに回答してごまかした。

 そんな会話をしつつも、はい、二つ目の樽満了。

「ふーむ……。小僧は実はすごいやつなのか?」

 ギルドマスターに感心したように言われたが、とか言われてもうれしくない。

「小僧じゃないし、『実は』はつかないすごいやつだぞ!」

 ムスッとして言ったら笑われた。


 ギルドマスターが魔石を持ってきてくれた。

「今あるのはこれだけだな。クズ魔石もあるが……」

「クズ魔石ももらう。……そうだ、魔石を水に漬けるのもいいかもしれないな。おいしくなるかもしれないぞ!」

「いや、遠慮しておく。じゃあ、持ってくるから、もう二樽くらいやってくれないか?」

 ギルドマスターは即お断りし、頼んできた。

「おまけして三樽やってやるからクズ魔石も持ってきてくれ。ギルドで必要として残しておく分以外は受け取るから、魔石も樽も持ってこい」

 結構大きい魔石を差し出してくれたので、サービスしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る